AppleはmacOS Sequoiaにおいて、長年使用されてきたファイル転送ツール「rsync」を廃止し、代替としてBSDライセンスの「openrsync」へ移行した。背景にはrsyncがGPL 3.0ライセンスに移行したことによる法的制約がある。

AppleはこれまでGPL 2.0版のrsync 2.6.9を同梱していたが、GPL 3.0版以降の導入を見送り、より柔軟なライセンスを持つopenrsyncの採用に踏み切った。openrsyncはrsyncの多くの機能を再現しつつも完全な互換性はなく、使用には注意が必要である。rsync 3.xの利用を希望するユーザーはHomebrewを通じて手動インストールが可能だが、標準環境との整合性を損なう恐れがある。

rsync排除の背景にあるライセンスの壁とAppleの選択

AppleがmacOS Sequoiaでrsyncを排除した理由は、GPLライセンスの制約にある。rsyncの最新版である3.x系はGPL 3.0のもとで提供されており、ソースコード開示義務などAppleの商用戦略に適さない条件が付随する。Appleはこの問題を回避するため、従来よりライセンスが緩やかなGPL 2.0にとどまるrsync 2.6.9をmacOSに同梱し続けてきた。

しかし技術進化とmacOSの将来設計を考慮すれば、古いバージョンの維持には限界がある。そこでAppleはBSDライセンスで提供されるopenrsyncへの移行を決断した。openrsyncはKristaps Dzonsonsによって開発され、GPLではなく商用利用にも柔軟に対応できるのが特徴である。

この移行はAppleがOSSとの関係性を見直し、ライセンス戦略の柔軟性を強化する動きの一環と捉えられる。ソフトウェアの根幹に関わる選定を通じて、Appleは独自のエコシステムと法的安定性の両立を目指している。

openrsyncの機能的限界とユーザーに求められる適応

openrsyncはrsyncの代替としてmacOSに組み込まれたものの、その機能は完全互換ではない。rsyncが提供する多彩なオプションや細かな挙動の一部が再現されておらず、高度なスクリプト運用を行っていたユーザーにとっては注意が必要である。

特に、rsyncの3.x系が提供するファイル圧縮方式の最適化や、特定のセキュリティ機構、フィルタリング機能などは現時点でopenrsyncに実装されていない。macOSにおけるopenrsyncはプロトコルバージョン29に準拠し、rsync 2.6.9との互換性は保っているが、それ以上の拡張には非対応である。

そのため、rsync 3.xを使用したい場合はHomebrewなどを活用して手動でインストールする必要がある。ただしこの方法はAppleのシステム設計と干渉する可能性があり、openrsyncとの競合やリンク破損を招く危険性がある。ユーザーは自らのユースケースに応じ、openrsyncへの適応を模索するか、別手段を講じる判断が求められる。

Appleの選択が示唆するOSSとの新たな関係性

Appleが採用したopenrsyncは、BSDライセンスの特性を活かしながらも、GPLとは異なる倫理観と技術思想を背景に持つ。Appleは過去にもCUPSやLLVM、launchdなど多くのOSSを採用しながらも、自社の商用モデルに適応するかたちでライセンスの取捨選択を行ってきた。

今回の決定は、その一貫した姿勢の延長線上にある。GPL 3.0に内在する伝播的なライセンス義務は、macOSのような複合的な商用OSにとってリスクとなり得る。Appleがopenrsyncを通じて示したのは、法的安定性と将来のOS構築に向けた自由度を両立させる戦略である。

他方で、この判断はOSS開発者との対話や相互理解のあり方にも影響を与え得る。Appleは今後も、オープンソースを取り込みつつも、その利用条件に対しては徹底して自社基準で選別する姿勢を維持すると見られる。これはOSSの恩恵を受けながらも、独自路線を堅持するAppleらしいアプローチである。

Source:AppleInsider