Nvidiaは、サウジアラビア公共投資基金(PIF)傘下のHUMAINと大型AIインフラ契約を締結し、初期段階でBlackwell GPUを1万8000基以上供給することが明らかとなった。バンク・オブ・アメリカはこれを受けて目標株価を160ドルに引き上げ、主権AI分野で年間500億ドル規模の新市場が広がる可能性を示唆した。
サウジは国内に500メガワット級のデータセンターを建設予定で、AMDも同案件に関与している。中国向け輸出規制の影響を受ける中、Nvidiaは中東との連携を強化し、新たな成長領域を模索している。
サウジHUMAINとの契約が示すNvidiaの地政学的再配置戦略

Nvidiaは2024年5月、サウジアラビア公共投資基金(PIF)の子会社であるHUMAINと、Blackwell GPU 1万8000基を含む約70億ドル規模の契約を締結した。これは、総出力500メガワット級のデータセンター構築を含むプロジェクトの第一段階であり、今後5年間で数十万台規模のGPU供給が見込まれている。トランプ政権による対中AIチップ輸出規制が継続するなか、Nvidiaは中国以外の高需要地域との連携を強化しつつある。
バンク・オブ・アメリカ(BoA)はこの契約を受けて、Nvidiaの目標株価を150ドルから160ドルに引き上げた。さらに、年間500億ドル規模とされる「主権AI」市場の拡大が、同社の中長期的成長を支える重要な土台になると評価している。商業クラウドとは異なり、主権AIは国家レベルでのAIインフラ整備を指し、各国独自の文化・言語に適応する大規模モデルの訓練を目的とする点が特徴である。
このような動きは、米中摩擦の長期化を背景に、半導体企業が地政学的リスクを回避しつつ、新興市場での需要を先取りしようとする戦略の一環といえる。中東、特にサウジアラビアの国家主導によるテクノロジー投資は、今後のAIインフラ市場でのパワーバランス変化を示唆しており、Nvidiaにとって戦略的分散の好機となっている。
BoAが評価するAIインフラの新たな需要源としての主権AI市場
BoAのアナリストは、Nvidiaが関与する主権AI市場について、年間500億ドル規模の需要が見込まれると試算する。これは世界のAIインフラ市場の約10〜15%に相当し、従来の民間クラウド投資とは異なる構造的需要の発現を意味する。国家主導のAI整備が本格化すれば、Nvidiaの先端GPUへの長期的な需要は一段と底堅いものとなる可能性がある。
この主権AIとは、特定国家が自国の言語や文化、規制環境に適応した大規模言語モデルを自国のインフラ上で運用するための構想である。従来のグローバル・クラウドとは異なり、政府が主導する閉域型のAI開発・運用が前提となるため、ハードウェア納入から運用サポートに至るまで、極めて高い専有性と信頼性が求められる。NvidiaのGPUはその性能と信頼性の面で高く評価されており、このニーズに対する適合性が今回の契約で裏付けられた形だ。
今後、米国の対中規制が継続する中で、他の新興国も同様の主権AI構築に乗り出すことが考えられ、それがNvidiaにとっての新たな収益源となり得る。ただし、地政学的な不確実性が伴う分野であるため、各国の政治動向や外交関係に左右されるリスクを慎重に見極める必要がある。国家レベルの大型プロジェクトが今後の業績を左右する段階に入ったことは、Nvidiaにとって事業構造の大きな転換点を意味している。
Source: Barchart