BloombergのMark Gurmanによれば、Appleは来月のWWDCでSiriの大規模アップグレードについてほとんど言及しない見通しである。背景には、Craig Federighiをはじめとした幹部層のAI投資への消極姿勢が存在し、社内の意思決定に長期的な停滞を生んでいたとされる。

Apple Intelligenceの導入は難航し、AI責任者Giannandreaの進言も十分に反映されなかった。また、WWDCではiOS 19の発表が予定されている一方、Siriの新機能リリースは数か月先送りとなる可能性がある。

Siri刷新が進まない背景に幹部のAI不信と社内の投資判断の遅れ

AppleがSiriの機能強化を大々的に打ち出せない背景には、上層部のAI技術への根本的な不信感がある。BloombergのMark Gurmanが報じたところによると、ソフトウェア責任者Craig Federighiは、AIがもたらす利益よりもリソース消耗のリスクを重く見ていたとされる。この姿勢は一部の幹部に共有されており、「完成形が見えないまま投資を進めるのはAppleの方針に反する」とするコメントも紹介されている。

また、AI部門の責任者John Giannandreaは、AI開発には現在の数倍の投資が必要だと訴えていたが、その意見は十分に反映されず、社内の意思決定は停滞していたという。AIが「革命的」だと考える一部の幹部の提言も、経営層の警戒心によって無視されるケースが多かったことが示唆されている。

このように、技術革新に対する不安や過去の方針への執着が、Siriの革新を大きく遅らせる要因となっている。社内におけるAIに対する意識の乖離が、Apple全体の戦略にも影響を及ぼしている構図が明らかになりつつある。

WWDCでの沈黙が示すSiriとApple Intelligenceの分離方針

Siriの将来的なアップグレードは、2025年のWWDCにおいてはほとんど言及されない見込みだとMark Gurmanは報じている。これは単なる準備不足ではなく、Appleがマーケティング戦略の転換を進めていることを意味している。具体的には、評判の低下したSiriブランドから、新しいAIブランド「Apple Intelligence」へのイメージ切り離しを図っているとされる。

この動きの一環として、Appleは「LLM Siri」と呼ばれる新インフラを構築中であり、これによってレスポンスの遅延や技術的制限の克服を目指している。しかし、それにもかかわらず、Siriブランドのまま機能を発表することは避け、名称やリリース時期を曖昧にする姿勢が強調されている。

また、EU市場ではSiriの完全無効化を可能にする設定の導入も計画されており、サードパーティ製アシスタントの選択肢を提供する方向性も示されている。こうした対応は、既存のSiriを刷新するのではなく、段階的に切り離していく意図を感じさせる内容である。

機能発表の慎重姿勢とリリースタイミングの調整が示す戦略転換

Appleは今後、開発中機能の早期発表を抑制し、完成度が高まるまで詳細を伏せる方針に転じる可能性があるとGurmanは指摘している。これには過去にリリースが大幅に遅延したSiri機能の事例が影響しており、過剰な期待が製品評価に悪影響を与えるリスクを回避する狙いがあると考えられる。

今回のレポートでも、2023年のWWDCで発表されたSiriの新機能が未だに正式リリースされていない点が言及されており、Appleはこうした状況の繰り返しを避けようとしているようだ。また、今後発表されるとみられるiOS 19に関しても、Siriの大幅な進化は数か月以上先送りになる可能性があるとされている。

この慎重なアプローチは、AppleがAI領域での立ち位置を再構築する中で、信頼性を重視する姿勢を強めていることを示唆する。安易な機能披露ではなく、確実な体験の提供を優先するという転換点に差しかかっているといえる。

Source:9to5Mac