米中対立の激化と輸出規制の直撃により、Nvidia株は過去最高値から35%以上下落し、H20チップの販売停止により約55億ドルの売上減少が見込まれている。こうした中、CEOジェンスン・フアンは北京を訪れ、中国政府高官と会談し同国市場へのコミットメントを強調した。この訪問は、DeepSeek社への違法輸出疑惑や市場成長鈍化の中で行われ、Nvidiaの今後のグローバル戦略の方向性を象徴する重要な動きである。
一方、フアン氏はAI事業におけるクラウド・企業・ロボティクスの3本柱戦略を再確認し、ブラックウェルGPUの圧倒的性能と需要を強調。AI分野での支配力維持に自信をのぞかせたが、競合の台頭や利益率低下への懸念も根強い。株価は現在PER22.8倍と過去平均を下回るが、アナリストの多くが強気姿勢を崩しておらず、目標株価は平均171.35ドルと、依然として上昇余地が示唆されている。
CEO訪中の背景にある輸出規制とNvidiaの中国市場依存

NvidiaのCEOジェンスン・フアンが北京を訪問したのは、米国政府によるH20チップの対中輸出制限が背景にある。このH20は、従来の規制に適合する形で設計された製品でありながら、新たな規制強化により販売が停止され、推定55億ドルの売上損失が生じる見通しとなっている。
フアン氏は訪中に際し、中国政府高官との会談を通じて、同国市場が同社にとって不可欠であることを明確にし、規制順守を前提とした製品開発とサービス継続の意思を示した。2024年における中国の売上は約170億ドルで、これは総売上の19%以上に相当するため、地政学的リスクが業績に直結する構図が浮かび上がる。
この訪問は単なる外交的ジェスチャーにとどまらず、Nvidiaの将来的な収益源の維持と、米中対立のはざまで揺れる企業戦略の軌道修正として極めて重みがある。さらに、米下院の特別委員会が、Nvidiaが中国のAIスタートアップであるDeepSeek社に対して輸出規制違反を行ったかどうかを調査中であり、同社の対中取引全般に対する精査は今後一層厳しくなる可能性がある。こうした環境下においては、中国依存を残したままの成長戦略の持続可能性には限界があるとの見方も出ている。
AIインフラ企業としての立ち位置と競合との差別化戦略
Nvidiaは、AIチップメーカーとしての枠を超え、今や「インフラ構築企業」としての位置づけを明確にしている。CEOのフアン氏は、2025年4月の投資家会合にて、同社のAI事業は「クラウドデータセンター」「企業向けITソリューション」「ロボティクスシステム」の3本柱で構成されると説明し、ハードウェアのみならず、パートナー企業への構築支援や長期的なロードマップ提示の責任を担う存在であると強調した。
さらに、新世代GPU「ブラックウェル」は、従来の「ホッパー」に比べて40倍の性能を有し、すでに360万ユニットの受注を獲得するなど、市場の先行性を示す具体的成果も得ている。
クラウド事業者による自社開発ASICチップとの競争も激化する中、フアン氏は「何かが作られたからといって、それが優れているとは限らない」と語り、単なるスペック比較では測れない信頼性と統合性を重視する姿勢を示した。今後の推論処理における需要拡大を見据えたハードウェアの最適化も視野に入れており、AI市場での支配的地位維持を図っている。競合が多様化する中で、技術力と市場導入速度、そしてインフラ的役割の明確化が差別化の要となっている。
業績予測と評価の変化が映す市場の期待と警戒
過去3年間におけるNvidiaの平均年成長率は、売上で69%、利益で89%と驚異的であったが、足元では成長鈍化とバリュエーションの見直しが進んでいる。2025年4月現在、予想PERは22.8倍と過去3年平均の31.5倍を大きく下回り、相場は過熱感を一定程度解消している状況にある。
ウォール街では今後3年間の平均売上成長率を29.7%、利益成長率を30.2%と見込んでおり、成長継続の余地は依然として認められている。アナリスト43名中37名が「強い買い」を推奨し、目標株価平均は171.35ドルと、現水準から70%以上の上昇が見込まれている。
とはいえ、AMDやIntelといった競合の攻勢が続くなか、利益率の圧迫や市場シェアの流出リスクは無視できない。加えて、米中貿易摩擦や地政学的要因が収益性の不安定要因となる可能性がある点にも留意が必要である。株式市場がNvidiaに対して依然高い期待を寄せていることは間違いないが、それはあくまで将来的な成長性と規制対応力に対する信認が前提となっており、その前提が崩れれば再評価の動きが急速に進む可能性も否定できない。
Source:Barchart