Intelは、GPUソフトウェアに関して計10件の高リスク脆弱性を新たに公表した。影響対象は第6世代Core以降の統合グラフィックスから、Iris Xe、Arc GPU、さらにはデータセンター向けFlex GPUまで広範に及び、最新版ドライバへの更新が必須となっている。問題の中心は不適切なアクセス制御で、特権昇格や情報漏洩を引き起こす可能性がある。

また今回の発表は、チューリッヒ工科大学が「Spectre v2」対策の回避手法を発見した直後のタイミングでもあり、Intelのセキュリティ対応に対する信頼性にも疑問が生じている。これらの脆弱性は全てローカルアクセスが必要とされるが、対策の遅れが企業や個人利用者にリスクを及ぼす懸念は拭えない。

加えて、2027年まで赤字が続く見通しのファウンドリ事業や人員削減など、経営の不透明感が増す中、度重なるセキュリティ問題の発生はIntelの競争力をさらに揺るがす要因と見られる。

深刻度の高い10件の脆弱性がIntel GPU全体に影響拡大

Intelが発表した10件の新たなセキュリティ脆弱性は、Skylake世代以降のCoreプロセッサに搭載される統合型グラフィックス、Iris Xe、Arc、さらにはData Center GPU Flex 140および170にまで及んでおり、影響範囲は広範に及ぶ。特に「不適切なアクセス制御」による脆弱性は繰り返し指摘されており、権限昇格、サービス拒否、情報漏洩といった多様な攻撃の起点となり得る構造的欠陥を含んでいる。

これらの問題は、2024年10月以降に提供された最新ドライバで修正されているとされるが、更新がなされていない環境では引き続きリスクが残存している。

今回の発見は、ユーザーが物理的にアクセスできるローカル環境での悪用に限定されることから、クラウド環境やリモート侵害の可能性は相対的に低いと評価されている。ただし企業の端末管理においては、攻撃者が内部ネットワークに侵入した場合のリスクが現実的となり得るため、単なる「一般ユーザー向けの問題」として片付けることはできない。過去の脆弱性管理の不徹底を踏まえれば、今回の脆弱性群はIntelのGPU設計哲学そのものに対する再評価を促す事象と位置づけられる。

Spectre v2対策を回避する新手法の発見とIntelへの影響

今回のGPUにおける脆弱性の公表と並行して、チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)の研究者により、Intelが実装した「Spectre v2」対策を無効化する新たな手法が確認された。これは分岐予測やサイドチャネル攻撃といったCPUレベルの脅威における既存防御策をすり抜けるものであり、ハードウェアレイヤーのセキュリティ対応における抜本的な見直しが迫られる内容である。Intelは公式にこの問題を認識し、影響を受けるユーザーに対しBIOSおよびマイクロコードの更新を求めている。

この種の脆弱性はローカルアクセスを前提としたものだが、被害の実例が現時点で確認されていないことは、セキュリティ対策における猶予を与えるものではない。サーバーや開発端末など、情報資産の集積度が高い環境ほど、潜在的リスクは無視できない。Spectreに代表されるサイドチャネル脅威は、設計思想に由来する根深い問題であり、特定のアップデートやパッチだけで恒久的な解決を期待することは難しい。Intelがこうした課題にどう向き合うかは、今後のプロセッサ市場全体の信頼構造に直結する。

度重なる脆弱性とIntel経営の不安定化との関係性

Intelは2027年までにファウンドリ事業が損益分岐点に到達すると見込んでおり、加えて今年は複数回の人員削減も実施している。そうしたなかで、GPUおよびCPU両面でのセキュリティ上の欠陥が相次いで表面化している点は、同社の事業運営における構造的問題を浮き彫りにしている。ソフトウェアやファームウェアの品質保証が後手に回る構図は、先端製品の開発・提供スピードを優先してきたことによる弊害とも受け取れる。

特に今回の脆弱性は、製品ライフサイクルを超えて多数の世代にわたり影響を及ぼしている点が注目に値する。これは、セキュリティ設計がプロセッサ世代ごとに十分に刷新されてこなかった可能性を示唆するものであり、競合と比較しても不安材料となる。今後、Intelが事業の信頼性を回復するには、単なる脆弱性パッチではなく、根本的な製品設計と開発体制の刷新が不可欠である。経営改革と技術的信頼性の再構築が、同社の競争力の鍵を握る局面を迎えている。

Source: Tom’s Hardware