Amazon支援を受ける米AI企業Anthropicが、中国へのAI GPU密輸が「義腹」や「ロブスター同梱」といった高度な手口で行われていると主張し、米政府に輸出規制の一層の強化を求めた。これに対しNVIDIAは、これらの主張を「荒唐無稽」と一蹴し、規制強化ではなく技術革新への注力を促す姿勢を示した。
新たに発効する「AI拡散規則」は、高性能AIチップの国際的輸出管理を再編成するもので、NVIDIAの海外事業にさらなる不透明性をもたらす可能性がある。加えてトランプ前政権の規制再検討も重なり、地政学的緊張が企業戦略に及ぼす影響は看過できない。
米中間のテクノロジー主導の競争が激化する中、GPUを巡る規制論争は、単なる輸出管理の枠を超えた国際的な産業主導権争いの様相を呈しつつある。
Anthropicが主張する密輸手法とその背景

Anthropicは2025年4月末、中国におけるAI GPUの密輸が「義腹」や「生きたロブスターとの同梱」といった手段で行われていると主張し、これらが米国製プロセッサーの輸出規制強化を求める根拠であると訴えた。
米国からのチップ流出が物理的にどのような経路をたどっているのかは明らかにされていないが、Anthropicは数億ドル規模の密輸ネットワークが存在するとしており、単なる違法行為ではなく国家主導の技術獲得戦略と結びついている可能性があると示唆した。
このような主張は、AIインフラの安全保障的側面を強調する意図が読み取れ、米商務省が2023年から段階的に実施してきた「AI拡散規則」の正当性を補強する材料ともなり得る。ただし、密輸の具体的な証拠は提示されておらず、米政府関係者の公式見解も現時点では示されていない。Anthropicの動きは、単なる情報提供ではなく、政策形成における立場確保を狙った戦略的発信と見る余地もある。
密輸の高度化を巡る警鐘は、国家間競争の舞台が軍事から経済・テクノロジー領域へと移行するなかで、特にAI関連分野における規制論争を加速させる要因となっている。
NVIDIAが語る規制批判と国際市場への懸念
NVIDIAはAnthropicの密輸疑惑を「作り話」と断じ、AI開発を推進するうえで規制ではなく技術革新への注力こそが必要であると反論した。
特に、義腹などに先端GPUを隠すという主張に対し、「大型で繊細な電子機器をそのような方法で運ぶのは非現実的」と述べ、メディア上での印象操作に警戒感を示した。5月15日に発効予定の「AI拡散規則」が、自社の国際チップ販売事業に不確実性をもたらしているとの認識も背景にある。
NVIDIAは米中間のテクノロジー摩擦の中で、民間企業としての柔軟性を維持しながら市場シェアを拡大するという難題に直面している。規制が強化されれば、新興市場へのアクセスやパートナーシップの構築が困難となり、結果的に米国の技術的優位性を損なう可能性があるとの懸念をにじませている。規制主導の対応は、現場の技術革新や市場ニーズと乖離し、企業活動を萎縮させるリスクがあるとの立場だ。
このような構図は、政策決定と産業現場の認識ギャップが拡大しつつあることを示唆しており、国益と企業利益の両立をいかに図るかが今後の焦点となる。
Source:TweakTown