Googleは開発者会議「Google I/O 2025」で、ChromeブラウザへのAI「Gemini」統合、汎用アシスタント「Project Astra」の進化、UI自動生成ツール「Stitch」の3大発表を実施した。これらはいずれも実用性と未来性を兼ね備え、特にGeminiは文脈認識型の音声支援によってブラウジング体験そのものを再定義しうる内容だった。
Astraに関してはSiriの進化の停滞が改めて浮き彫りとなり、Appleとの差を印象づけた。Stitchもまた、LLMにおけるUI生成の弱点克服という意味で、開発体験のあり方を根底から変える可能性を持つ。
GeminiのChrome統合が示すウェブブラウジングの転換点

GoogleはI/O 2025で、生成AI「Gemini」をChromeブラウザへ直接組み込む取り組みを発表した。Geminiは閲覧中のページ内容やカレンダーの予定といったユーザーの文脈を理解し、音声にも対応するスマートアシスタントとして機能する。これにより、検索中心だったウェブの利用方法がアシスト重視へと変化し、視覚・聴覚双方からサポートされるアクセス性の高い体験が実現される見込みである。この統合は、すでに広く普及しているChromeのユーザーベースを背景に、生成AIの大衆的浸透を促進する第一歩ともいえる。
こうした文脈理解型AIの導入は、従来の対話型AIと異なり「何を聞くべきか」を意識せずに済むという点で、日常的なデジタル操作の効率を一段と高める可能性を秘める。ただし、アシスタントの判断や介入が過剰となれば、意図しない行動の誘導やデータ収集の不透明性といった懸念も無視できない。今後の展開次第では、米司法省によるChromeの分社化議論が現実味を帯びる可能性も否定できず、利便性と市場独占のバランスが問われる場面も想定される。
Project Astraが浮き彫りにしたSiriの進化の停滞
昨年発表された汎用AIアシスタント「Project Astra」は、Google I/O 2025で記憶能力、操作性、音声出力における強化が報告された。これらは「Gemini Live」を含む各製品への導入が計画されており、実験段階とはいえ高い完成度のデモが披露された。AppleのSiriとの比較では、その進化の速度と柔軟性の差が明確になっており、9to5Macも「ただ比較するだけで状況は理解できる」と述べている。Astraは視覚・聴覚・文脈理解を同時に処理する新世代の対話型AIを志向しており、従来の音声命令型アシスタントの限界を乗り越えようとしている。
一方で、Astraはあくまで研究プロトタイプであり、実用段階には時間を要する見込みである。Siriが商用製品として長年蓄積してきたデータやユーザーとの接点は依然として大きな資産であるが、その利活用の幅が制限されている現状が競合との差を広げているともいえる。仮にGoogleがこの分野で先行したとしても、AppleがiOSと連携した深層統合型のAI体験を再構築すれば、勢力図は一変する可能性も残されている。
Stitchが切り開くUI開発の自動化と創造性の新境地
Googleは、開発者向け新機能として「Stitch」を披露した。このツールはGemini 2.5 Proを基盤に、画像やテキストプロンプトからHTMLやフロントエンドUIを自動生成するもので、開発の初期工程における作業量を大幅に削減できる点が注目されている。とりわけ、デザイン性と機能性の両立を要するUI構築において、LLMが不得意とされていた一貫性のあるアウトプットが可能となることは大きな前進である。
Stitchの真価は、コーディングスキルの有無を問わずアイデアを具現化できる点にある。これはAppleが長年掲げてきた「すべての人がプログラミングで表現できる世界」に対し、Googleが別ルートから具体的な解を提示した形となる。ただし、完全な自動化ではなく人間による微調整が前提とされており、実用化の段階でのUX調整やコード最適化の課題は残る。AIによる創造性支援が道具としての完成度を高める一方、開発者がその出力に主体性を持つバランスが求められるだろう。
Source:9to5Mac