2026年度の税制改正要望として金融庁が示した「NISA全世代拡大」案は、日本の資産形成政策において画期的な一歩と位置づけられる。これまで現役世代を中心に普及してきた少額投資非課税制度(NISA)の枠組みを、未成年者から高齢者まで幅広い国民に開放することで、生涯を通じた資産形成のインフラとして制度を再定義しようとする試みだ。

背景には、日本の家計が抱える2,000兆円超の金融資産の半分以上が依然として現預金に滞留しているという現実がある。政府が掲げる「資産所得倍増プラン」は、この巨大な資金を投資へと振り向けることで、成長と分配の好循環を実現することを狙っており、その中核的ツールとしてNISAの役割は一段と重みを増している。

本稿では、制度拡大が持つポテンシャルとリスクを多角的に分析する。高齢者層への「プラチナNISA」、未成年者向け制度の再設計、海外制度との比較、そして相続や資産承継の観点まで含め、NISA全世代拡大が日本の投資文化と経済構造に与える影響を徹底的に検証する。


日本の資産形成政策の新局面:NISA全世代拡大の背景と狙い

「貯蓄から投資へ」の歴史的転換点

金融庁が2026年度税制改正要望として打ち出した「NISA全世代拡大」は、日本の長期的な資産形成政策において象徴的な一歩である。これまでNISAは18歳以上を対象に制度設計されてきたが、今回の拡大案では年齢制限を撤廃し、未成年者から高齢者まで、すべての国民が利用できる制度へと進化する。

その狙いは明確だ。日本の家計金融資産2,000兆円超のうち、約半分が依然として現金・預金に滞留している(日本銀行「資金循環統計」)。低金利が続く中、現預金は実質的に目減りするリスクを抱え、国民の生活防衛には資産運用が不可欠となっている。金融庁は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、NISAをその旗印と位置付けてきた。今回の全世代拡大は、制度をライフサイクル全体に浸透させ、投資文化を社会に根付かせるための決定打といえる。

生涯型制度への進化

特に注目すべきは、ライフステージに応じた制度設計である。未成年者については、出生直後から非課税での資産形成を可能にし、投資の最大の武器である「時間」を味方につける仕組みを導入する。一方で高齢者には、毎月分配型ファンドなどのキャッシュフローを重視する商品を対象に含める方向が議論されている。これにより「形成期」から「活用期」まで、資産運用を一貫して支える枠組みが整うことになる。

ただし、ここには大きな課題も潜む。毎月分配型ファンドは元本毀損リスクを抱え、金融庁自身が2024年の制度設計時には対象外としていた経緯がある。利用者の需要に応えるか、制度理念を守るかという難題は残されたままだ。

それでも、制度の軌跡を見ると方向性は一貫している。2024年の「新しいNISA」による非課税枠の恒久化と大幅拡大、2025年度の手続き簡素化を経て、2026年度には人口動態を踏まえた全世代拡大へと進む。NISAはもはや一時的な税制優遇制度ではなく、日本国民にとって「生涯の金融インフラ」へ進化しようとしている。


政策的要請と「資産所得倍増プラン」:経済戦略の中核としてのNISA

政府が掲げる数値目標と進捗

NISA全世代拡大の背景には、岸田政権の「資産所得倍増プラン」がある。この政策は、停滞する日本経済を脱却させるため、家計の現預金を投資へ振り向け、企業成長と家計所得を連動させる「成長と分配の好循環」を狙ったものだ。

政府は具体的な数値目標を設定している。

  • NISA総口座数を2022年の1,700万口座から5年間で3,400万口座へ倍増
  • NISA買付額を同28兆円から5年間で56兆円へ倍増

実際の進捗は予想を上回る。金融庁の調査によれば、2025年3月末時点で総口座数は約2,647万口座、累計買付額は59.2兆円に到達。買付額はすでに目標を突破し、制度の浸透スピードは政府の想定を大きく上回っている(金融庁「NISA利用状況調査」)。

