2025年第1四半期、テスラの自動車部門収益が前年同期比で20%減少した。これにより販売促進や価格引き下げが業績を圧迫している構図が浮き彫りとなったが、同日には株価が8%超上昇するという逆説的な展開を見せた。主因は、CEOイーロン・マスクが政治活動から距離を置くと表明したことに起因する市場の反応である。
一方、ウェルズ・ファーゴはテスラ株の公正価値を120ドルと試算し、現水準からさらに50%以上の下落リスクを警告している。廉価版モデルYの投入も高価格帯との共食いリスクがあるとの指摘があり、根本的な需要回復には結びつかない可能性が高い。
市場には依然としてテスラへの楽観的な見方が存在するものの、足元ではマクロ経済や構造的課題が交錯しており、投資判断には一層慎重な分析が求められる状況である。
テスラ第1四半期の業績悪化が映すEV需要の鈍化と価格政策の限界

2025年第1四半期、テスラは自動車部門の売上が前年同期比で20%減少したと発表した。販売価格の引き下げや販促強化によって需要を下支えしようとしたが、これが収益性に大きな打撃を与えた形である。とりわけ販売単価の低下は利益率に直結し、量を確保しても利益を維持できないビジネス構造が露呈した。これにより、電気自動車市場の成長に対する過度な期待と、現実の需要鈍化との乖離が意識された。
また、ウェルズ・ファーゴのアナリスト、コリン・ランガン氏はテスラ株の公正価値を120ドルとする弱気な見解を示した。現時点の株価から50%を超える下落余地があるとされており、市場の楽観的な価格形成と乖離する警鐘と言える。特にモデルYの廉価版投入については、期待された新型車ではなく、既存モデルの価格調整にとどまる点も失望要因とされた。上位グレードの販売を食い潰す可能性も指摘されており、単なる価格競争の強化では持続的成長は困難である。
今後、テスラが持続的な需要創出を実現するには、単なる価格施策に依存せず、真に革新的な製品や収益性の高い新規市場の開拓が不可欠となる。足元の数値は、EV市場の転換点を示唆する重要なシグナルと見なされよう。
マスクの政治的距離表明と株価急騰の関係性を巡る投資家心理
第1四半期の業績悪化が明らかになった当日、テスラ株は8%超の上昇を記録した。その要因として最も注目されたのが、CEOイーロン・マスクが政治活動から距離を置く意向を示したというニュースである。これまでマスク氏の言動が企業運営の焦点を曖昧にさせているとの懸念があったため、こうした姿勢の変化は投資家にとって信頼回復のきっかけとなった。
とくに近年、企業トップの個人的活動が経営パフォーマンスやブランドイメージに直結する中、マスク氏の一挙手一投足はTSLAのボラティリティを左右する要因となってきた。投資家にとっては、マスク氏が企業本位の判断に回帰するという兆しが、短期的な好材料と受け止められたと考えられる。
しかし、根本的な業績悪化や需給の変調が続くなかで、こうした一時的なポジティブ要因に株価が敏感に反応する構造自体が、裏を返せば市場の不安定さを物語っている。テスラに対する真の信頼回復には、CEOの発言以上に、実態としての経営改善が求められる段階にある。今後の株価推移は、企業戦略の実行力と市場との信頼関係が問われる場面となろう。
Source:Barchart.com