ナイキ(NKE)はスポーツウェア業界のリーダーであり続ける一方、近年売上減少と経済減速に苦しみ、株価は7年ぶりの安値を記録した。新CEOエリオット・ヒルによる戦略刷新が進む中、同社は中国依存の製造構造により前例のない関税リスクに直面している。現在、ナイキ製品の一部に対し145%もの関税が課され、粗利益率への影響が予測されている。

アパレル・フットウェア製品の価格上昇も短期的に65~87%と見込まれ、成長回復を鈍化させる要因となり得る。とはいえ、製造拠点分散や国内販売用製品の現地生産など、リスクヘッジ策は進行しており、依然ブランド力は健在である。ただし、景気後退や貿易摩擦激化による影響には慎重な見極めが必要であり、株価回復には相応の時間を要する可能性が高い。

ナイキにのしかかる関税コストとサプライチェーン再編の実態

ナイキ(NKE)は、2025年4月時点でフットウェアの18%、アパレルの16%を中国から供給しており、米中貿易戦争激化に伴う関税負担が深刻な懸念材料となっている。現在、中国製品に対する関税率は145%に達し、ナイキの第4四半期における粗利益率は400〜500ベーシスポイントの低下が予想されている。

モトリーフール・リサーチとイェール大学バジェット・ラボの分析によれば、関税の影響でアパレル価格は短期で65%、長期で25%上昇、靴を含む革製品は短期で87%、長期で29%上昇する見込みである。こうした状況に対し、ナイキは製造拠点をベトナムなど中国外に分散する動きを加速させ、中国市場向け商品は現地生産する方針を進めている。

ベトナムとの緊張緩和もリスク軽減に寄与しているが、コスト高を完全に回避するのは困難であり、価格転嫁かコスト吸収かの判断を迫られる局面にある。これらの事実は、ナイキが依然として貿易リスクを内包していることを示唆しており、回復戦略を支える基盤整備にはなお時間が必要と考えられる。

成長回復を阻む外部リスクとナイキの競争力維持への課題

ナイキはエリオット・ヒルCEOの下で、小売パートナーとの関係修復、在庫管理の見直し、新商品の開発強化、スポーツ分野への原点回帰といった施策を展開している。これによりランニングカテゴリーでは成長軌道を取り戻し、On Holdingやデッカーズのホカブランドとの競争にも再び対抗力を見せ始めた。

しかし、中国市場では為替調整後ベースで売上が15%減少しており、貿易戦争の長期化や中国経済の悪化、アメリカブランドへの反発感情が一層強まれば、さらなる売上低下リスクが浮上する。ナイキにとって中国は単なる製造拠点ではなく、巨大市場でもあるため、この二重の依存構造は短期的な回復を阻害する要素となる可能性がある。

一方で、競合他社も同様の課題を抱えており、ナイキのみが不利な立場に置かれるわけではない。依然として高いブランド価値を背景に、ナイキは中長期的に安定成長へ復帰する可能性を保有しているものの、その歩みは外部環境次第で大きく左右される構図にある。

Source:The Motley Fool