世界最大の半導体ファウンドリーである台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)は、米中間の通商摩擦と市場全体の低迷をものともせず、2025年第1四半期において利益が前年比60%増を記録し、業績予想を大きく上回った。
AI向け先端チップ需要の高まりと、3ナノ・2ナノメートル製造技術の推進が同社の成長を支えている。さらに、アリゾナでの巨額投資によって地政学的リスクの緩和を図りつつ、グローバル供給体制を強化している。
このような堅調な業績と戦略的な設備投資が評価され、アナリストからは強気の「ストロング・バイ」評価が多数示されており、株価には約47%の上昇余地があるとの見方が強い。関税や規制といった外的要因が依然として不確実性を伴う中でも、TSMCの技術優位と供給網の分散戦略が、今後の安定成長の鍵を握ると考えられる。
四半期決算に映る成長力 TSMCの財務指標が示す堅牢な収益構造

TSMCは2025年第1四半期において、売上が前年同期比35.3%増の255.3億ドル、1株利益が同53.6%増の2.12ドルを記録し、いずれも市場予想を上回った。過去16四半期のうち、利益予想を下回ったのはわずか2回にとどまり、極めて高い収益精度を維持している。また、ニュー台湾ドルベースでは利益が60%増と、通貨の影響を超えた成長力が際立った。2025年第2四半期の売上見通しも284億~292億ドルと設定され、中間値は前年同期比38.3%増を意味する。
この成長を支えているのは、過去10年間にわたる着実な成長軌道である。売上の年平均成長率は14.14%、利益は16.45%と、長期的に安定した成長を示しており、短期的な市況変動の影響を受けにくいビジネスモデルが確認できる。
配当利回り1.74%という株主還元姿勢も投資妙味を高める要素である。こうしたデータは、TSMCが経済不確実性の中でも、他社を凌駕する強固な財務体質と事業安定性を誇っていることを物語る。短期的な株価下落とは裏腹に、長期的な価値創出に対する信頼感が投資家の中に根強く存在している。
技術革新と地政学的対策 TSMCの戦略が描く製造主権の再構築
TSMCは、3ナノメートル技術の商用化を推進する一方で、2026年を見据えた2ナノメートル製造プロセス「N2P」の開発を本格化させている。この先端技術はAI用途を中心に需要が拡大するエネルギー効率重視の半導体市場において、競争優位性を一層高めるものとなる。業界関係者の間では、TSMCの2ナノアーキテクチャが現行で最先端との認識が広まりつつあり、数年間にわたる技術的リードが確保されるとの見方が強い。
これに加え、TSMCは米国アリゾナ州に1,650億ドル規模の巨額投資を行い、製造拠点や研究施設を設立中である。これにより、将来的には同社の先端プロセスキャパシティの30%が台湾外で供給可能となり、供給リスクの分散が進む。
このような取り組みは、米中摩擦や輸出規制といった不確実要因への備えとして評価される。製造主権の再構築とも呼べるこの戦略的シフトは、単なる拠点分散にとどまらず、技術供給体制全体の柔軟性と回復力を高めるものである。グローバルサプライチェーンの強靭性が試される今、TSMCの対応は同業他社に先んじた先制的な布石といえる。
Source:Barchart.com