Linux開発者たちは、Phoronixの報告によれば、1989年登場のi486および1993年登場の初代Pentium(i586)CPUのサポートを削除する提案を進めている。Ingo MolnarによるRFCパッチ提案では、14,104行のコード削除とカーネル内80個ファイルの整理が可能になるとされ、Linus Torvaldsも同様の意向を示している。
これにより、TSCおよびCX8命令を持つ近代的ハードウェアを前提とする最小サポートレベルへの引き上げが図られる見通しである。一方で、i486や初代Pentiumは、オンチップキャッシュやデュアル整数パイプラインなど、現代CPU設計における重要な技術の基礎を築いた歴史的意義を持つ。13年ぶりとなる古いCPUサポート終了の動きは、伝統との決別を意味する可能性もはらんでいる。
i486と初代Pentiumサポート終了がもたらすカーネル開発の変革

Linux開発者Ingo Molnarが提案したi486および初代Pentiumサポート終了は、カーネルの合理化に直結する。具体的には、約14,104行ものコードと80個以上のファイルが削除対象となり、長年積み重ねられてきたレガシーな負担の整理が進む。これにより、メンテナンス性向上だけでなく、将来の機能追加や最適化もスムーズになると見込まれる。
Molnarの指摘によれば、古いCPUのサポート維持は、現代的な開発要求に対してボトルネックとなっていたという。さらに、Linus Torvalds自身もi486のサポート終結を支持している点は、プロジェクト全体としてこの方向性が本格化していることを裏付ける。
一方で、カーネルの最小ハードウェア要件は、TSCとCX8命令を搭載するプロセッサへと引き上げられるため、今後は古い組み込み機器や特殊用途のシステムに影響が及ぶ可能性も否定できない。特に産業用レガシーシステムにおいては、カーネル更新に伴う互換性問題が新たな課題となるかもしれない。
この動きは利便性向上を目指す一方で、Linuxの幅広いハードウェア互換性という伝統に一つの区切りを打つものであり、単なる技術的合理化を超えた歴史的転換点を示唆している。
古参CPUが築いた基盤とLinux開発方針の変遷
i486シリーズは1989年に登場し、オンチップキャッシュや統合FPUといった技術革新をもたらした。これは以後のCPU設計において標準となる要素を先駆けて導入した点で、Intelにとってもコンピューティング全体にとっても極めて重要な転機となった。
また、i586として知られる初代Pentiumは、デュアル整数パイプライン設計を採用し、性能と効率の両立を実現した。当時の製造技術である800nmプロセスは、今日の微細化技術と比較すれば大きな世代差があるが、当時としては最先端であった。
こうしたCPU群を長らくサポートしてきたLinuxカーネルも、かつては幅広い利用環境に対応する柔軟性を強みとしてきた。しかし、2012年にi386サポートを終了して以来、約13年を経た今、開発リソースを現代的なプラットフォームに集中させる方針が明確になったといえる。
レガシーを守る姿勢から、進化を優先する路線へのシフトは、オープンソースプロジェクトとしてのLinuxの持続的成長を見据えたものと位置付けられる。時代の節目ごとに取捨選択を重ねてきたLinuxカーネルは、今回もまた、未来志向の選択を迫られている。
Source:Tom’s Hardware