クラウドCRMの先駆者Salesforce(ティッカー:CRM)は、エージェント型AI「Agentforce」の導入によって、業務自動化と顧客対応の高度化を推進している。Einstein AIやData Cloudと統合されたこの新技術は、Slackとの連携を通じて既に3,000件超の契約を獲得し、38万件を超える対応実績の中で人手介入率わずか2%という成果を上げている。
一方、株式市場では年初来で株価が20%下落したことで、バリュエーション面で割安感が生じている。Needhamをはじめとする複数のアナリストは「ストロング・バイ」との評価を維持し、目標株価は最大で440ドルと、現在値から65%の上昇を見込む。2026年度には売上高が409億ドルに達する見通しであり、AI主導の成長戦略が市場から注視される。
Agentforceがもたらす企業AIの変革とSlack統合による導入加速

Salesforceが展開する新AIツール「Agentforce」は、企業業務のデジタル化と効率化に向けた次世代の中核技術と位置づけられている。Einstein AI、Customer 360、Data Cloudとの統合により、部門横断的な顧客対応体制を構築可能とし、Slack連携によってリアルタイムな社内支援も実現した。
2024年10月の発表以降、既に3,000件超の有料契約を獲得し、ヘルプ機能においては38万件以上の会話を処理、そのうち人手を必要としたのは2%にとどまった。こうした実績は、Agentforceの実用性と拡張性を裏付ける材料である。
また、顧客サービス領域を中心に5つの製品カテゴリへと展開が進んでおり、使用用途の87%がこの領域に集中している。今後はスケジューリング、人事管理、マルチチャネル対応といった新機能の追加が予定されており、Agentforceの機能はプラットフォーム化に向けて着実に進化している。試験運用中の「エージェント・インタラクション」モジュールは、AIエージェントの構築・検証・導入を支援する新たな枠組みとして、企業ユーザーの期待を集めている。
これらの動向から、SalesforceはSaaSモデルの深化とともに、AIによる組織運営の変革を牽引しようとしているが、導入事例の多様化や大規模組織への適用事例の積み重ねが、今後の市場評価を左右すると考えられる。
株価調整とバリュエーションに浮かぶ割安感が再評価を促す契機に
Salesforce株(CRM)は2025年初来で約20%下落しており、株式市場の変動の影響を受けたかたちとなった。一方で、この調整を受けてバリュエーション面では過去平均との乖離が顕著となっており、株価収益率(PER)は現在31.57倍、株価売上倍率(PSR)は6.70倍と、いずれも過去5年間の平均(それぞれ41.62倍、8.02倍)を大きく下回っている。こうした水準は、市場が抱える成長期待の一部を織り込んでいない可能性を示している。
第4四半期決算においては、売上が99.9億ドルと予想にはわずかに届かなかったものの、EPSは前年比21.4%増の2.78ドルで市場予想を上回った。特にサービスと販売の両カテゴリにおける8%の成長率は、主力部門の底堅さを証明するものである。これらの事実は、短期的な売上未達にもかかわらず、収益性と運用効率の改善が進んでいることを示している。
割安感と業績の回復兆候を踏まえれば、CRM株は再評価の局面に差し掛かっているとも捉えられる。ただし、評価の継続には次期決算での成長持続性や、Agentforceによる収益寄与が数値として明示される必要がある。市場はその実証を静観している段階にある。
アナリスト評価と目標株価が示す中長期成長シナリオの信頼性
Needhamを含む複数のアナリストは、SalesforceのAI戦略、とりわけAgentforceを中核としたプラットフォーム構想を高く評価しており、46人中34人が「ストロング・バイ」との強気姿勢を維持している。平均目標株価は361.86ドルと、現行株価から約36%の上昇余地を示しており、最も強気な見方では440ドルと65%の上昇を想定している。Needhamのスコット・バーグは、Agentforceがすでに企業にとって不可欠な業務支援基盤となりつつあると指摘した。
また、Salesforceが提示する2026年度見通しにおいては、売上高が前年比7〜8%増の405〜409億ドル、調整後EPSが11.09〜11.17ドルとされており、業績面でも持続的な成長が見込まれている。この点が、アナリストの強気姿勢を支える基礎材料となっている。
ただし、株価上昇の前提には、Agentforceの収益貢献が定量的に拡大する必要がある。アナリスト評価は中長期的な成長を前提としたものであり、その信頼性は市場実績の蓄積とともに変化しうる。期待先行で評価が膨らむ局面では、需給バランスの変動による株価の過度な反応にも注意が求められる。
Source:Barchart