Appleは4月29日の決算発表を前に、関税リスクとAI開発遅延という二重の課題に直面している。Patriarch Organization会長エリック・シファー氏は、米中貿易戦争の関税を「ダモクレスの剣」と表現し、これが投資家の懸念を呼んでいると指摘する。一方、ウォール街は好調なiPhone 16e注文にもかかわらず、2四半期連続の売上減を予測している。
Appleはこうした逆風に対抗すべく、2026年末までに米国向けiPhoneの全量をインド調達に切り替える計画を進行中だ。また、AI分野ではSiriの改良が遅れ、競合のサムスンやGoogleに後れを取る状況だが、Morgan Stanleyの調査では消費者のApple Intelligence評価は意外にも高く、投資家との評価の隔たりが浮き彫りとなっている。
関税回避策としてのインド移転計画が進行 Appleの調達戦略に変化

Appleは米中貿易摩擦による関税リスクに対処するため、米国市場向けiPhoneの調達拠点を中国からインドへ段階的に移す方針を明らかにしている。Reutersの報道によれば、Appleは2026年末までに米国向けiPhoneの全量をインドから供給する計画を立てており、この動きは中国依存の低減とリスク分散を図る意図があるとみられる。
すでに一部のモデルでインド生産を進めているAppleにとって、この戦略は関税だけでなく、政治リスクや地政学的な不確実性に対する備えとしても機能する。この変化は単なる調達先の転換にとどまらず、同社のグローバル・サプライチェーンにおける構造的変革を意味する可能性がある。
ただし、インド国内の生産体制の成熟度や、品質管理、労働環境の整備などの面で課題が残されており、計画通りの実行が成されるかは依然として不透明である。また、Apple製品に期待される品質基準を満たし続けるためには、Foxconnなどの主要パートナー企業の高度な現地運用能力が前提となる。
とはいえ、この方向性が現実味を帯びるほど、Appleが米中の摩擦を自社成長の制約と見なしていることは明白である。
AI競争における出遅れが示すAppleの技術戦略の転換点
AppleはAI領域での技術導入において、サムスンやGoogleといった競合と比して後れを取っているとされる。音声アシスタント「Siri」の次期アップグレードは2025年以降に延期されており、実装前のAI機能を用いた広告キャンペーンも中止された。
この遅延は、Appleのプロダクト戦略において「完成された体験」を重視する姿勢が、スピードよりも品質を優先する傾向につながっていると考えられる。また、中国市場ではHuaweiなどの現地メーカーがAI機能を前面に押し出しており、AppleはAlibabaとの協業を進めてはいるものの、サービスの提供開始時期は依然不明である。
一方、Morgan Stanleyによる調査メモでは、米国のiPhoneユーザーの80%がApple Intelligenceをダウンロードし、そのユーザー体験に対する評価は概ね良好であるという結果が示された。ネット・プロモーター・スコア(NPS)が53という高水準を記録していることは、Appleのユーザー基盤に対する深い信頼とブランドロイヤルティの強さを浮き彫りにしている。
ただし、投資家の間ではAI分野への期待が先行しすぎており、Appleが見せる慎重な技術展開はその期待値と乖離している。今後、Appleは「遅れて登場する革新」の説得力をどう保つかが試される局面に立たされている。
Source:PYMNTS