「資産運用立国」構想との接続

このNISA拡充は単なる家計支援策にとどまらない。政府は「資産運用立国」を掲げ、日本を国際的な金融ハブへと進化させることを目指している。個人投資家層の拡大は市場の安定的な需要源を生み、海外投資家に依存しがちな日本株市場のボラティリティを抑制する効果も期待される。

さらに、家計金融資産が市場に流入することで、企業には成長資金が供給され、株価上昇を通じて家計資産が増える。これが消費を刺激し、経済全体の循環を強める狙いだ。NISAは、マクロ経済政策・金融市場政策・社会保障政策の交点に位置づけられた、戦略的ツールにほかならない。

その一方で、格差拡大の懸念は残る。英国ISAの事例が示すように、制度が富裕層の税制優遇に偏りかねないリスクは看過できない。政府は金融教育や低所得者支援策を並行して強化しなければ、制度が「投資機会の格差」を固定化する危険もある。

新しいNISA時代の統計分析:誰が、どれだけ投資しているのか

世代別・金額別の利用実態

表1:NISA口座数・累計買付額の推移

時点NISA総口座数(万口座)累計買付額(兆円)成長投資枠買付額(兆円)つみたて投資枠買付額(兆円)
2023年12月末2,125
2024年3月末2,32341.4
2025年3月末2,64759.25.0 (2025年1-3月)1.6 (2025年1-3月)

表2:年代別NISA利用状況(2024年3月末時点)

年代口座数(万口座)構成比 (%)買付額(億円)構成比 (%)成長投資枠(億円)つみたて投資枠(億円)
10代130.61410.211723
20代25711.13,5735.82,3061,266
30代40717.59,89216.07,2122,680
40代44819.312,35220.09,6642,688
50代43818.912,68720.510,4752,211
60代34314.811,67418.910,5061,167
70代27311.88,56113.98,214346
80代以上1426.12,9074.72,85750
合計2,323100.061,791100.051,35510,435

出所:金融庁「NISA口座の利用状況調査(令和6年3月末時点)」を基に作成

2024年にスタートした新しいNISAは、日本の投資行動に大きな変化をもたらしている。金融庁の「NISA利用状況調査」によれば、2025年3月末時点でNISA総口座数は約2,647万口座、累計買付額は59.2兆円に達し、制度開始からわずか1年余りで急成長を遂げた。

世代別に見ると、口座数では40代が約448万口座で最多、次いで50代(約437万口座)、30代(約407万口座)が続く。資産形成の中核を担う世代が中心的な利用者であることが鮮明に表れている。一方、買付金額でトップは50代の約1兆2,687億円、次いで40代(約1兆2,352億円)、60代(約1兆1,674億円)。これは、退職金や蓄積された貯蓄を背景に、高額投資が可能な中高年層の存在を示している。

20代も約257万口座を開設し、累計3,573億円を投資しているが、一人当たりの投資額は小さく、主につみたて投資枠を利用する傾向が強い。若年層が少額ながらも着実に投資を始めている点は、日本の金融文化における「世代交代」の兆しといえる。

富裕層偏重ではない広がり

日本証券業協会の調査によれば、NISA口座開設者の6割以上が年収500万円未満、金融資産1,000万円未満の層が多数派を占める。つまり、制度は富裕層に限定されず、中間層の資産形成を後押しする「入り口」として機能している。

また投資対象を見ると、成長投資枠では個別の日本株が多く選ばれている一方、投資信託では「オールカントリー」や「S&P500」連動型インデックスファンドが売れ筋となり、分散投資の浸透も進んでいる。制度設計当初に懸念された「投機化」ではなく、長期・積立・分散の原則に沿った利用が広がりつつある点は注目に値する。

こうしたデータから、新しいNISAは現役世代を中心に広がりを見せ、同時に投資初心者や中間層を市場に取り込む役割を果たしていることが確認できる。今後の全世代拡大は、この「空白地帯」である未成年者や高齢者層への浸透を狙う動きとして理解できる。


