UBSは、英国半導体設計大手Arm Holdingsの目標株価を従来の215ドルから165ドルに引き下げた。中国市場での炭化ケイ素関連の競争激化や在庫問題、電力半導体価格の下落が評価見直しの背景にある。一方で同社の「買い」格付けは維持された。
ARMは第3四半期に過去最高のロイヤリティ収益を記録し、2025年度も前年比24%の収益成長を見込む強気のガイダンスを発表している。大手クラウド企業との連携やAI需要の追い風は依然強いが、中国依存度の高さが中長期的な成長見通しに不透明感を与えている。
中国市場依存と在庫問題がもたらすARMの収益構造への影響

UBSがArm Holdingsの目標株価を215ドルから165ドルへ引き下げた背景には、中国市場における構造的なリスクが色濃く影を落としている。特に、炭化ケイ素(SiC)を含む電力半導体分野において、現地競合勢力の台頭と価格競争が激化しており、同社が構築してきた市場支配力が揺らぎ始めている。これに加え、需給のミスマッチによる在庫調整圧力も重なり、今後の出荷計画やライセンス契約のスケジュールに遅れが生じる可能性が懸念されている。
現在、ARM Chinaは依然として同社収益の大きな割合を占めているが、規制環境の不透明さや政治的リスクを含めた市場の脆弱性が顕在化しており、収益予測に対する信頼性が低下している。さらに、Qualcommとの訴訟リスクを抱えるなかで、ARMは最悪の想定を前提に業績ガイダンスを組んでいる点からも、慎重なスタンスが伺える。中長期的には、中国依存を軽減し、北米および欧州市場への再配分が求められる局面に入ったといえる。
成長を牽引するライセンス収益とAI需要の持続力
2025年度第3四半期、Armは総収益9億8300万ドルを計上し、前年比19%増とガイダンスの上限を超える好結果を示した。とりわけロイヤリティ収益は過去最高の5億8000万ドルに達し、ライセンス収益も4億300万ドルと堅調である。これらの成長は、v9アーキテクチャやCSS(Compute Subsystem)への旺盛な需要によるもので、スマートフォンやIoT、自動車分野を中心に幅広い市場で採用が進んでいる。また、AWSやMicrosoft、Google、NVIDIAなどの主要顧客からの引き合いが強く、データセンター分野での市場拡大が加速している。
こうした技術的優位性に支えられ、ARMは2025年度通期で約40億ドルの収益、Non-GAAP EPSでは1.56〜1.64ドルのレンジを見込んでいる。営業費用は前年比21%増の21億ドルとなる見通しだが、それでも営業利益率の高さは維持される見込みである。技術革新に対する開発投資を積極化する姿勢は、短期的な収益圧迫要因とはなりうるが、長期的にはAI時代の波に乗る重要な布石と捉えることができる。
ウォール街の評価に見るARMの潜在的評価水準
30人のアナリストによる目標株価の平均は149.54ドルであり、現在の株価112.08ドルに対し約33%の上昇余地があるとの見方が示されている。最も高い予想では225ドル、最低では75.34ドルと幅があるものの、全体としては今後の成長性に対して一定の期待が込められている。また、38の証券会社による平均ブローカーレーティングは2.4とされ、これは「アウトパフォーム」に相当し、投資妙味のある銘柄と評価されている。
ただし、この評価は足元の好調な業績とガイダンスを前提としており、先行き不透明な中国市場リスクや訴訟リスクなどが顕在化すれば、大幅な見直しを迫られる可能性もある。特に大型ライセンス契約のタイミング次第では、短期的な収益変動が大きくなる局面も想定される。したがって、投資家にとっては期待と警戒のバランスを見極めることが求められる状況にある。
Source:GuruFocus