Nvidiaは、サウジ政府系新興企業Humainとの間で、数十万個規模のAIチップ供給を含む複数年契約を締結した。この提携は、サウジアラビアをAI強国に変える国家構想の中核を担うものであり、同国への6000億ドル規模の投資パッケージの一環として、ドナルド・トランプ前大統領が仲介したものとされる。これによりNvidia株は急伸し、4月初旬の安値から45%の上昇を記録。さらに、UAEとの新たな政府間取引の観測も相まって、市場は同社の成長余地に期待を強めている。
サウジの国家戦略に組み込まれたNvidia AIインフラ契約の意義

Nvidiaは、サウジアラビアの政府系ファンドが支援する新興企業Humainと、AIチップを数十万単位で提供する長期契約を締結した。今後5年間にわたりAI工場群を建設する構想は、サウジを世界的AI拠点とするムハンマド皇太子主導の国家計画「Vision 2030」の中枢を担う動きと位置づけられる。この契約にはドナルド・トランプ前大統領が仲介したとされる6000億ドル規模のアメリカ企業向け投資パッケージの一環という政治的背景もあり、単なる商業提携を超える意味を持つ。
この協業は、米中対立下での半導体供給網の分散化、加えてアジア依存回避の観点からも重要である。Nvidiaにとっては、制裁や規制の影響を受けにくい中東を成長市場として確保する格好の機会であり、収益基盤の地理的多様化にも資する可能性がある。一方、サウジ側にとっては、米国の先端技術を導入することで脱石油依存の産業構造改革を進める実利がある。こうした双方の利害が一致した結果として、今回の大型契約が成立したと考えられる。
AI覇権競争の地政学におけるUAE・サウジへの技術供給の意味
Nvidiaは今回のサウジ契約に加え、アラブ首長国連邦(UAE)への先端チップ供給についても、米ホワイトハウスが新たな取引の発表を準備していると報じられている。こうした中東諸国への技術供給の動きは、AIインフラをめぐる新たな地政学的競争の兆候といえる。米国は、AI技術を有する自国企業と湾岸諸国との戦略的連携を強化することで、中国やロシアに対抗する枠組みを構築しようとしている可能性がある。
この文脈においては、単なる商業的契約を超えた国家間の交渉が含意されるため、Nvidiaの売上拡大以上に、企業としての国際的役割と規制リスクのバランスが問われることになる。また、UAEやサウジといった中東のエネルギー大国がAI技術での優位を狙う動きは、米国のインフレ抑制政策やエネルギー安保とも複雑に絡む構造を形成している。AIチップが単なるIT資産ではなく、外交カードとして扱われる時代において、Nvidiaの技術供給はそのまま米国の対外政策の一部と化していると見るべきだろう。
株価上昇の背景にあるCitiの評価と市場コンセンサスの乖離
Nvidia株はHumainとの契約発表を受けて大幅に上昇し、4月初旬の安値から約45%もの値上がりを記録した。この急騰の背景には、Citiのアナリストであるアティフ・マリク氏が改めて「買い」評価を維持し、目標株価を150ドルに設定したことも影響している。マリク氏は今回の契約を、米国政府が新たに展開する国家間交渉のモデルケースと評価しており、企業単体の成長性に加えて地政学的な安定性も織り込んでいると考えられる。
しかし、ウォール街全体の評価を見ると、NVDAに対するコンセンサス目標株価はさらに高い166ドルであり、Citiの見解は相対的には慎重である。これは、将来の利益予想や成長率に対する評価がアナリスト間でも分かれていることを示唆している。特に、決算発表を控える時期にあって、0.83ドルという1株利益予想が現実化するか否かが、次の株価トレンドを左右する要因となる。Humainとの契約がどの程度業績に寄与するかは未確定であり、過度な楽観視には注意が必要である。
Source:Barchart