高齢者層への拡大とリスク:毎月分配型ファンドをめぐる是非

安定収入ニーズと政策的配慮

高齢化社会において、年金を補完する安定収入を求める声は強い。金融庁が検討する「高齢者向けNISA」には、毎月分配型ファンドを対象商品に含める案が浮上している。こうした商品は、予測可能なキャッシュフローを重視する退職者層にとって魅力的であり、制度を高齢者にとって使いやすくする狙いがある。

実際、日本証券業協会の調査でも、60代以上のNISA利用者は1,600万口座以上を占めるが、その多くが「安定的な収入補完」を投資の目的として挙げている。制度が高齢者の生活設計に直結する領域に踏み込むことは、社会的意義が大きい。

元本毀損リスクと専門家の警鐘

しかし、毎月分配型ファンドには深刻なリスクが存在する。第一に「タコ配」と呼ばれる元本の取り崩しであり、見かけ上の分配金が維持される一方で、資産そのものが減少する可能性がある。第二に、信託報酬などの手数料が高く、長期的なリターンを圧迫する傾向が強い。第三に、分配金の一部は課税対象外の元本返還であるため、NISAの非課税メリットを享受できないという制度的な矛盾も指摘されている。

金融庁自身も2024年の新しいNISA制度設計時には、毎月分配型を対象外とした経緯がある。ダイヤモンド・オンラインや第一生命経済研究所のレポートも「高齢者の金融リテラシー不足を悪用しかねない」として警鐘を鳴らしている。

高齢者層への配慮と健全な資産形成の原則はしばしば衝突する。 政策当局は、制度の普及を優先するか、投資家保護を徹底するかという難しい判断を迫られている。今後の議論は、制度の理念と現実の需要との「緊張関係」をどう調整するかに焦点が当たるだろう。

未成年者向けNISAと金融教育:世代を超える資産形成の可能性

複利効果と教育効果の最大化

未成年者にもNISA口座を開放するという改革案は、資産形成のスタートを早めることで、長期投資における「複利の力」を最大限に活かす狙いがある。例えば、出生時から年間40万円をインデックスファンドで積み立てた場合、年平均リターン5%で運用すれば、20歳時点で約1,300万円、40歳で約4,200万円の資産に成長する計算になる(金融庁試算ベース)。

さらに、親が子どもの口座を通じて投資する過程は、家庭内の実践的な金融教育となる。日本証券経済研究所の調査では「金融知識を親から学んだ子どもは、成人後も投資参加率が高い」というデータが示されており、制度は教育効果と資産形成効果を同時に期待できる。

ジュニアNISAの失敗から学ぶ

ただし、この構想は2016〜2023年に実施された「ジュニアNISA」の失敗を踏まえなければならない。主な要因は以下の通りである。

  • 18歳まで原則引き出せない「払出制限」による流動性の低さ
  • 制度が複雑で分かりにくいとの指摘
  • 利用件数が伸び悩み、2023年末で新規開設が終了

今回の全世代拡大案では、この反省を踏まえ、柔軟な売却や払出が可能な制度設計が検討されている。

法的・社会的な課題

未成年者向けNISAには、親権者の代理権や贈与税の扱いなど法的な論点も多い。例えば、親が拠出した資金は「贈与」とみなされ、年間110万円を超えれば課税対象となる。さらに、家庭の経済格差がそのまま子どもの投資機会格差につながるリスクもある。

そのため、制度の導入は学校教育との連動が不可欠だ。金融庁や文部科学省が推進する金融リテラシー教育をNISAと結び付けることで、「早期投資=金融教育の延長」という社会的な意義を持たせる必要がある。 未成年者向けNISAが単なる「投資口座の低年齢化」に終わるか、「世代を超えた投資文化の定着」に繋がるかは、教育政策と制度設計の巧拙にかかっている。


