マイクロソフトは、Windows 11の「Photos」「Paint」「Snipping Tool」にAI機能を大幅拡充し、先進的な画像処理およびコンテンツ抽出機能を追加した。これらのアップデートは、まずSnapdragon搭載のCopilot+ PCに限定して提供される。
PhotosにはAI照明編集機能「Relight」が導入され、最大3つの動的光源を自在に操作可能となったほか、Paintにはテキストからステッカーを生成する機能や、AIによる精緻なオブジェクト選択機能が加わった。Snipping Toolでは画面上の主要要素を自動識別するキャプチャ支援や、即時のテキスト抽出、色取得ツールが搭載された。
また、ジェネレーティブ画像生成の高速化、ナレーターによる視覚情報の詳細読取機能など、アクセシビリティ面でもAIの応用が進んでおり、高性能PC市場におけるAI搭載端末の競争優位性を意識した戦略と読み取れる。
PhotosとPaintに見るAI編集機能の深化と用途拡張

Windows 11のPhotosアプリに追加された「Relight」は、最大3点の光源を自在に設定し、被写体の立体感や表情を際立たせる画像処理機能である。従来は高価な編集ソフトと専門技術を要した照明補正を、プリセット操作と直感的なパラメータ調整で完結させた点が特筆される。AIが画像内の奥行きと構造を解析することで、単なる明度変更にとどまらない自然な光の再現を可能にしている。
一方、Paintに搭載された「ステッカー生成」と「オブジェクト選択」は、デザイン業務や資料作成の即応性を高める。特にステッカー生成は、プロンプトベースでのグラフィック生成を導入することで、社内文書やSNS配信用素材の即時作成を支援する。オブジェクト選択機能は背景との分離精度が向上し、従来のような境界処理の手間を削減するため、プレゼン資料や広告ビジュアルの作成において実用価値が高い。
これらの機能は、まずSnapdragonを搭載したCopilot+ PCで限定展開される点からも、ハードウェアスペックを前提としたAI処理の負荷の高さを物語っている。今後、より広範なデバイス対応が進めば、ノンデザイナー層の業務効率向上にも波及効果をもたらす可能性がある。
Snipping Toolの自動認識機能と作業効率への波及
Snipping Toolに導入されたAI自動認識機能は、画面上の図表や画像などの視覚的に重要な要素を自動で検出し、対象範囲を即時に選択する仕組みである。これにより、従来の手動操作で発生していた選択範囲の誤差やトリミング工数を大幅に削減できる。特に報告書作成や市場分析資料において、可視化データの迅速な取り込みに寄与すると考えられる。
さらに、画像内のテキストをそのまま抽出できる機能は、OCR(光学文字認識)技術とAIの統合によって実現されたものであり、スクリーンショットからのデータ転記や翻訳作業を不要とする。加えて、PowerToysを彷彿とさせるカラーピッカーツールの搭載により、ブランディングやデザイン作業における色管理も一元化できる点が見逃せない。
これら一連の機能強化は、いずれもスキルに依存せず作業効率を引き上げることを意識した構成であり、情報処理の現場において再現性の高い業務フロー構築を支援する。汎用ツールにAIを組み込むことで、業務の「手間」を根本から再定義しようとするMicrosoftの意図が感じられる。
AIアクセシビリティの進化が示すインクルーシブ設計の方向性
Snapdragon搭載のCopilot+ PCにおけるナレーター機能の強化は、画像やインターフェースの構成要素をAIが自動認識し、視覚障がい者に向けて詳細な読み上げを行うという革新的な試みである。これにより、従来は読み上げに対応しなかったUI部品やグラフィカルデータに対するアクセシビリティが格段に向上する。
人物・色・テキスト・チャートなどをAIが即時識別し、文脈を含めて音声で伝えることで、視覚による理解を前提としないUX(ユーザー体験)が実現される。このような設計は、単なる補助機能ではなく、障がいの有無にかかわらず全ての利用者を包摂する姿勢の表れといえる。
今回の改善は、限定的なハードウェアでの提供にとどまるものの、Microsoftが掲げる「アクセシビリティ・バイ・デザイン」の理念を体現する具体例として位置づけられる。情報の届き方における格差をAIで解消しようとする動きは、今後のOS設計における一つの標準的要件となっていく可能性が高い。
Source:Windows Report