2025年に入り、Tesla株は年初来で44.4%下落し、S&P500構成銘柄の中で最も低調なパフォーマンスを記録している。アナリストはその背景として、EV市場の競争激化や納車台数の減少に加え、米中貿易戦争の影響が深刻化している点を強調する。中でもGLJリサーチのゴードン・ジョンソン氏は、市場がTeslaの業績回復を織り込んでいる現状を「1930年代以来最悪の貿易戦争を無視した極めて危うい見通し」と断じた。
中国消費者の米国製品離れや、BYDの販売台数急増がTeslaの国際展開に影を落としており、特に欧州・中国市場での売上鈍化は深刻な業績圧迫要因となる。今後発表される第1四半期決算では、13%の納車減と予想EPS0.42ドルが市場をさらに冷やす可能性がある。こうした状況下で、Tesla株の予想PERは依然として95倍を超えており、かつての成長ストーリーがもはや現在のバリュエーションを支えきれていないとの指摘が相次いでいる。
米中対立の激化がTeslaの海外戦略に及ぼす構造的リスク

2025年の米中貿易摩擦の再燃により、Teslaの国際展開が重大な転機を迎えている。ドナルド・トランプ前大統領が打ち出した対中追加関税に対抗し、中国も報復関税を強化したことで、両国の経済関係は1930年のスムート=ホーリー関税法以来とされる緊張状態にある。これにより、Teslaが中国市場で依拠してきた現地生産モデルの優位性が揺らぎつつある。特に中国政府と国内世論が「非米国製品志向」を強めており、現地の消費者心理にも影響を与え始めている。
中国ではBYDが416,388台のバッテリーEVを販売し、前年同期比で38.7%増と成長を加速させている一方、Teslaは同期間の納車台数が336,681台にとどまり、前年を下回る実績となった。BYDが2四半期連続で世界EV販売首位を維持している現状は、Teslaの市場競争力に対する警鐘と受け取るべきである。特に中国と欧州という国際市場からの収益がTeslaの全体収益の半数以上を占めていることを踏まえると、海外売上の減退が収益構造全体を直撃する可能性は無視できない。
このような構図の変化に対し、一部の市場関係者はTeslaが貿易戦争の影響を受けにくいという前提を維持し続けている。しかし、現実として関税による部品価格の上昇や消費者嗜好の変化は避けがたく、従来の想定を根本から見直す必要が生じているといえる。
第1四半期決算とアナリスト評価が示すTeslaの現在地
Teslaは2025年第1四半期において約337,000台を納車したが、これは前年同期比で13%減となり、Tesla史上最大の納車落ち込みを記録した。市場予想を4万台も下回ったことに加え、EV市場全体では成長が続いている中でのTeslaのシェア低下は、業界構造の変化を端的に示している。アナリスト予想では、EPSが前年同期比6.1%減の0.42ドル、売上高は前年並みの215.4億ドルとされており、利益面でも減速が鮮明である。
GLJリサーチのゴードン・ジョンソン氏はこの状況を「市場が誤った回復期待を持っている」と批判し、Teslaへの「売り」評価を明確に示している。目標株価は24.86ドルと現在価格から大幅な下落余地を見込んでいる。対照的に、カントール・フィッツジェラルドのアンドレス・シェパード氏は「買い」評価を維持し、目標株価を425ドルに設定している。評価は分かれているが、両者とも短期的な業績リスクについては共通認識を持っており、投資判断が極めて難しい局面にあることがわかる。
また、TeslaはPER(非GAAPベース)で95.82倍と依然として市場平均を大きく上回っており、過去の成長率を基にした高バリュエーションが見直される可能性がある。ウォール街の2025年納車台数予想も当初の210万台から180万台へと引き下げられており、今後も下方修正が続く可能性には留意が必要である。
今後の鍵を握る新製品群と長期構想の成否
Teslaは短期的な不透明感が増す中、6月に予定されているロボタクシーのサービス開始や、2025年後半の低価格モデル投入といった新製品群の導入により、将来的な業績回復を図る構えを見せている。これらのプロジェクトが市場の期待に応える形で進展すれば、再評価の機運を呼び込む可能性がある。しかし現時点では、量産体制や規制対応など不確定要素も多く、過度な期待は慎重視されるべきである。
さらに、イーロン・マスク氏が「人類史上最大の商品」と称するヒューマノイドロボット「Optimus」への投資は、同社の長期ビジョンの中核をなす。しかしこの分野は技術的にも商業的にも黎明期にあり、具体的な収益貢献が見通せる段階にはない。長期では10兆ドル規模の市場創出を目指すとされるが、それには多額の先行投資と相応の時間が必要であり、株主利益とのバランスをどう取るかが課題となる。
これらの要素は、Teslaが単なる自動車メーカーから脱却し、エネルギー、AI、ロボティクスを含むテクノロジー企業へと転換を試みる中で避けて通れない分岐点である。市場が再び成長ストーリーに説得力を見出すには、実証的な成果が不可欠であり、それまでは高い株価評価を維持するのは困難といえる。
Source:Barchart