英国ISA・米国401(k)の教訓:国際比較が示す成功と落とし穴

項目日本(NISA)英国(ISA)米国(401(k)/IRA)
主目的汎用的な資産形成汎用的な貯蓄・投資退職後の所得保障
年間拠出限度額360万円(成長240/つみたて120)£20,000(約400万円)401(k): $23,500 (2025年) / IRA: $7,000 (2025年)
対象商品株式、投資信託等(一部除外あり)預金、株式、債券、投信など広範雇用主が提供する商品群(401k)、広範(IRA)
払出しルールいつでも可能いつでも可能原則59.5歳までペナルティあり
雇用主の役割限定的(職場つみたてNISA等)ほぼ無し中核的(制度提供、マッチング拠出)
相続時の取扱い非課税資格は終了。資産は課税対象。配偶者は追加非課税枠を継承可能。受益者に引き継がれるが、税制上の扱いは複雑。
主な成功要因制度の簡素さ、高い非課税枠長年の実績、国民への浸透マッチング拠出、自動加入制度
主な批判・課題格差拡大の懸念、高齢者・未成年者への対応富裕層優遇、格差助長制度へのアクセス格差、資産の十分性

出所:各制度の公式情報、関連調査レポートを基に作成

英国ISAの成功と格差拡大の教訓

日本のNISAは英国ISAをモデルに導入された。ISAは1999年の開始以来、国民の投資文化に根付き、総資産は7,000億ポンド(約140兆円)を超えている。長期的に拠出を続けた「ISAミリオネア」が誕生するなど、制度が富を築く強力なツールとなることを示した(Resolution Foundation, 2023)。

しかし同時に、恩恵が富裕層に偏る問題も浮き彫りとなった。年間拠出限度額が高いため、余剰資金のある層が既存の貯蓄を移すだけの「税制優遇」に終わるケースが多い。研究者の間では「ISAは低所得者層の新規貯蓄を促す効果が限定的」との指摘があり、日本にとって警告となる。

米国401(k)・IRAの行動経済学的仕掛け

米国の401(k)・IRAは退職資産形成を目的とした制度であり、国民の老後資金を支える巨大な仕組みとなっている。特筆すべきは「マッチング拠出」と「自動加入」である。雇用主が従業員の拠出に上乗せする仕組みや、放置しても自動的に加入される制度設計により、加入率・拠出率が大幅に高まった。行動経済学を制度に取り入れることで、国民の投資行動を強制せず自然に誘導した点は日本にとって学ぶべき要素である。

ただし、401(k)には「制度へのアクセス格差」という課題が残る。中小企業の従業員など、制度そのものに参加できない層が存在し、老後資産の不足が社会問題化している。

日本への示唆

この比較から、日本のNISAが直面する課題も浮かび上がる。

  • ISAのように「富裕層優遇」に偏らないための所得層別の支援策
  • 401(k)のように行動経済学的な仕掛けを組み込み、利用を自然に拡大させる工夫
  • 相続制度や教育制度と連動した設計による「世代間公平性」の確保

全世代拡大を進める日本のNISAは、ISAの柔軟性と401(k)の規律性をどのように融合させるかが問われている。 単なる非課税枠拡大に終わるのか、それとも国民的資産形成ツールとして成熟できるのか、その岐路に立っている。

マクロ経済・金融市場への影響:株式市場・金融業界・ガバナンス改革

日本株市場の需給構造の変化

2024年の新しいNISA導入以降、個人投資家の資金流入は市場需給を大きく変化させている。特に年初の株価上昇局面では、NISAを通じた個人の買いが相場を下支えしたとの分析が日経平均株価の動向から確認できる(ニッセイ基礎研究所, 2025)。

全世代への拡大が実現すれば、短期的な相場変動要因ではなく、構造的な資金流入源が創出される。これは、海外投資家に依存してきた日本株市場にとって画期的であり、国内投資家による安定的な需要が株式市場のボラティリティを低減させ、長期的な株価形成を促す可能性がある。

金融機関の競争環境とサービス革新

NISA拡充は金融業界の競争を加速させた。SBI証券や楽天証券といったネット証券は、低コストとデジタル利便性を武器に若年層を中心にシェアを拡大している。一方、大手証券や銀行は退職金運用や相続相談といった「対面型サービス」で存在感を維持しようとしている。

