ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、2025年第1四半期に過去最高の3,477億ドルの現金を保有し、市場の不確実性を前にしても投資機会を辛抱強く見極めている。バフェットは金や株式ではなく、自らのスキルや能力こそがインフレに打ち勝つ最大の資産だと繰り返し説いており、税負担もなく価値が複利的に高まる自己成長を最優先の投資対象と位置付ける。
一方、投資対象としては強固なブランド力と価格決定力を持ち、再投資を必要としない収益構造を備えた企業に注目している。消費財ブランドやソフトウェア企業がこれに該当し、経済環境に左右されにくい資産として評価される。現金を積み上げるその背景には、過去の教訓を踏まえた緻密な価値観と、株式市場では得られない成長戦略が潜んでいる。
バフェットが選ぶ「現金と自己投資」戦略の核心

バークシャー・ハサウェイが2025年第1四半期に記録した3,477億ドルの現金保有額は、インフレや地政学的リスクの高まりにもかかわらず、市場への性急な資金投入を避けた結果である。これは短期的な値上がりを狙うのではなく、投資妙味が明確になるまで待つというバフェットの一貫した姿勢を示している。同社は近年、銀行株から段階的に撤退し、代わりにコンステレーション・ブランズなど堅実な収益基盤を持つ消費関連企業に資金を振り向けている。
バフェットは「最大の投資先は自分自身」と明言しており、2022年や1998年の講演においても、自己のスキルや教育への投資こそがインフレに対する真の防衛策であると繰り返し説いている。株式や不動産と異なり、自らの知識と能力は奪われることなく、税制面でも有利である。この考え方は、彼が若き日に師ベン・グレアムのもとで無報酬で働いたという逸話とも結びつき、短期利益ではなく長期的な価値の蓄積を重視する哲学が明確に表れている。
この事実から、バフェットは金融資産よりも「非物理的資産」の持続的価値に重きを置いており、現金を積み上げながらも、最終的な投資先として個人の成長に勝るものはないという信念を持ち続けていると捉えられる。
インフレ時代に光る「資本を食わない企業」への選別眼
ウォーレン・バフェットは、インフレ環境において重要なのは「価格決定力と資本効率」であると強調している。2015年のバークシャー株主総会では、継続的な設備投資を要する鉄道や公益といった資本集約型産業は、コスト上昇と利益圧縮の板挟みに陥りやすいと指摘していた。対照的に、追加の資本支出なしで収益を上げ続けられるビジネスモデル、すなわち強固なブランドと顧客の忠誠心を備えた企業が、インフレに対して優位であるとする立場を明確にした。
この方針は、近年のポートフォリオ戦略にも表れており、バークシャーはテクノロジー株の一時的な熱狂には乗らず、堅実でキャッシュフローが安定した企業への比重を高めている。特に消費財分野では、価格転嫁が容易でコスト上昇を吸収できる企業が、資産としての安定性を持つとされている。
ブランドの力が購買行動を支配するという考え方は、現代の消費経済において理にかなっている。顧客の選好が変わりにくく、競合との価格競争に巻き込まれにくい企業こそ、インフレ時にこそ真価を発揮する資産となる。この点からも、バフェットの投資眼は、企業の財務体質だけでなく、顧客心理まで見据えた中長期的な洞察に裏打ちされていると言える。
Source: Finbold