ドル指数が99を下回り続落する中、背景にあるのは単なる通貨政策ではなく、トランプ前大統領の貿易戦略と金融政策への強硬姿勢である。欧州およびアジア市場への巨額の資本流入と、米国株式ファンドからの大規模な資金流出が同時に進行し、ドルの売却圧力を一段と強めている。
さらに、連邦準備制度への利下げ圧力と矛盾するインフレの構造的リスクが、投資家の信頼を損ない、ドル安を加速させる要因となっている。金相場の上昇が示すように、ドルの先行きに対する市場の懸念は根強く、政策的反転の兆しが見えない限り、この傾向が短期的に転換する可能性は低い。
米国株式ファンドからの資金流出とドル売りの連動構造

2024年4月第3週、LSEGリッパーの集計によれば、欧州株式ファンドに111.3億ドル、アジア株式ファンドに36.4億ドルの資金が流入したのに対し、米国株式ファンドからは106.2億ドルが流出した。この明確な資金移動が、為替市場におけるドルの需給バランスに影響を及ぼしている。
投資家がドル建て資産を売却し、ユーロやアジア通貨に転換することで、ドルの供給が増加し他通貨への需要が高まる。この結果として、ドル指数が下落基調にあることは、構造的なキャピタルフローの変化を端的に表している。
このような現象の根底には、米国の政策リスクと相対的な金利見通しに対する不信があると考えられる。特にトランプ前大統領の保護主義的姿勢や対FRBへの介入的発言が、米国市場全体の先行き不透明感を醸成している。資本流出が単なる投資リバランスではなく、政策環境に起因する警戒的行動であるならば、ドル売りは一過性ではなく中期的なトレンドとなり得るだろう。
トランプ発言とFRB圧力が市場心理を悪化させる構図
トランプ前大統領は「インフレはほぼ消えた」と主張し、FRBに対して繰り返し利下げを促す発言を行っている。欧州がすでに7回利下げしたことを引き合いに出し、米国も同様の政策転換を図るべきとの論調である。
しかし、実際には輸入物価の上昇やサプライチェーンの再構築コストが再インフレを引き起こすリスクを孕んでおり、FRBが現行金利水準を維持する判断には合理的根拠がある。インフレが「消えた」のではなく「潜在化」しているという認識が、金融当局のスタンスを左右しているのである。
市場はこの乖離を敏感に察知しており、政権交代や政策転換の兆候に対して警戒感を強めている。FRBの独立性が政治的圧力によって揺らぐ可能性を投資家が意識し始めたことで、米国資産への信頼は低下し、為替市場では安全資産志向が強まっている。トランプ氏の主張が利下げ圧力という形で市場に影響を及ぼす限り、金相場の上昇とドル安の流れは継続しやすい状況にある。
通貨戦争ではなく政策不信がドル安を主導している現実
通貨戦争という視点は、ドル安の説明として表層的に語られがちである。しかし実態は、トランプ前政権による不確実性の高い経済運営と、金融政策に対する政治的介入が市場心理に深刻な影響を与えている点にある。政策が一貫性を欠き、関税や金利への過度な干渉が繰り返されることは、米国への信頼性を損ねる決定的要因となる。こうした信頼喪失こそが、ドルの下落をもたらす最も根源的な構造要因といえる。
仮にトランプ氏が関税方針を撤回し、FRBへの攻撃的発言を控えるようになれば、短期的には市場の安定とドル回復が見込まれる可能性もある。しかし、金市場が示すように現状ではそのシナリオは実現困難と見られている。ドル安は単なる為替調整ではなく、信認低下の兆候として受け止めるべきであり、根本的な政策転換なしには市場心理の反転は難しいと考えるべきである。
Source: Barchart.com