その競争は投資家に利益をもたらしており、

  • 投資信託積立でのポイント還元競争
  • 売買手数料の無料化
  • 独自のアナリストレポート提供

といった施策が相次ぎ登場している。J.D.パワー2025年調査では、NISA利用者の顧客満足度が大幅に上昇したとの結果が示されており(J.D. Power, 2025)、サービス競争が実際に利用者の利便性改善につながっていることが確認できる。

ESG投資とガバナンス改革

NISAの成長投資枠では、ESG関連ファンドやサステナビリティ重視企業への投資が拡大しつつある。金融庁も税制改正要望で「サステナブルファイナンス」を重点項目に掲げており、NISAが個人の価値観を反映した投資を加速させる装置として機能する可能性が高い。

さらに、個人投資家層の拡大はコーポレート・ガバナンス改革にも影響を及ぼす。資産運用会社が受益者の代わりに議決権を行使することで、企業に対してROE向上や株主還元強化を求める圧力が増す。結果として、NISAは「株式市場の民主化」だけでなく、企業経営のダイナミズムを高める役割を果たすだろう。


NISAと相続・資産承継:世代間格差と制度の限界

相続における基本ルールと課題

NISA口座は「非課税の一身専属性」が原則であり、名義人が死亡した時点で非課税の地位は消滅する。資産は課税口座に移され、相続税の対象となる(金融庁, 2024)。この仕組みは相続人にとっては明確である一方、制度の「非継続性」が資産承継戦略上の制約となる。

例えば、取得価額が死亡時の時価にリセットされるため、相続人が直後に売却しても課税がほとんど発生しないケースが多い。これにより高齢投資家は「売却せずに持ち続けた方が有利」と判断しやすくなり、本来必要なリバランスを怠るインセンティブが生じる。この「ロックイン効果」は高齢者の資産運用リスクを増幅させかねない。

贈与・教育資金との組み合わせ

一方で、NISAは相続・贈与対策として活用されるケースもある。例えば、親や祖父母が年間110万円以内の贈与を子や孫に行い、その資金を子のNISA口座で運用する方法だ。これにより、親世代の相続財産を圧縮しつつ、次世代の非課税資産を形成できる。特に未成年者向けNISAが導入されれば、より早期からこの戦略が可能となり、相続・贈与と投資を組み合わせた「世代間資産移転モデル」が広がるだろう。

英国との比較と日本の限界

英国のISA制度では、配偶者が故人の非課税枠を引き継げる「Additional Permitted Subscription」が存在し、事実上の非課税継承が可能だ。これに対し日本のNISAは非課税資格が途絶するため、相続時に市場で特定銘柄が一斉に売却されるリスクや、資産承継が円滑に進まない問題が指摘されている。

つまり、日本のNISAは「資産形成」には有効だが、「資産承継」には限界を抱えている。 制度の拡張が進む中で、相続や世代間格差への影響を無視することはできない。相続税制と連携した新たな設計が求められる局面に来ているといえる。

まとめ

NISAの全世代拡大は、日本の資産形成政策における新たな地平を切り開くものである。出生直後から投資を始められる未成年者向け制度、高齢者層のニーズに応えるプラチナNISAの検討、そして相続や贈与といった資産承継の側面までを含め、NISAは単なる税制優遇制度を超えた「生涯型の金融インフラ」へ進化しつつある。

同時に、この改革には重大なリスクも存在する。毎月分配型ファンドの導入に伴う元本毀損リスク、英国ISAに見られる富裕層偏重の問題、未成年口座をめぐる法的課題、そして相続制度上の限界である。これらを克服するには、政策当局による投資家保護の徹底、教育との連携、低所得層への配慮が不可欠となる。

「貯蓄から投資へ」というスローガンを真に社会に根付かせるには、単なる制度設計にとどまらず、国民一人ひとりが安心して投資に参加できる環境を整えることが決定的に重要だ。 その先に、日本が「資産所有民主主義」へと歩みを進め、より公平で持続可能な経済社会を築けるかどうかが問われている。


出典一覧


Reinforz Insight
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