Appleは、無料かつオープンソースで注目されるゲームエンジン「Godot」に対し、visionOSのサポート提供を提案した。Apple Vision Proにおけるゲーム体験を拡充する意図が背景にあり、AppleのエンジニアであるRicardo Sanchez-SaezがGitHub上でこのプルリクエストを提出している。
GodotはEpicやUnityと異なり、営利企業に属さず、インディー開発者やホビイストの間で根強い支持を得ているエンジンである。Appleがこの領域に踏み込むことは、開発者エコシステムの裾野を広げる狙いと見られるが、レンダリング性能や技術支援の課題も依然として残る。
今後、Appleの描くXR戦略において、サードパーティ製エンジンへの公式サポートが常態化すれば、visionOSを軸とした開発環境の競争力は一層高まる可能性がある。
AppleがGodotを通じて拡大を狙うVision Pro向けゲーム戦略

Appleは、オープンソースのゲームエンジン「Godot」にvisionOSの対応を提案し、自社製品であるApple Vision Pro向けのゲーム開発環境を拡充しようとしている。この提案は、AppleのvisionOSエンジニアであるRicardo Sanchez-SaezがGitHub上に提出したプルリクエストによって明らかとなった。
既にGodotではSwiftファイルのコンパイルおよびリンクが進められており、初期段階のVRプラグインも動作している。Appleは、macOSやGame Porting Toolkitなどを通じてゲーム開発者を呼び込む施策を講じてきたが、今回のGodot対応は、インディー開発者や非商用の開発者層にもアプローチする試みと位置づけられる。
Vision Proはゲーム専用機ではないため、他のVRデバイスに比べてゲームタイトルが限られているという現状がある。そのため、既存の開発者に加えて、Godotのようなオープンエンジンを通じた裾野拡大はAppleにとって論理的な手段である。
一方で、Godotは高フレームレートのVR描画に不可欠な高性能レンダリングエンジンを欠いており、Appleの提案によっても即座に商用レベルのコンテンツが揃うとは言い難い。とはいえ、Appleが提供するレンダリングAPIを通じて、Godot開発者が迅速にVision Pro対応コンテンツを構築できる環境が整えば、結果的にプラットフォームの競争力は強化される可能性がある。
オープンソース支援の裏にあるAppleの戦略的思惑
GodotへのvisionOSサポートというAppleの提案は、一見すると異例の措置にも映るが、近年の開発者との関係強化方針を踏まえると理にかなっている。Unreal EngineやUnityのような大手商用エンジンと異なり、Godotは非営利のコミュニティ主体で開発が進められており、開発者がライセンス料なしで自由に使用・改変できる点が特徴である。
Appleがそのような環境にリソースを投入するのは、単に開発者層を広げるためではない。商用エンジンと異なり、Godotには企業戦略や収益性に縛られない柔軟な対応力があるため、Appleとしても試験的な取り組みや新機能の実装において俊敏なフィードバックループが期待できる。
また、Appleは独自のレンダリングおよびデプロイメントシステムを持っており、他のゲームエンジンからでもAppleのフォーマットへと変換する手段を提供できるという強みがある。これにより、Appleはゲームエンジンそのものに依存せずとも、自社のXRエコシステムに対応したコンテンツ供給を促進できる。
Godotのようなオープンエンジンを戦略的に支援することで、Appleは独自の開発環境を閉じた囲い込み型から、より柔軟なエコシステム形成へと移行する意思を示している可能性がある。この動きが将来的に他のオープンソースプロジェクトへの波及効果を生むかどうかは、今後のAppleの支援体制と開発者の反応にかかっている。
Source:AppleInsider