アマゾンは、2025年4月の米国裁判所による判決を受け、iOS版Kindleアプリに「Get book」ボタンを導入した。従来はAppleのアプリストア規約により、アプリ内から代替決済サイトへの誘導が禁じられ、ユーザーはブラウザ経由でのみ電子書籍を購入できた。
しかしEpic Games対Apple裁判での判決により、Appleの27%課税や制限が一時的に無効化され、アマゾンは利便性を大幅に向上させた。今後、Apple側が控訴で勝訴した場合、この新機能が撤回される可能性も残る。
アマゾンがiOS版Kindleに「Get book」ボタンを実装した背景と具体的内容

アマゾンは2025年5月、iOS版Kindleアプリに新たな「Get book」ボタンを導入した。この背景には、Epic Games対Appleの訴訟でイボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事が下した2025年4月30日の判決がある。この判決により、Appleは開発者がアプリ内で代替決済方法を示すことを制限できず、さらに外部購入に対して27%の手数料を課すことも禁じられた。
アマゾンはこの決定を受け、従来はiOSアプリ内で不可能だった書籍購入体験を大幅に改善した。これまで、ユーザーはiPhoneやiPadでKindleアプリを使用する際、アプリから直接書籍を買うことはできず、ブラウザを経由してAmazonのオンラインストアで購入する必要があった。
これに対し、専用端末であるKindleでは、旧来のWhispernetにより、Wi-Fiがない環境でも書籍購入が可能であったことが、同端末の強みとなっていた。今回のボタン追加は、電子書籍市場におけるアマゾンの立場をさらに強化し、モバイルユーザーにも利便性を広げる一手と位置づけられる。
アップル控訴中の不安定な状況と電子書籍市場の今後
現時点でAppleは今回の判決に控訴しており、今後の状況は流動的である。仮にApple側が控訴で勝訴すれば、再びアマゾンはアプリ内の「Get book」ボタンを削除し、ユーザーは従来の煩雑なブラウザ経由の購入方法へ戻る可能性が高い。
この不安定な状況は、単にアマゾンやAppleに限らず、他の大手サービス事業者にも影響を与えている。現段階では、判決に従っているAppleが各アプリ提供者に対し新たな動線を許可する形となり、NetflixやSpotifyといった企業も支払い機能の改善を図っている。
このように、米国市場ではApp Storeの支配構造に変化の兆しが見え始めているが、今後の裁判結果次第で業界全体の戦略が修正される余地は残されている。断定はできないものの、電子書籍を含むサブスクリプション型サービスが、どのような技術的・法的制約下で成長していくかは、2025年後半の大きな焦点となろう。
モバイル体験改善がもたらすアマゾンの戦略的意図
アマゾンは今回のアップデートを、単なる機能改善ではなく、モバイル端末利用者への戦略的投資として位置づけていると考えられる。アマゾン広報担当のティム・ギルマンがThe Vergeに語ったように、「お客様にできる限り便利な体験を提供する」ことは、Kindle端末とアプリの両輪による市場支配の鍵である。
実際、2024年までの状況では、Appleのアプリ内決済における30%の手数料と、代替決済課税27%を回避するため、ユーザーにブラウザ購入を強いていた。しかし、この煩雑さは購買意欲を下げ、結果としてAmazonのモバイル分野での収益拡大を阻害していた側面がある。
今回の「Get book」ボタンの導入は、モバイルにおけるUX向上だけでなく、長期的にはKindleブランドの価値を再定義し、電子書籍市場全体における競争優位性を強める意図が込められていると推察される。
Source:The Verge