2025年末に予定されるウォーレン・バフェットの退任表明を受け、バークシャー・ハサウェイの株価は5%下落し、市場に動揺が広がった。60年以上にわたり同社を率いた伝説的投資家の退場は、象徴的な存在の喪失として受け止められている。

一方、後継者グレッグ・エーブルは保守的かつ現実主義的な経営者として社内外から高い信頼を集め、ユーティリティ分野での豊富な実績と堅実な財務方針を背景に長期的な安定経営が期待される。株価下落は一時的な感情的反応との見方もあり、バークシャーの堅牢な財務基盤と優良資産群は依然として魅力的である。

現在のバリュエーションと事業体力を踏まえると、短期の不確実性の裏に、割安で強固な投資先という評価が潜在している可能性は否定できない。

バフェット退任発表がもたらした市場の揺れと株価急落の背景

2025年5月3日に明かされたウォーレン・バフェットの年内退任表明は、金融市場に大きな衝撃をもたらし、バークシャー・ハサウェイ(BRK.A/BRK.B)の株価は週明けに5%近く下落した。60年以上にわたり複合企業体を率いてきたバフェットの退任は、単なるCEO交代以上の意味を持ち、同社に対する投資家の心理的安定を揺るがした。とりわけ「会社の心臓部」とまで称されたバフェットの存在が消えることに対する不安が、短期的な利益確定売りや投資ポジションの巻き戻しを誘発したと見られる。

だが過去の類似事例を振り返ると、象徴的リーダーの退任時に株価が一時的に下落するのは珍しくない。Appleのスティーブ・ジョブズ退任後の一時的な調整や、Microsoftでのビル・ゲイツ退任時の株価反応がそれにあたる。長期的にはいずれも企業価値が回復し、後任の経営陣が安定的成長を支えてきた歴史がある。バークシャーの今回の反応も、象徴性の変化に伴う短期的な揺れと整理できる可能性がある。

とはいえ、バフェットの退任によって長年にわたり企業価値の一部として織り込まれてきた「バフェット・プレミアム」が後退するとの見方も一部に存在し、それが評価減の一因となる懸念は拭えない。市場の初期反応は、そうしたプレミアムの見直しを織り込んだものである可能性もある。

グレッグ・エーブルの実績と資質がもたらす継続性への期待

新たな最高経営責任者となる62歳のグレッグ・エーブルは、2000年にMidAmerican Energy(現在のバークシャー・ハサウェイ・エナジー)を通じてバークシャーに参画して以降、20年以上にわたり非金融部門を牽引してきた実績を持つ。2018年には「非保険部門の副会長」に就任し、ユーティリティ、鉄道、工業、小売など多岐にわたる事業を監督。バフェットはすでに2021年にエーブルを公式に後継指名しており、その時点で事実上の権限移譲が始まっていたとされる。

エーブルは、慎重かつ現場重視の姿勢で知られており、風力・太陽光などの再生可能エネルギー、ならびに送電インフラへの投資を推進し、BHEを米国有数のユーティリティ持株会社へと成長させた。その経営手腕は、バフェットの重視する長期的視野、分散投資、キャッシュ重視の保守的戦略とも整合しており、企業文化との整合性も高いと評価されている。

バフェットは今後も会長職にとどまり、移行期間中の助言を続ける意向であり、急激な方針転換が起きる可能性は限定的である。エーブルは故チャーリー・マンガーを含む経営陣からの直接的な薫陶を長年受けており、既に経営スタイルが社内に浸透している点も継続性を担保する根拠となる。これらの要素は、経営陣交代という事実に対する市場の警戒感を中長期で解消する要因となりうる。

財務の盤石性と資産構成が示す防御力と投資妙味

2025年第1四半期時点におけるバークシャー・ハサウェイの財務状況は、グローバル企業の中でも屈指の強固さを誇っている。現金および短期米国債による流動資産は3,470億ドルに達し、そのうち3,140億ドルが短期債で運用されている点は、金融市場の不透明感が高まる中で極めて高い柔軟性を示している。こうした資本配分は、金融危機や政策変更時における機動性を高める戦略的備えでもある。

加えて、同社はBNSF鉄道、Geico、バークシャー・ハサウェイ・エナジーといった安定収益源を擁し、加えてApple、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラなど、グローバルブランドへの大規模かつ長期的な株式保有を通じた利益も期待できる構造となっている。これにより、多様な収益源の組み合わせによる分散効果が働き、単一市場や業種への過度な依存を回避している。

現在の株価は簿価に対してプレミアムが限定的であり、長期投資家からは割安感が意識され始めている。バフェット退任によって一時的に「バフェット・プレミアム」が剥落する場面も想定されるが、それが投資妙味のある水準を示唆している可能性もある。とりわけ、AIデータセンターによる電力需要増が指摘される中で、エーブルのエネルギー事業における手腕が再評価される展開も視野に入る。投資判断においては、短期の混乱ではなく、構造的な強みと実行力に目を向ける姿勢が求められる。

Source:Barchart