Nvidiaの株価は、AIチップ輸出規則の見直しを巡る報道を受け、一時的に下落した。現在の規制は、米国と同盟国に先端半導体技術を集中させることを目的に、国を階層で分類し制限を課しているが、トランプ政権関係者はこれを廃止し、ライセンス制への移行を提案している。

この変更案では、輸出許可が必要なチップの閾値も引き下げられる可能性があり、特に中国のような規制回避先を有する市場への影響が懸念される。AIチップの国際流通を巡る交渉は、技術覇権と国家安全保障の両立を迫る課題として、業界全体に不透明感を投げかけている。

米商務省の階層別規制とトランプ陣営の対案が示す対中戦略の揺らぎ

2024年1月に米商務省が導入したAIチップ輸出規則は、各国を三つの階層に分類し、特に中国やロシアといった特定国への最先端半導体技術の流出を防ぐことを目的としている。5月15日に本格施行を迎えるこの規制は、H100のような高性能チップの出荷を数量で制限し、安全保障と技術優位性を確保する狙いを持つ。しかし、トランプ政権時代の関係者らはこの枠組みに対し懐疑的であり、国家ごとの個別合意に基づくライセンス制度への移行を主張している。これは、同盟重視から二国間交渉重視への方向転換を意味し、AI技術を通商交渉のカードと位置づける意図をにじませている。

制度の再設計が実現すれば、米国は半導体の流通に対してより柔軟な交渉戦略を展開できる可能性がある。一方で、規制の骨抜きや同盟国との整合性喪失といった副作用が懸念される。高度技術をめぐる輸出統制の設計は、安全保障、貿易、外交の交差点にあり、形式的な制度変更が実質的な対中牽制力を弱める結果とならないか、慎重な検討が必要である。

閾値引き下げ案がもたらす業界インパクトと回避行動への警戒

現在の制度では、Nvidia製のH100チップを1,700個未満輸出する場合にはライセンス取得が不要であるが、これを500個未満に引き下げる案が検討されている。仮に実行されれば、サーバー業者やクラウドプロバイダーなど、中規模規模の顧客にも直接的な負担が生じ、輸出管理コストの増加は避けられない。制度の厳格化は、一見すると対外的な圧力強化のように映るが、実際には市場に過度の萎縮をもたらすリスクも抱える。とりわけ、代替チップや非正規流通経路への依存が強まりかねない状況に、関係者の警戒感は高まっている。

このような構造の中で、規制をかいくぐる形で中国などの第2階層国が他国の緩い制度を利用して調達を試みる動きが見込まれている。業界としては、合法的な調達の枠組みを維持しつつも、技術的優位を支える供給網の確保というジレンマに直面する。供給制約の強化は必ずしも市場の健全性を高めるとは限らず、むしろ影響の波及は規制当局の意図を超えることもあり得る。ルール設計の妙が今後の地政学リスク緩和に直結する構造である。

Source：Investing.com