Huaweiは、次世代AIチップ「Ascend 910D」の初期サンプルを5月下旬に提供予定で、Nvidia H100を上回る性能を目標に開発を進めている。単体性能ではBlackwell B200やRubin GPUに及ばない可能性があるが、数百基単位で構成されるクラスタによって対抗可能とされる。クラスタ型AIシステム「CloudMatrix 384」では、Nvidia GB200 NVL72を上回るワークロード性能も示されており、中国国内での自立的なAI運用に向けた布石とみられる。
性能や電力効率で見劣りする場面があっても、Huaweiはプロセッサ数のスケールで差を埋める構えを見せており、国内代替の重要性が増す中でAscend 910Dが中核を担う可能性は高い。ただし、SMIC製造による制約やインターコネクトのスケーラビリティ、消費電力の大きさなど、持続的な拡張性には課題も残る。Nvidia Rubinの性能が際立つ一方で、中国市場ではHuaweiに実質的な競合不在という現実も見逃せない。
Ascend 910DがH100超えを狙う理由とその具体的手法

Huaweiが開発中のAscend 910Dは、米国の制裁下でもAI性能で主導権を握るための中核とされており、特にNvidiaのH100に対抗し得る性能を備えることを目標としている。今回の910Dは、単体でBlackwell B200やRubin GPUに劣る可能性が指摘されているが、数百基のプロセッサによるクラスタ構成により総合性能を補う構成が採られる。実際、384基のAscend 910Cを用いた「CloudMatrix 384」は、GB200 NVL72と同等か一部ワークロードでは上回る結果も報告されている。
この構成ではプロセッサあたりの消費電力は大きいが、大量配置による演算能力でバランスを取る。さらに、Ascend 910Cは780 BF16 TFLOPSに達し、H100の2,000 BF16 TFLOPSには届かないものの、チップレット設計の拡張によって性能底上げが進められている。910Dも類似の方向で設計が進んでいるとされ、性能の積算によってAIクラスタ全体での実用性を高める構えである。
こうしたスケーラビリティ戦略は、Huaweiが国産AI基盤の構築を急ぐ背景を反映しており、単体性能の比較ではなくシステム全体での優位性を重視する構成といえる。結果的に、国内需要への即応性と拡張性の両立が図られ、中国市場における現実的な選択肢となり得る点が注目される。
BlackwellやRubinと異なる消費電力と製造制限の現実
HuaweiのAI戦略において無視できないのが、製造プロセスと消費電力という2つの物理的制約である。Ascend 910Dは、中国のSMICによる製造が想定されるが、この製造基盤が最先端のプロセス技術に及ばない限り、Nvidiaが採用するTSMCのN3や将来のRubin GPUが想定する先端プロセスとの差は大きな障壁となる。事実、Rubin GPUはFP8で8,300 TFLOPSを達成すると見込まれ、現行のB200に対して約2倍の演算性能を示すとされている。
また、Ascend 910シリーズを多数搭載したCloudMatrixでは、同等性能を得るために必要な電力量が大きく、消費効率という観点では不利な状況にある。NvidiaのNVL72に比べて5倍以上のプロセッサ数が必要となり、それに伴う接続性や冷却の課題も浮上する。インターコネクトのスケーラビリティが十分に機能しなければ、クラスタ全体の性能発揮は限定的になる可能性もある。
それでも、中国国内におけるAI自立の流れの中で、性能以外の要因が重視されることは否めない。輸出規制下での国産化と持続供給の確保は技術的な不利を補完するファクターとなり得るため、性能と効率の不足が必ずしも不利に直結しない構図も形成されつつある。
中国市場での主力化とNvidia不在による独占的立場の可能性
HuaweiのAscend 910Dが中国国内のAI開発における中心的存在となる背景には、性能だけでなく市場環境の特殊性がある。現在、米国の対中輸出規制により、NvidiaのH100や将来のRubin GPUが中国市場で流通する可能性は極めて低い。この制約は、Huaweiにとって事実上の市場独占という立場を生み出す可能性がある。国内企業に向けたチップ評価の要請や、5月下旬に予定されるサンプル提供の動きは、そうした国内シフトの象徴といえる。
また、来月にも大量出荷が予定されているAscend 910Cと、その後継である910Dの展開は、システム全体での導入を前提とした動きであり、単なるチップ供給にとどまらない統合AI基盤の構築に寄与するとみられる。これにより、AI処理の基盤として国産ハードウェアを活用する流れが一層加速する見通しである。
ただし、こうした独占的状況は国際的な比較において相対的な遅れを意味する可能性も孕んでいる。Rubinのような極めて高性能なGPUと比較した際、性能面での大幅なギャップを埋めきれない可能性があるため、あくまで中国国内限定の優位性に留まるリスクも見過ごせない。とはいえ、その限られた環境の中でHuaweiが担う役割は依然として大きく、特にAIの国家的活用が進む中国においては、中核技術として位置づけられることは避けられない。
Source:Tom’s Hardware