電子設計分野のリーダーであるCadenceは、Nvidia RTX Pro 6000 Blackwell GPUとCUDA-Xツール群を採用したAIスーパーコンピューター「Millennium M2000」を発表した。EDAや創薬領域における高精度な解析ニーズに応えるため、従来のCPUベースのシステムと比較して最大80倍の性能を実現するという。

2025年のCadenceLIVE Silicon Valleyにて披露された本システムは、1台あたり約200万ドルと見込まれ、中小規模企業にも現実的な導入可能性を提供する。また、消費電力の削減にも注力し、従来比で1/20という高効率を実現している。

NASAやPfizerなど既存顧客に加え、今後さらに広範な業界への展開が視野に入る。Cadenceは専用設計とAI活用により、AIインフラの次なる段階を切り拓こうとしている。

Cadenceの「Millennium M2000」が提示するAI計算基盤の新機軸

Cadenceが発表した「Millennium M2000 Supercomputer」は、Nvidiaの最新Blackwell GPU「RTX Pro 6000」とHGX B200アーキテクチャを中核に据えた、極めて高性能なAI計算基盤である。

特にEDA(電子設計自動化)やSDA(システム設計・解析)、さらには創薬分野を対象に、従来型のCPUベースシステムと比して最大80倍の計算性能を実現する点が注目に値する。さらに、CUDA-Xツール群を統合することで、演算効率の最適化と開発プロセスの高速化も図られている。

加えて、本システムは消費電力の大幅な削減にも寄与しており、Cadenceによれば従来比で1/20という高効率を記録している。

これにより、従来はハイパースケーラーや外部データセンターとの契約が不可避だった高負荷演算領域において、インハウス運用が現実味を帯びてきた。さらに、導入企業の特定ニーズに応じたカスタマイズも可能で、1台あたり約200万ドルという価格帯は、特定業界においては費用対効果の高い投資対象となり得る。

こうした構成と設計思想は、単なる性能競争にとどまらず、AIによる設計・解析の現場での実用性を最優先に据えた開発方針を体現している。Cadenceがこの分野で提示した新基準は、AIスーパーコンピューターの商業的な導入可能性に一石を投じるものである。

異業種への拡張が示すCadenceの中長期戦略的転換

もともとEDA専業として知られてきたCadenceは、近年その事業領域を大きく拡張している。今回のMillennium M2000導入により、同社はGEやNASAとのCFD(数値流体力学)連携、さらにPfizerやAstraZenecaとの分子モデリング協業といった、医療・宇宙・製造の各分野に対しても明確な価値を提示している。

既存顧客の多くが次世代チップ開発を目的に同社ツールを活用してきた一方で、今後は設計以外の工程における活用余地も広がる可能性がある。

このような業種横断的な拡張戦略は、AIスーパーコンピューティングの真価が単なる速度や性能にあるのではなく、専門性の高い業務ニーズにどれだけ適応できるかにかかっていることを示唆する。Cadenceはこの文脈において、特化型AIソリューションを産業用途に実装する実務的視点を明確に持ち、ブラックボックスではない可視性の高い演算プロセスを重視している点が際立つ。

今後、他業界のニーズに対しM2000がどのように適応していくかは未知数だが、演算需要の内製化という潮流に乗る企業にとって、そのスケーラビリティとカスタマイズ性は大きな武器となり得る。Cadenceの動きは、AI計算資源をいかに効率的かつ持続可能に活用できるかを問う、新たな技術戦略の一端を成している。

Source:Tom’s Hardware