金先物6月限は3,442ドルを突破し、わずか数週で1オンスあたり300ドル以上の急騰を記録した。背景には、米ドル指数が97.92と3年ぶりの安値を記録し、米株主要3指数が過去最高値から20%以上の下落に転じた事実がある。
さらに、米国投資家がまだ本格的に金市場に参入していないという指摘がなされており、今後の参入が実現すれば一段高となる可能性も否定できない。一方で、市場が全員同じ方向を向く「ポセイドンのジレンマ」も示唆されており、天井圏の兆候と捉える意見もある。
目先の天井は不透明であるが、テクニカル分析よりも「トレンドを尊重せよ」という経験則が優位に働いている状況である。
米ドル安と株価調整が金価格を押し上げる構図

2025年4月21日時点で、米ドル指数は97.92と3年ぶりの安値を記録し、主要株価指数であるS&P500、ダウ平均、ナスダックも年初来高値から20%以上の下落を見せている。こうしたリスクオフの流れは、安全資産としての金に資金が流入する要因となり、6月限の金先物は前週比で113.90ドル(3.4%)上昇し、3,442.30ドルを記録した。直近数週間だけで3,000、3,100、3,200、3,300と節目を立て続けに突破するなど、価格の加速度的な上昇が続いている。
これに対し、一部では米国投資家が依然として本格的な金の買いに動いていないという見方がある。つまり、今の金価格の上昇は「序章」にすぎず、米国内のリテール資金が本格流入すれば、さらなる上昇が見込まれるという声もある。ただし、こうした上昇の背景には金市場そのものの熱狂的な期待が含まれており、テクニカルな指標が効きにくい地合いとなっている点には注意が必要である。
金価格の短期的な動きは、グローバル資産配分の変化に強く左右される構造を持つ。市場心理の反転や中央銀行の政策転換といった要素が加われば、現在のトレンドが一転する可能性も否定できない。投資家にとっては「暴走列車に乗るか、それとも見送るか」の選択が問われる局面にある。
「ポセイドンのジレンマ」に潜む集団心理の転換リスク
金市場が持つもう一つの特異性は、価格上昇局面での市場参加者の一方向的傾斜である。著者はこれを「ポセイドンのジレンマ」と表現しており、「皆が同じ側に立てば、船はやがて転覆する」という警句を引用している。この例えは、市場が熱狂に包まれると冷静な評価が失われ、転換点を見極めることが極めて難しくなるという集団心理の危うさを示している。
記事中でも示されたように、すでに多くの投資家が「金は上がる」と確信しており、Kitco Newsのアンケート結果でも価格下落を予想する声は限られている。このような状況下では、市場全体が盲目的な上昇トレンドを信奉し、冷静な分析よりも感情に依存した判断が支配しやすくなる。
ただし、歴史的に見れば、あらゆる上昇相場には終わりがある。筆者が「天井を予測するのは愚か」としながらも、調査機関による「2026年末に金が5,000ドルに達する」との見通しが流通していることを紹介しているのは、まさに市場が既に次の物語を求めていることの証左である。
一方で、価格がどこまで上がるかを論じること自体が投機的ムードを助長するリスクもはらむ。市場の転換点は、米国の個人投資家が金に本格参入する瞬間かもしれないが、それが「天井」なのか「次の始まり」なのかを判別するには、今後のマクロ指標や市場心理の変化を冷静に観察する視座が求められる。
Source:Barchart