ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたテスラのCEO後任人事検討報道をめぐり、Elon Muskの退任リスクが株式市場に波紋を広げている。否定声明にもかかわらず、投資家心理は冷え込んだままだ。
2025年初頭にかけて同社は利益71%減、株価は高値から45%下落と逆風に直面しており、Gary Black氏はMuskの完全離任で25%の株価下落を予測する。AIやロボタクシーの展望はあるものの、業績悪化と指導力不安が重なり市場は一層神経質な様相を呈している。
テスラCEO交代の観測がもたらす市場動揺と25%下落リスクの試算

テスラがElon Muskの後任を模索しているとの報道が出た直後、現経営陣はこの情報を否定したが、投資家の動揺は広がり続けている。中でも注目を集めたのは、The Future FundのGary Black氏がSNS「X」で示した試算だ。彼はMuskが完全に退任した場合、テスラの株価は最大25%、すなわち約2,200億ドル規模の株主価値が消失する可能性があると述べた。一方、MuskがCTOなど別の役職にとどまるに留まれば、株価下落は5〜10%程度に収まると見られている。
このような見通しが出てくる背景には、2025年第1四半期に報告された利益71%減という厳しい決算内容がある。売上も前年同期比で9.2%減少し、営業利益率は11.4%から2.1%まで急落した。こうした中での指導者不在の懸念は、事業の持続性そのものに対する疑念を呼び起こしかねない。株価はすでに52週高値から40%下落しており、投資家心理は極めて脆弱な状態にある。
ただし、Musk本人はこの報道を「非常に悪質で意図的な虚偽」と強く否定しており、少なくとも短期的にはCEO職にとどまる構えを見せている。Wedbush SecuritiesのDan Ives氏も、Muskは今後5年は指揮を執り続けると予想しており、今回の報道はあくまで経営陣内の牽制としての意図が強いと分析している。とはいえ、Muskの政治的関与が高まる中で、同氏の存在が企業価値のボラティリティ要因であることは否めない。
業績低迷とマルチタスク経営への不信感が拭えない背景
2025年に入ってからのテスラは、業績面で多くの逆風に晒されている。第1四半期決算では、売上高が前年の233億ドルから193.4億ドルへと大きく減少し、粗利益率は19.3%から16.3%へ、営業利益率も2.1%まで下落した。中核である自動車事業が前年比で20%の売上減を記録していることは深刻であり、Muskの外部活動がこの構造的悪化を加速させたとの見方も少なくない。
特に批判を浴びているのは、Muskがテスラ以外の事業や公的活動に多大な時間を費やしている点である。報道によれば、彼は米政府内の新部門に関与しており、これが同社の運営に対する集中力を損なっているとされる。こうした状況に対して、Muskは5月からは政府関連活動を大幅に削減すると述べているが、すでに損なわれた投資家の信頼を回復するには時間を要するだろう。
一方、経営資源の再配分や次世代プロジェクトへの投資は継続されており、ロボタクシーやヒューマノイドロボットの試験運用など、将来性の高い分野への布石は打たれている。ただし、それが短期的な収益改善につながるかは不透明である。今の市場は、ビジョンよりも即時の成果を重視しており、戦略と実績のギャップが広がる中で、Muskのカリスマ性だけでは乗り切れない段階に差し掛かっている。
テスラ株は今後も高評価を維持できるのか
テスラ株は現在、将来調整後のPERが144倍と、過去5年平均の115倍を上回っており、依然として高い成長期待が織り込まれている。しかし、実態経済や業績指標がその期待に見合っていない現状では、株価の割高感が際立ちつつある。アナリスト41人中、買い推奨を維持する者は16人に留まり、13人が中立、10人が強く売りと評価している。
特に注目すべきは、アナリストの平均目標株価が283.14ドルと、現在の株価を下回っている点だ。このことは、市場がテスラに対して依然高い期待を持ちながらも、短期的には下方修正を想定していることを示している。こうした中で、新技術による業績回復の実現性や、競争激化するEV市場への対応力が問われている。
とはいえ、エネルギー事業における売上67%増という成果は、テスラの成長ドライバーとしての新たな柱となり得る。MuskはAIインフラや電力網の安定化を支えるエネルギー製品の重要性を強調しており、この分野の拡大によって企業価値を再構築できる余地もある。ただし、収益基盤の多角化が本格的に評価されるには、時間と安定的な成果の蓄積が求められる。現在の市場は、そうした中長期的展望よりも、Muskの動向と企業統治に対する即時的な反応に敏感であることを忘れてはならない。
Source:Barchart