ウォーレン・バフェットの年次総会「資本家のウッドストック」は、例年4万人以上の参加者をネブラスカ州オマハに集める一大イベントだが、今年は海外からの出席者数が大幅に減少する可能性がある。中国やインドネシアの株主からは、米中関係の悪化や現地の治安懸念、通関でのトラブルなどを理由に訪米を断念する声が相次ぐ。
中国政府が米国旅行に対するリスク警告を発し、現地の旅行代理店もオマハ行きツアーを縮小。バフェット自身が国際的関心の高まりに応じて設けた外国人向けレセプションも、参加者急増によりすでに中止されている。国際的な株主構成の変化が、年次総会の風景を静かに塗り替えつつある。
海外株主の足取りに影を落とす米中関係の緊張と治安不安

2025年のバークシャー・ハサウェイ年次総会を前に、例年世界各地から詰めかける外国人株主の出席動向に変化が見られている。中でも顕著なのは中国からの来訪者減である。広州の投資家・辛進は、長年のバフェット信奉者でありながらも「現地の政治情勢が不安」と語り、今春の渡航を見送った。さらに上海の参加経験者も、安全保障上の理由から訪米を断念。インドネシアの株主に至っては、「税関で不必要な問題に巻き込まれることへの懸念」を明かした。
背景には、トランプ政権下で再燃した通商摩擦の影響がある。中国政府はアメリカ旅行に対し「経済・貿易関係の悪化と治安悪化」を根拠としたリスク警告を発出。この通知は、民間レベルの交流にも確実に波及している。現地では、旅行代理店がオマハ行きパッケージツアーの取り扱いを縮小するなど、受け入れ態勢の変化も起きている。
こうした動きは単なる偶発的な現象ではなく、地政学的リスクが企業活動や株主参加にも直結する現実を物語る。世界中からの支持が集まる総会という性格ゆえに、国際関係の変化が可視化されやすくなっているのが現状である。
総会の国際化と若年層シフトがもたらす新たな構図
メリーランド大学のデイビッド・カス教授は、近年のバークシャー総会について「初参加者が目立つようになり、その多くが若く、かつ国際的な背景を持つ」と指摘している。これはバフェットの思想が国境と世代を超えて浸透し始めた証左であり、企業のオーナーシップ構造にも変化をもたらしている。こうした新たな参加者層は、従来型の米国中心の株主構成を多様化させ、年次総会の性格そのものを変えつつある。
バフェットは2009年の株主向け書簡にて「海外からの来訪者が800人に達し、サイン対応だけで2時間半を要した」と記しており、国際的な関心の高まりを自ら歓迎しつつも、対応の限界を認めていた。その後、パートナーだったチャーリー・マンガーと共に外国人向けレセプションを中止した経緯もある。これらの事実は、年次総会がいかに個別対応の限界を超えて、グローバルイベントへと進化してきたかを物語る。
この変化は同時に、株主の期待が「単なるバフェットの言葉」にとどまらず、継承者グレッグ・エイベルや保険部門トップのアジット・ジェインへの関心へと広がっていることを意味する。つまり、年次総会は今や”バフェットの舞台”から”Berkshireという思想の共有の場”へと脱皮しつつある。
Source:CNBC