ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、2023年末時点で過去最高となる3,340億ドルの現金を保有している。トランプ政権の関税政策により市場が動揺する中、この現金比率の高さは一見堅実に映るが、バフェット自身は依然として株式重視の姿勢を強調している。

一方で、J.P.モルガンのデータでは、S&P500と米国債券を組み合わせた60/40ポートフォリオが長期的に現金よりも高いリターンを上げてきた実績がある。現金を安全資産と見なす傾向は強いが、過剰な待機資金は資産形成の機会損失を招く可能性がある。

モーニングスターの調査では、2024年に15%の上昇を見せた60/40戦略に対し、広範な分散型ポートフォリオの成績は10%にとどまる。現金は生活防衛のために保有するものであり、長期目線では投資の再考が不可欠だ。

バフェットが現金を厚く保有する理由とその含意

ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイは、2023年末時点で3,340億ドルという過去最高額の現金を保有している。この規模は、米国のマネーマーケットファンド総額6.88兆ドルと比しても一個人投資家の枠を超えた資産運用戦略であるといえる。バフェットは2024年2月の株主宛書簡で「良質なビジネスの所有を、常に現金同等物より優先する」と述べており、現金保有はあくまで機動力維持のための選択肢に過ぎないと示唆している。

市場がトランプ政権の新たな関税政策によって揺れる中、この多額のキャッシュは結果的にリスク回避として有効だった。とはいえ、彼自身が「株式投資こそが中核」と繰り返し明言していることから、バークシャーの現金は単なる逃避先ではなく、次なる大型投資への備えとも解釈される。このスタンスは、短期的な市場の浮沈に左右されず、長期的視野で投資機会を見極める姿勢の表れともいえる。

投資家がこの事実をそのまま模倣することには慎重であるべきだ。なぜなら、バークシャーの現金には企業買収や株式取得などの具体的な戦略的用途が存在し、単なる待機資金とは異なるためである。現金保有が成功の象徴として語られる背景には、資産規模、情報力、交渉力といった個人とは異なる前提条件がある。

60対40ポートフォリオが示す長期優位性

J.P.モルガン・アセット・マネジメントのジャック・マンリー氏が示したデータによれば、S&P500とブルームバーグ米国総合債券指数で構成された60対40の伝統的ポートフォリオは、1995年から2024年の期間で、1か月単位で約65%、6か月で75%、1年では80%の確率で現金保有を上回るリターンを達成している。12年のスパンで見れば、その優位性は100%に達するという。

この統計が示唆するのは、短期的な市場の不安定さに左右されるよりも、分散投資による資産成長の方が遥かに確実であるという現実である。加えて、モーニングスターの調査でも2024年の上昇相場において、基本的な60/40ポートフォリオが15%の上昇を記録したのに対し、11資産クラスに分散されたポートフォリオは10%に留まっている。

これは、多様化が一概に高リターンをもたらすとは限らないという事実を突きつけている。特定の状況下では、シンプルな構成がかえって高いパフォーマンスを発揮する可能性もあるということであり、複雑化した投資が必ずしも利益に直結しない現代の投資環境を映している。市場環境に応じて柔軟にリバランスを行うことが、今後より重要になるだろう。

現金の使い道と心理的安全資産としての役割

モーニングスターのポートフォリオ戦略家エイミー・アーノット氏は、現金の役割を「生活費や突発的支出に備える防衛資産」と位置づけており、現金が投資ポートフォリオにおいてトレジャリー(米国債)以上に安定的な存在になってきていることを指摘している。利上げ局面により、現金の利回りが上昇しつつある背景も、現金回帰を促進している。

アドリアナ・アダムス氏(ドメイン・マネー社ファイナンシャルプランナー)は「2年以内に必要となる資金は現金で保有すべきだが、それ以外は市場に投じるべき」と明言している。これは、長期的な資産形成において現金が持つ役割には限界があるという冷静な判断に基づいている。高金利口座や地方債マネーマーケットファンドの活用によって、現金でも一定の利回りを得られる手段は増えているが、それでもリターン面での限界は否定できない。

一方で、現金の保有は心理的な安定感をもたらすという面でも重要な要素である。市場の急落や経済政策の転換により短期的な恐怖感が高まる中、手元資金が十分にあることで投資家は冷静な判断を維持できる。しかし、必要以上に現金を抱え込むことは、結果的に「投資しないリスク」を拡大させるという矛盾を孕む。現金の適正なバランスは、将来に向けた資産戦略の核心となるだろう。

Source:msn