ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、株式市場が高値圏で推移するなか、10四半期連続で株式比率を削減し、短期米国債を中心に現金3,470億ドルを蓄積した。現在ではTビル市場の5.1%を単独で保有し、FRBすら上回る規模である。この現金偏重の姿勢は単なるリスク回避ではない。バフェットは市場の過熱感に冷静な距離を取りつつ、「絶好球」を待つ戦略的な姿勢を貫いている。

彼が繰り返し強調するのは、「常にフル投資せず、待つことで多くの利益を得てきた」という一貫した哲学である。背景には、故チャーリー・マンガーが説いた「少数精鋭の意思決定」の思想が根強く残る。バークシャーは喧騒を避け、わずかな好機に全力を投じる準備を整えている。

株式市場への慎重姿勢と「価格重視」の哲学

ウォーレン・バフェットは、バークシャー・ハサウェイの資本配分において「価格こそが最も重要」との原則を一貫して貫いている。AIや量子コンピューティング分野に対する熱狂的な期待が市場全体のバリュエーションを押し上げる中で、彼は現在の株価水準では魅力的な投資機会が見出せないと明言する。S&P500が史上最高値に迫る状況でも、バフェットは株式の追加取得を控え、10四半期連続でポジションを縮小した。

市場が熱狂的な時こそ冷静さが求められる。バフェットは「投資ビジネスでの唯一の問題は、物事が秩序正しく現れることはない」と述べ、好機が自然に並ぶようには訪れないという投資の不確実性を前提としている。この前提に立ち、価格が適正になるまで待つという姿勢は、短期的な利益追求とは一線を画す。過剰な期待に乗るのではなく、本質的価値とのギャップを見極める洞察が求められている。バフェットの姿勢は、投資家が集団心理に流されず、個別の価値判断を尊重すべきことを示唆している。

フル投資を避ける勇気が生んだ累積的な成功

バフェットはこれまでの成功を「常にフル投資を避けてきたこと」によるものと振り返る。この発言の裏には、限られた資源を無理に拡散させず、極めて選別的に機会を捉えるという信念がある。バークシャー・ハサウェイが持つ3,470億ドルの現金は、単なる安全資産ではなく、次なる「絶好球」を逃さぬための弾薬である。Tビルという低リスク資産を保持しながら、平均4.36%の利回りを得つつ待機する姿勢は、あらゆる環境で柔軟に対応可能な財務基盤を築いている。

加えて、故チャーリー・マンガーの「少数の勝負が多数の賭けよりも良い結果をもたらす」という思想が色濃く反映されている。巨大企業であるバークシャーにとって、小規模な投資は収益に対する影響が乏しく、むしろ機動性を削ぐ要因となりうる。市場のボラティリティが高まる今、無理に資本を動かさずに「選択と集中」を貫く姿勢は、経験に裏打ちされた合理的判断といえる。好機が来るまで動かず、来た時には迷わず振り抜く。それが、長期にわたり市場をリードしてきた投資家の基本動作である。

Source:Barchart