Ark Invest創業者キャシー・ウッドは、2025年に入り自社ETFが20%下落する中で、株価調整を逆手に取った積極的な買い出動を見せた。注目すべきは、彼女が新たに買い増した3つの銘柄──エヌビディア、AMD、バイドゥである。AI半導体の覇権を握るエヌビディアは、短期的逆風にもかかわらず依然として成長性が高く、主要アナリストも50%近い上昇余地を指摘している。

対照的にAMDは米国の対中規制で打撃を受けつつも、収益成長を回復基調に戻しつつあり、PER水準も割安感を示している。さらに、中国株に慎重な姿勢が広がる中でのバイドゥへの投資は異色だが、国内市場への依存度の高さが貿易摩擦の影響を和らげており、利益水準に対する評価も割安である。

3銘柄はいずれも異なるリスクを内包しており、ウッドの選好が成長性一辺倒ではなく、相対的な価値と将来の回復可能性に基づいていることがうかがえる。

AI覇権を握るエヌビディアへの評価と懸念

キャシー・ウッドが再び買い増しを決断したエヌビディアは、AI向け半導体市場での支配的地位を背景に長期的な成長余地を持つ。過去5年間で株価は14倍、直近1年間でも24%上昇しており、AIモデル訓練に不可欠な演算能力を提供する存在として業界の中心にある。

しかし2025年に入ってからは株価が26%下落し、短期的にはArk Investのパフォーマンスにとって足かせとなっている。特に中国企業DeepSeekによる旧型チップの有効活用の公表や、米中間の規制強化による中国市場向け出荷の制限が重しとなっている。

このような中、バンク・オブ・アメリカのVivek Aryaは目標株価を160ドルから150ドルに、バークレイズのTom O’Malleyは155ドルに引き下げたが、依然として強気の姿勢を崩しておらず、現時点の株価からおよそ50%の上昇余地を見込む声もある。

市場が調整局面にある今、ウッドの買い判断は短期の価格変動よりも中長期の構造的成長に重きを置いたものであるとみられる。ただし、規制環境の変化は依然として不確実性を伴うため、AI特需に依存した戦略の持続可能性には慎重な視点が求められる。


米中規制の影響下で再評価されるAMDの立ち位置

ウッドが選定した2番目の銘柄、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、エヌビディアほどの注目度はないが、米国の対中輸出規制の影響を大きく受けている。中国向けの主力製品MI308Xの販売が禁止されたことで、同社は8億ドルの特別損失の可能性に直面しており、2025年に入ってからのパフォーマンスも低迷している。過去1年間で株価は42%下落し、5年間でも2倍に満たない伸びにとどまっている。しかし、2024年第4四半期においては売上高が前年同期比で24%増と、久々の回復傾向が確認されている。

株価収益率(PER)は19倍と、割安感がある水準に位置し、今後20%超の成長が予想される構造が評価材料となる可能性がある。AMDはAI用途に対応する製品を持ちながらも、米中間の規制摩擦により事業展開が制限されており、短期的には政策リスクが株価を左右する展開が続く見通しである。

一方で、エヌビディア一極集中に対するヘッジとして機関投資家がポートフォリオに組み入れるケースも増加しており、再評価の動きが広がる余地もある。中長期での再浮上には、市場構造の変化と製品競争力の持続が不可欠である。


バイドゥの割安性と中国株全体への期待の揺らぎ

ウッドの購入銘柄として異彩を放つのがバイドゥである。中国を代表する検索エンジン企業である同社は、2025年に入りプラス圏で推移しており、中国株全体が米中貿易摩擦下でも健闘していることの象徴ともいえる。過去1年では株価が下落しているものの、国内市場依存度の高さが外的リスクを一定程度吸収している構造が背景にある。ただし、同社の成長率には陰りが見え始めており、直近3四半期は売上が前年同期比で減少を続けている。

現在の株価水準は予想利益に対するPERが8倍と、主要テクノロジー銘柄の中では異例の割安水準にある。これが今回の選定理由である可能性が高いが、売上構成や技術革新の進捗を見れば、AI、自動運転、コンピュータビジョンといった将来性の高い分野での実績が未だ十分とは言い難い。

バリュエーション上の魅力だけでは成長株としての地位は確保できず、今後は明確な収益改善と市場戦略の実効性が試される。バイドゥを巡る投資判断は、単なる割安さ以上に中期的な業績改善の確度に依存している。


Source:The Motley Fool