ノースカロライナ州下院は4月30日、州財政の一部をビットコイン関連ファンドに投資可能とする「戦略的ビットコイン準備基金法案(HB92)」を可決した。法案は下院議長デスティン・ホール氏の主導により進められ、州の財務ポートフォリオ多様化と長期的な収益向上を意図する。
直接的な暗号通貨購入は禁止される一方、ミューチュアル・ファンドなどを通じた間接投資を可能とする設計であり、ボラティリティへの配慮が組み込まれている。反対意見も存在するが、州知事ジョシュ・スタイン氏は支持を表明しており、アリゾナやニューメキシコの都市ロズウェルなど、他地域にも同様の動きが広がっている。
ノースカロライナ州が採択したHB92法案の核心内容と制度設計の特徴

2024年4月30日にノースカロライナ州下院で可決された「戦略的ビットコイン準備基金法案(House Bill 92)」は、同州が公式にデジタル資産を州財政に組み込むことを認めた重要な制度的一歩である。この法案は、州が直接暗号通貨を保有することは認めていないが、ビットコインを含むミューチュアル・ファンドなど間接的な投資手段を通じてポートフォリオを構成することを可能にする内容となっている。
これにより、価格変動のリスクを抑えつつ、インフレ対策や分散投資の効果を狙う設計である。主導者である下院議長デスティン・ホール氏は、州の財政運用における進歩的アプローチを示すものとしてこの法案を強く推進した。
法案の中では、年金基金を含む公的資金への適用も視野に入れており、特定の比率での資産配分が今後議論の焦点となる可能性がある。また、既存の金融商品を活用することで、制度設計上のリスク回避策が講じられている点が注目される。一方、慎重派はデジタル資産特有のボラティリティを問題視しており、例えば民主党のマリア・セルバニア下院議員は、「本法案の意図と資金配分への姿勢には疑念が残る」との懸念を表明した。
このように、州法としての実装に至った今回の法案は、今後他州にも影響を与えうる先進的なモデルケースとなるが、その最終的な有効性は実運用の中で検証されることとなろう。
州政府におけるビットコイン導入の動機と全米的な制度潮流
ノースカロライナ州の動きは単独の事例ではなく、全米で進行中の「公的部門によるデジタル資産受容」の潮流の一端と位置づけられる。特にアリゾナ州では、州の準備金の最大10%を暗号資産に投資可能とする法案が通過しており、公共財政への暗号通貨導入は地理的にも制度的にも広がりを見せている。またニューメキシコ州ロズウェル市は、2025年に米国内で初めてビットコインを準備通貨として正式採用した地方自治体となり、地方レベルでも制度導入の動きが加速している。
こうした動きの背景には、インフレ圧力や地政学的リスクを受けた既存通貨への信頼低下と、デジタル資産への新たな価値保存機能への期待がある。さらに、暗号通貨は中央政府の財政・金融政策の影響を受けにくいとされ、自治体単位でのリスク分散手段としても注目を集めている。ただし、こうした制度導入は価格変動性、規制未整備、会計処理の複雑性といった技術的課題を内包しており、安定的な運用体制を構築するには相応の準備が求められる。
ノースカロライナ州の法案は、こうした全米的な文脈においてもバランスを取った制度設計を特徴としており、直接保有ではなく間接投資を選択することで、技術的および政治的リスクを抑える意図が明確に読み取れる。今後、他州がこのモデルに追随するか否かは、制度設計の柔軟性と実運用での成果に大きく左右されるだろう。
州内外の評価と制度運用に向けた課題
HB92の可決は支持一色ではなく、州議会内外で賛否が分かれている。支持派は、ノースカロライナ州が革新的な金融手段を採用することで、州の財政収支に新たな成長エンジンを加える可能性を評価している。ジョシュ・スタイン州知事もこの法案に賛同を示しており、財務官により広範な裁量を与える方向性が肯定的に捉えられている。一方で、ノースカロライナ州職員協会の一部や野党議員は、リスク管理の不透明性や資産価格の変動性を問題視しており、特に年金基金への適用には慎重な姿勢を崩していない。
現実的な課題としては、約160億ドルの赤字を抱える州の年金制度との整合性である。仮に本制度が部分的にでも適用される場合、運用リスクと収益性のバランスが問われることになる。また、暗号資産への公的投資は国民の信頼性確保にも直結するため、制度の透明性、監査体制、投資基準など詳細設計の実効性が厳しく問われる。さらには、価格変動リスクを制御するために導入されたミューチュアル・ファンド経由の投資であっても、市場全体の暴落時には州予算に影響を及ぼす可能性を否定できない。
今後、同様の制度を検討する他州にとっても、ノースカロライナ州の事例は単なる参考ではなく、制度構築時の実証的な検討材料となる。成功するためには、政治的合意形成のみならず、技術面・制度面での高い精度が求められる。こうした包括的な制度設計の巧拙が、米国内におけるデジタル通貨の制度的定着に影響を与えることは間違いない。
Source:CoinGape