テスラがCEO交代に向けた人材サーチを進めているとの報道により、同社株が注目を集めている。ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えたこの報道に対し、会長ロビン・デンホルムは即座に全面否定したが、UBSはテスラのAI戦略の実現可能性に疑問を呈し、株価下値余地を190ドルと見積もっている。
アナリストのジョセフ・スパックは、マスクの後任が市場の信認を得るのは困難であり、主力のEV事業が不調な中でAI分野への過度な依存はリスクを伴うと指摘している。
テスラ取締役会によるCEO交代報道とデンホルム会長の全面否定

2024年5月に報じられたウォール・ストリート・ジャーナルの内容によれば、テスラ取締役会がイーロン・マスクの後任となるCEOを複数のエグゼクティブ・サーチ会社を通じて探しているとされる。これを受けて市場では経営体制に対する不確実性が意識され、報道直後からTSLA株が物色された。
一方、取締役会会長ロビン・デンホルムはこの報道について「完全な虚偽である」と断言し、同社としてマスクの退任を計画していない姿勢を鮮明にした。この発言が市場の過度な懸念を緩和し、一時的な株価の持ち直しに寄与したと見られる。
しかし、CEO交代というテーマが持つ影響力は極めて大きい。マスクは自動車業界における破壊的革新者としてのみならず、テスラのブランドそのものを象徴する存在でもある。仮に彼が退く場合、それが取締役会の主導によるものか、マスク自身の意志によるものかにかかわらず、市場参加者はリーダーシップと戦略方向性の再評価を迫られることになる。デンホルムの否定発言が真実であっても、こうした観測が表面化したこと自体、同社にとって無視し得ない経営リスクを浮き彫りにしたと言える。
UBSのTSLA株評価とAIナラティブへの懐疑
UBS証券のアナリスト、ジョセフ・スパックは、テスラの株価に対して悲観的な見通しを示しており、目標株価を190ドルと設定して「Sell(売り)」の評価を維持している。これは現在の市場価格から30%以上の下落余地を示唆しており、その根拠にはテスラのEV事業の停滞と、AI分野への過度な期待がある。スパックは「これほどキーマン・リスクが大きい企業は他にない」と述べ、マスクが退任した場合、彼のように市場や投資家を惹きつける後任を見つけることは極めて困難であると警告する。
また、彼は一部で形成されている「テスラはもはやAI企業である」とのナラティブにも懐疑的である。自動運転車や人型ロボットといったAI技術への注力は評価される一方で、それが業績面にどれほど寄与しているかは定かではなく、現在の事業基盤は依然として自動車販売に依拠しているとの認識を示している。
加えて、その主力事業であるEV販売が年初来で30%以上も株価を押し下げている現状を踏まえると、AI領域での成長が業績と株価を支えるには、明確な実績と収益化の道筋が求められる。AIの将来性を過信すべきではないとの見方が、UBSの分析にはにじんでいる。
Source:Barchart