ARK社のキャシー・ウッド氏は、連邦準備制度による急激な利上げや住宅・製造業の不調、中小企業の悲観的な見通しにもかかわらず、米経済はイノベーションを原動力とする成長局面に転じる可能性があると語る。

特にAIやロボティクス、エネルギー貯蔵など五つの革新分野は、生産性向上とインフレ抑制に寄与し得るとし、既にバリュエーション面でも割安である点を強調。現在の市場の混乱が整備されれば、経済成長は再び勢いを取り戻し、歴史的な強気相場への転換が起こるという見方を示した。

イノベーション主導の景気転換に向けた布石

キャシー・ウッド氏は、2020年代初頭の米経済が「ローリング・リセッション(断続的な景気後退)」にあったとした上で、次なる局面としてイノベーションを起点とする景気の反転を指摘する。FRBによる歴史的な利上げは住宅市場を筆頭に中小企業、製造業、消費活動に波及し、あらゆるセクターに逆風をもたらしてきた。2025年第1四半期の実質GDPが年率2.5%の減少と見積もられる中、政策や貿易の正常化が進めば、こうした不安定な状況が終息に向かう可能性も示唆されている。

特に注目されるのがAIやロボティクス、ブロックチェーンなど5つの技術革新分野である。これらの分野は近年著しく進展し、コスト低下と処理能力の向上により、企業の生産性を根本的に変革しうるとされる。たとえば、AIの演算性能は年単位で倍増し、ソフト・ハード両面でコストは年率45%以上のペースで低下している。これにより、従来の景気刺激策とは異なる構造的な成長の地盤が築かれつつある。

イノベーションが本格的な景気浮揚の引き金となるかどうかは、政策環境と市場参加者の行動にかかっている。短期的には景気後退の余波が残る可能性がある一方、構造転換が進めば、次の成長サイクルは技術と生産性の飛躍に根差した新たな局面へと移行していく余地がある。

イノベーション株のバリュエーションが映す投資機会

ARKの「破壊的イノベーション」ポートフォリオに象徴されるように、革新を軸に据えた企業の株価は、過去4年間で激しい評価変動に晒されてきた。2021年6月末には278%に達していたバリュエーション・プレミアムは、2025年3月時点で13.3%にまで縮小しており、これは投資家がイノベーションへの期待を一時的に後退させた証左である。ChatGPTの登場やNvidia、Amazon、Microsoftといった企業の株価上昇が示すように、技術革新の波は着実に進行しているものの、指数に含まれない新興企業への資金流入は限定的にとどまっている。

高金利、狭い範囲での強気相場、過剰評価という三重苦の中で、イノベーション株は試練の時を過ごしてきた。ただし、これらの逆風が和らぐ兆しが見える中、構造的な成長期待と割安感が投資妙味を高めている点は見逃せない。特に今後の政策の方向性が明確になり、自由貿易の回帰が現実味を帯びるならば、イノベーション企業群の再評価は市場全体に波及する可能性もある。

過去のテック・バブルが撒いた種が25年の歳月を経て今まさに芽吹きつつある局面で、資金配分を慎重に見直すことが求められる。変革の初動にある現在は、投資判断の精度が将来のパフォーマンスを大きく左右するタイミングであり、躊躇の代償は大きくなり得る。

Source:Investing.com