かつて「画面を持たないARノートPC」として物議を醸したSpacetopが、専用ハードを捨ててWindowsアプリとして再始動した。開発元Sightfulは、NPUを搭載したインテル製AI対応PC向けに、仮想100インチ空間での作業環境を提供する新生Spacetopを正式リリースした。価格は899ドルで、XREAL製「Air 2 Ultra」ARグラスと1年分のソフト利用権が付属し、翌年以降は年額200ドルの課金制となる。

利用には高性能PCやARグラス、必要に応じて度付きレンズなども要し、一般ユーザーには依然として高い参入障壁が存在する。一方で、仮想空間でのマルチタスク性やプライバシー面の優位性、Apple Vision Proと異なる軽量設計など、限られた層には明確な訴求力がある。ARの商用展開が問われる中、旧来のハード販売モデルを脱却したSightfulの戦略は、今後の市場動向を占う試金石となりうる。

SpacetopがARアプリへと転換 専用ハードから脱却したSightfulの再始動

かつて「画面のないノートPC」として登場したSpacetopは、専用デバイスの開発を中止し、インテル製AI対応PC向けのARアプリケーションとして新たにリリースされた。

Sightfulは2024年1月の限定公開を経て、今回正式版を発表し、XREALの「Air 2 Ultra」ARグラスおよび1年間のソフトウェア使用ライセンスを含めたパッケージを899ドルで提供する。使用にはNPUを搭載したインテルPCが必須であり、AMDやQualcomm製チップには対応していない。インテルとの協業により最適化が図られており、チップの構造解析や動作最適化にも技術的な支援がなされている。

この仕様により、SpacetopはAI処理に特化した高性能PCを保有するユーザー層に限定される構成となった。Sightfulは今後の展開としてMac対応も示唆しているが、時期は未定である。

製品の方向転換は、旧モデルで課題とされた専用ハードの汎用性欠如とコスト面の課題を回避する意図と読み取れる。仮想100インチのAR作業空間を提供するこのアプローチは、従来のハード依存から脱却した柔軟なUX設計への転換点として位置づけられる。

高性能PCと大型ARグラスが前提条件 Spacetop導入に伴うハードル

Spacetopは、NPU搭載のインテルAI対応PCとXREAL製ARグラス「Air 2 Ultra」の組み合わせによって成立するアプリである。

加えて、必要に応じて度付きレンズを別途購入する必要があり、単焦点で50ドル、累進で150ドルの追加費用が発生する。利用には一定の環境が前提となり、ハードウェアを一から揃える場合は、初期投資は1,000ドルを超える。さらに、1年後には年額200ドルのサブスクリプション料金が課される点も無視できない。

このように、エントリーコストは依然として高く、一般消費者が気軽に導入できる製品ではないことが明らかである。加えて、対応プラットフォームがインテル製のAI対応チップに限定されていることから、既存のWindows PCユーザーであっても利用条件を満たさないケースが多いと考えられる。

AR技術の商用化には、こうした敷居の高さが長年の課題とされてきたが、Sightfulは対象をあえて絞り込み、ニッチ市場における確実な浸透を狙っている可能性がある。

プライバシー性とUXの進化がもたらす限定的な魅力

Spacetopが提供するAR空間は、ユーザーの視界内にのみコンテンツが表示されるため、周囲の人間から作業内容が見えないというプライバシー上の利点を有する。これはオープンスペースや移動中の作業において一定の安心感をもたらす機能である。

また、仮想100インチのワークスペースは複数ウィンドウの同時操作にも対応し、従来のノートPCでは困難だったマルチタスク環境を可能にする。さらに、Windows 11のUIを大幅に簡素化することで、ユーザーの集中力維持にも貢献している。

一方で、ARグラスの物理的負担は未解決のままである。XREALの「Air 2 Ultra」は、1080pの高精細ディスプレイと広角視野、6DoFトラッキングといった機能面では優れているが、依然として重量感がある上、視力補正のためにインナーフレームの装着が必要なケースも多い。

こうした要素は、長時間使用における疲労や装着ストレスにつながる恐れがある。視覚と作業空間の融合による未来型UXが評価される一方、日常利用にはなお課題が残ると言える。

Source:Engadget