Appleは6月9日に開催される世界開発者会議(WWDC)において、Apple Intelligenceを軸としたAI機能の大規模拡張を予定しており、Siri刷新やiOS 19の革新を含む発表が見込まれている。注目はサードパーティ向けSDKの公開で、同社がAIソフトウェア基盤としての地位を築こうとする明確な意思がうかがえる。また、M4 Ultra搭載Mac Proの発表可能性や、iPhone 16eのC1モデム内製化などハード面の進展も目立つ。

一方、サービス部門の記録的売上やインド・ベトナム製造への移行による地政学リスクの分散も奏功しており、2025年第2四半期には954億ドルの売上と1.65ドルのEPSを記録。アナリストの目標株価平均は231.11ドルに設定されており、現在の株価水準から15%超の上昇余地があるとの見方がある。ただし、トランプ氏による関税言及やSiri高度化の遅延など、予断を許さない要素も残る。

WWDCにおけるApple Intelligence戦略の転換と開発者エコシステムの再構築

Appleは2025年6月9日に開催するWWDCで、AIを中核に据えたソフトウェア革新を提示する構えである。iOS 19におけるApple Intelligenceの全面実装は、Siriの機能強化をはじめ、iPadOS 19、macOS 16、watchOS 12など全プラットフォームにまたがる包括的な取り組みとされ、AIをオペレーティングシステムの根幹に位置づける姿勢が明確になった。

特に、サードパーティ向けに公開予定の新SDKは注目に値し、App Store創設期を彷彿とさせる開発者コミュニティへの再アプローチとなる。Appleが自社開発のAIモデルをアプリ開発に活用可能とすることで、ソフトウェア面からの差別化を一層進めようとしている。

この一連の動きは、Appleがこれまで慎重に取り扱ってきたAI領域に本格的に踏み込む転換点となる可能性がある。Apple Intelligenceが多言語対応を進める一方で、より洗練されたSiriの導入には品質基準維持の観点から慎重姿勢を崩していない。

これにより、AIの信頼性や安全性を重視する姿勢が伺えるが、競合他社が生成AI分野で急速に前進する中で、Appleの対応スピードが今後の成否を分ける鍵となろう。WWDCにおける発表内容次第では、Appleの開発者基盤やブランド価値に新たな段階が加わる可能性も否定できない。

地政学リスクへの備えとAppleの供給網再編による競争力維持

Appleは供給網の地理的分散により、米中間の緊張や関税政策といった外部リスクへの耐性を高めている。2025年第2四半期には、米国向けiPhoneの約50%をインドで製造し、他の製品もベトナムを中心に製造を進めた結果、6月期の関税負担は9億ドルにとどまった。

これにより、トランプ前大統領が言及したiPhoneへの25%関税案の影響をある程度緩和する布石を打ったといえる。製造の多様化は単なるコスト抑制にとどまらず、突発的な政策変更や地政学的衝突に対するリスクヘッジとしても機能している。

ただし、この戦略が今後も通用するとは限らない。国内生産への圧力が強まれば、インドやベトナムでの生産拠点拡大だけでは十分な対応にならない可能性もある。また、Appleが発表した米国内5000億ドルの投資計画は、サーバー製造やチップ調達の内製化を意識したものと考えられるが、その効果が実体経済に反映されるまでには時間を要するだろう。外部環境の変動が激しさを増すなかで、サプライチェーン改革の実効性と継続性がAppleの競争力を支える要因となることは間違いない。

Source: Barchart