D-Wave Quantum(QBTS)が発表した次世代量子コンピュータ「Advantage2」は、エネルギースケール40%向上、ノイズ75%削減という技術的飛躍により注目を集め、株価は5月20日に25%以上上昇した。これにより年初来からの上昇率は300%超に達し、成長期待は極限まで織り込まれた格好となっている。
一方で、フォワードP/Sレシオは200倍に迫り、過大評価の懸念が高まる。競合にはIonQやRigettiのほか、巨額投資を行うMicrosoftやAlphabetといったテック大手が控えており、D-Waveが持続的な優位性を保てる保証はない。現水準での投資は、利益確定の好機である可能性を否定できない。
Advantage2がもたらした技術的進化と市場の反応

D-Wave Quantumが5月20日に発表した最新量子コンピュータ「Advantage2」は、同社史上最も高度な設計とされており、エネルギースケールは従来比で40%向上、ノイズは75%削減されたと説明されている。CEOアラン・バラッツ氏はこれを「技術的に画期的な工学的成果」と評し、同社の量子技術における実用的進展を強調した。この発表を受けて株式市場は即座に反応し、QBTS株は当日25%以上の急騰を記録。これにより年初来の株価上昇率は300%超に達し、投資家の期待が一気に高まった形である。
しかし、同時に注目すべきは、今回の株価上昇が実際の収益成長よりも投資家心理の反映であるという点である。Advantage2の構造的改善が産業用途に直結するには時間を要する可能性があり、短期的な期待先行のリスクを含む。現時点では製品の性能改善が企業収益にどの程度寄与するかは不透明であり、株価上昇との乖離が市場の過熱感を際立たせている。テクノロジーとしての進展と株式評価のバランスを冷静に見極める必要がある。
異常値となったP/S倍率と投資リスクの顕在化
D-Wave Quantumの現在の株価水準は、量子技術分野における成長期待を極端に先取りしている可能性がある。とりわけ注目すべきは、QBTSのフォワードP/Sレシオが200倍近くに達している点である。これは、同業の先進企業であるNVIDIAの31倍という水準と比較しても異常な高さであり、投資の妥当性に対して強い懸念を示唆している。現在の株価が今後の収益成長を過度に織り込んでいることは明白であり、資金調達余力が限られる中小型企業にとってはリスクが極めて高い。
また、米国経済が2025年後半に景気後退へと移行する可能性が指摘される中で、投資家のリスク選好は確実に変化する。その環境下で、将来収益の不確実性が高い企業のバリュエーションが見直されるのは必然である。今後の市場調整局面では、高倍率銘柄への圧力が一層強まると考えられ、QBTS株はその代表的存在となるリスクがある。利確の判断が求められる局面に差し掛かっているといえる。
競合の台頭と巨大資本の脅威が突きつける成長限界
D-Wave Quantumが直面する最大の課題は、技術革新そのものではなく、競合環境の激化と資本力の差である。同様に量子コンピューティング分野で活動するIonQやRigetti Computingに加え、MicrosoftやAlphabetといった巨大テック企業が数十億ドル規模の投資を進めており、市場支配力を強めている。これらの企業は潤沢な資金力とクラウド基盤を活かし、技術開発と商業展開の両面で優位性を持つ。
D-Waveはカナダ・バーナビーを拠点とする中堅企業であり、製品性能では先行するものの、市場規模拡大のためには相応の販路・資本・パートナーシップが不可欠である。テクノロジー先行企業が持続的な競争力を維持するには、規模の経済やプラットフォーム支配力を背景にした戦略が必要となる。長期的には、D-Waveのような企業が技術的優位を保ち続けるためには、事業構造そのものの転換が求められる可能性がある。
Source: Barchart