2025年春、トランプ政権による対外関税強化により、S&P500は最高値から19%下落し、米国株式市場はかつてない動揺に直面している。JPMorganのジェイミー・ダイモンは経済成長の鈍化とインフレ加速を警告し、ビル・アックマンも「経済的な核の冬」を示唆。こうした状況下で投資家心理は冷え込む一方、ウォーレン・バフェットは短期的な予測を退け、合理的な価格での投資継続を促している。


市場が恐怖と不確実性に包まれているときこそ、優良企業の株を妥当な水準で取得すれば将来的な収益機会を逃さないとの主張は、景気後退懸念が広がる現局面において示唆的である。相場の一時的な揺らぎに惑わされず、長期的視野に立った銘柄選定が試されている。

S&P500は関税政策で急落 市場に走る不安と回復の兆し

2025年の米国市場は、トランプ大統領による「解放の日」関税の導入を契機に大きく動揺した。4月2日の発表を受け、S&P500は過去7週間で19%の下落を記録。これは年初の上昇幅を完全に打ち消す水準であり、中国やカナダなど主要貿易相手国への追加課税措置が市場心理を大きく冷やしたことを示す。4月8日には一時的な最安値をつけたが、その後、報復関税の一部猶予措置が発表されたことで下落は一服した。

JPMorganのジェイミー・ダイモンは米国経済の成長鈍化と物価高の懸念を表明し、ビル・アックマンも「経済的な核の冬」に直面する可能性を指摘。企業収益見通しの下方修正が相次ぎ、景気後退リスクが現実味を帯びる中で、S&P500は9日連続の反発に転じ、過去20年で最長の連騰を達成した。しかし、それでも最高値比で9%下の水準に留まり、関税水準は1930年代以来の高水準にある。これは、単なる一時的ショックではなく、構造的な市場の不安が根強く残っている証左でもある。

投資家にとって重要なのは、このような政策起因の混乱を短期的な値動きのみに捉えず、中長期的な企業価値や経済の持続性との対比で冷静に評価する姿勢である。市場は恐怖によって大きく振れるが、根本的な企業体質に変化がない場合、過度な売却は将来的な後悔を生む可能性もある。短期の価格変動と長期の価値創造の乖離が今、如実に現れている局面といえる。

バフェットが語る“適正価格で買う”という長期投資の核心

ウォーレン・バフェットは、株式市場の短期的な動向を予測することは不可能であり、将来の上昇局面は感情や経済の回復よりも先に訪れる可能性が高いと述べている。これは、現在のように経済的不透明感が強まる局面でも、株式投資に合理性を見出す重要な視座を与える。

彼は「理解しやすく、今後も着実に収益成長が期待できるビジネスを、合理的な価格で買うことこそが投資家の使命である」と繰り返し強調してきた。さらに、仮に株価が50%以上下落しても耐え得る投資判断を行うことが、結果的に年平均20%の高いリターンを実現してきた要因とされる。

この姿勢は、市場環境の好不調に関わらず、企業の本質的価値と株価の乖離を冷静に見極める力を投資家に求めるものである。特に関税政策のような外的ショックがもたらす価格変動は、優良企業に対する割安な買い場を提供する可能性がある。市場のセンチメントに追随せず、事業構造や将来収益性に基づく価値評価を重視することが、持続的な資産成長の鍵となる。今まさに試されているのは、「恐怖」ではなく「合理」に基づいた判断力である。

関税ショック下での銘柄選定とタイミング論の限界

市場が恐怖と混乱に包まれる中、バフェットは市場のタイミングを狙うことの危うさを指摘している。現在の関税起因による株価下落は、単なる下振れではなく、地政学的・通商政策的要因が複雑に絡み合う構造的な変動といえる。

投資家の多くは、情勢が安定するまで様子を見る傾向にあるが、感情が落ち着き経済指標が好転してからでは、すでに割安な価格は消失していることが多い。歴史的に見ても、株式市場は不安が最大限に高まった瞬間に底を打つことが多く、感情に左右された投資判断では機会損失に直結する。

その一方で、下落局面における全力買いは必ずしも推奨される戦略ではない。重要なのは、企業の収益力と財務体質を精査したうえで、価格と価値のギャップが明確に存在すると判断したときのみ、段階的かつ計画的に投資することである。市場のセンチメントを完全に無視することは現実的でないが、それに振り回されて好機を逃すことは避けねばならない。市場タイミングに依存せず、銘柄ごとの定量・定性評価に基づいた選定こそが、変動性の高い時代における投資の根幹を成す。

Source:The Motley Fool