Salesforce(NYSE: CRM)は、過去1か月で株価が2.14%下落し、年初来で20%超の下落を記録したが、長期的には力強い成長シナリオが描かれている。24/7 Wall Streetの予測によれば、2030年末までに株価は493.80ドルへ上昇し、現在価格比86.90%増となる可能性がある。
成長要素として、シンガポールへの10億ドル投資と「Agentforce」展開、Einstein AIやDataCloud開発の強化、さらには量子技術への積極的な資金投資が挙げられる。一方、短期的にはAgentforce普及の遅れや競合企業との激しい争いが逆風となる見込みであり、CFOエイミー・ウィーバー氏の退任も不安材料とされている。
Salesforceが描く2030年までの成長戦略と主要投資先

Salesforceは、未開拓の国際市場への進出を成長戦略の核に据えている。2025年3月にはシンガポールに10億ドルを投資する計画を発表し、AIプラットフォーム「Agentforce」の普及拡大を狙う。この動きは、サービスおよび公共部門における人材確保を支援するとされ、急速な市場浸透を図る試みと位置づけられている。さらに、Einstein AIやDataCloudといった基盤技術の進化に注力し、営業・マーケティング領域での差別化を推進している点も見逃せない。
一方で、Salesforceは量子技術領域への投資も積極化している。2023年には量子センシング企業Q-CTRLに2,740万ドル、Cambridge Quantum Computingにも出資し、量子コンピューティング分野への布石を打った。これらの取り組みが商業化に結びつくかは未知数だが、先行的な研究開発姿勢が将来的な競争優位につながる可能性はある。急成長市場に対応し続ける柔軟な戦略こそが、同社が2030年までに株価86.90%上昇を狙う根拠とされている。
株価上昇を後押しする売上・利益成長と買収戦略の実態
Salesforceは過去10年間にわたり、Demandware、Mulesoft、Tableau、Slackなど大型買収を重ねて規模を拡大してきた。特に、2014年度から2024年度にかけて売上高は年平均24%、純利益は同44%成長しており、この驚異的な数字が現在の評価の礎となっている。さらに2024年には100億ドル規模の自社株買いと初の配当を発表し、株主還元にも本格的に取り組み始めたことが市場の関心を集めた。
これに加え、Salesforceは財務面でも82.4億ドルの純キャッシュポジションを維持しており、リスク耐性の高さをアピールしている。ただし、これらの積極投資による収益の変動幅拡大は、アクティビスト投資家からの批判を招く一因ともなった。今後、投資効率と収益性のバランスをどのように取るかが、株価上昇に向けたカギを握る。急速な拡大路線を続けながらも、持続可能な成長モデルへの転換が求められている。
中期リスク要因と株価予測に対する冷静な見方
Salesforceの成長シナリオには明るい材料が並ぶ一方で、短期的なリスクも無視できない状況である。特に、「Agentforce」の採用遅れによって2025年の業績ガイダンスが弱含んでいる点や、Microsoft Dynamics 365、Oracle NetSuite、SAPなど手強い競合勢力の存在は、営業成績に直接影響を及ぼす懸念がある。また、2025年3月に発表されたCFOエイミー・ウィーバー氏の退任も、組織運営に不透明感を与える要素となった。
24/7 Wall Streetでは、これらの懸念を踏まえ、1年後の目標株価を362.36ドルとしつつも、自社独自の評価では302ドルとより保守的な水準を示している。この差異は、楽観論だけで投資判断を下すリスクを警戒する姿勢と読み取れる。中長期では2030年までに493.80ドル到達という成長可能性が語られる一方で、足元では慎重な観察が欠かせないという現実もまた、投資家にとって重要な判断材料となりそうだ。
Source:24/7 Wall St.