2025年8月27日、NVIDIAが発表した2026年度第2四半期決算は、同社が人工知能(AI)インフラの中心企業として圧倒的な成長を続けていることを改めて示した。売上高は467億ドル、EPSは1.05ドルと、いずれも市場予想を上回り、AI需要の爆発的拡大を裏付ける結果となった。しかし同時に、決算発表直後の株価は下落し、「好決算では足りない」段階に入ったNVIDIAの特異な立場を浮き彫りにした。

背景には、最新アーキテクチャ「Blackwell」の急速な浸透とCUDAエコシステムの支配力がある一方で、米中摩擦による輸出規制やクラウド巨人による自社チップ開発といった逆風も強まっている。さらに、NVIDIAの動向は日本市場とも無縁ではない。東京エレクトロンやアドバンテストの株価は同社決算に大きく反応し、自動車や製造業の現場ではトヨタやファナックとの提携が進む。また、さくらインターネットのGPUクラウド整備は「AI主権」を巡る国家戦略に直結している。

こうした複雑な構図の中で、NVIDIAはAI覇権の行方を左右する重大な岐路に立っている。

決算の衝撃:圧倒的成長と市場の逆説的反応

指標Q2 FY26 実績アナリスト予想Q1 FY26 実績 (前期比)Q2 FY25 実績 (前年同期比)
総売上高$467.4億ドル$460.6億ドル $440.6億ドル (+6%)$300.4億ドル (+56%)
データセンター売上高$411.0億ドル$413億ドル (一部予想) $391.1億ドル (+5%)$262.7億ドル (+56%)
非GAAP EPS$1.05$1.01 – $1.02 $0.81 (+30%)$0.68 (+54%)
非GAAP 売上総利益率72.7%61.0% (+11.7 pts)75.7% (-3.0 pts)

2025年8月27日に発表されたNVIDIAの2026年度第2四半期決算は、AIインフラ需要の拡大を象徴するものであった。売上高は467億ドル、前年同期比56%増という驚異的な成長を遂げ、非GAAPベースのEPSも1.05ドルとアナリスト予想を上回った。スタートアップのような成長率を維持する巨大企業は稀であり、NVIDIAがAI革命の中心にいることを裏付ける数字である。

しかし、その好決算にもかかわらず株価は下落した。時間外取引で株価が2%以上下げた背景には、データセンター部門の売上が411億ドルと市場の最も強気な予想(413億ドル)をわずかに下回ったことがある。これは典型的な「噂で買って事実で売る」展開であり、投資家が既に完璧な決算を織り込んでいた証左だ。時価総額4兆ドルを超えるNVIDIAは、もはや「好調」ではなく「完璧」を期待される存在となり、その高すぎる期待値が逆に重荷となっている。

また市場の反応は、AIバブル論争とも連動する。PBSなど米メディアは、AI半導体需要が短期的に調整局面を迎える可能性を指摘しており、決算の数字以上に「持続性」が問われているのだ。株価の揺らぎは、AIインフラ投資が本当に長期的な構造的成長であるのか、あるいは一過性の過熱なのかを巡る投資家心理を反映している。

つまり今回の決算は、NVIDIAの成長を裏付ける一方で、市場がもはや「過去の成功」では満足せず、未来の持続性を厳しく審査していることを示す転換点であった。


Blackwellアーキテクチャの急成長とCUDAの堀

今回の決算で最大の注目点は、新世代アーキテクチャ「Blackwell」の急速な普及である。データセンター事業におけるBlackwell関連の売上は前期比17%増を記録し、ハイパースケーラー(AWS、Googleなど)を中心に導入が加速している。消費者向けでも「GeForce RTX 5060」が同社史上最速で普及した「x60クラス」GPUとなり、NVIDIAの技術リーダーシップを証明した。

この成長の背景には、ソフトウェア基盤「CUDA」の存在がある。CUDAは過去10年以上にわたりAI研究者・開発者の標準環境として定着し、PyTorchやTensorFlowといった主要フレームワークもCUDA上で最適化されている。これにより、NVIDIAは単なるチップメーカーを超えた「プラットフォーム企業」としての地位を確立している。

具体的には以下の強みが挙げられる。

  • 開発者ロックイン効果:膨大なソフト資産とエンジニアコミュニティがCUDA依存
  • 性能最適化:新GPU世代ごとにCUDAを進化させ、最高性能を維持
  • 参入障壁:AMDのROCmやIntelのoneAPIは発展途上で互換性・安定性に課題

例えば、最新の高速化技術「FlashAttention-3」はNVIDIAのHopper世代向けに特化して設計され、時にCUDAを越えてPTXレベルの最適化さえ行われる。こうした状況は、単なるスペック競争ではなくソフトウェアとハードウェアの統合力が勝敗を分ける時代に入ったことを意味する。

競合がどれほど高性能なGPUを開発しても、CUDAエコシステムの壁を突破するのは容易ではない。結果として、NVIDIAは高い利益率を維持しつつ市場シェアを確保し続けている。Blackwellの急成長は、その「堀」の深さを改めて示したと言えるだろう。

米中摩擦とNVIDIAの地政学的リスク

NVIDIAの成長を脅かす最大の外部要因は、米中間の地政学的緊張である。2025年4月に強化された米国の輸出規制により、中国市場向けに設計されたAIチップ「H20」の販売は完全に停止された。第2四半期における中国への出荷はゼロとなり、同社が想定していた四半期80億ドル規模のビジネス機会が失われた。第1四半期にはH20の過剰在庫に伴い45億ドルの評価損を計上するなど、リスクはすでに顕在化している。

一方、第2四半期にはH20在庫の一部が中国以外の顧客に販売され、約6億5,000万ドルを回収。この結果、1億8,000万ドルの引当金が戻し入れられ、利益率を押し上げる効果もあった。しかし本質的には、中国市場の喪失はNVIDIAにとって深刻なリスクであり続けている。

こうした状況下で、2025年8月に成立したのがトランプ政権との異例の「レベニューシェア契約」である。これは、中国向けH20販売から得られる売上高の15%を米政府に納付することで輸出ライセンスを再取得する仕組みだ。しかし制度の持続性や具体的な運用は未定で、CFOのコレット・クレス氏も「ガイダンスには中国向け売上を含めていない」と述べている。

さらに中国政府は、国内テクノロジー企業に対し米国製チップ購入の回避を指示しているとの報道もある。これがCambriconなどの国産AIチップメーカー育成を後押ししており、短期的にはNVIDIAの独占を脅かさないが、長期的には競合を生み出す構図となる。米国の輸出規制は「国内産業保護」という意図せざる副作用をもたらし、結果としてNVIDIAに新たな競争リスクを生んでいるのだ。

現在の株価や業績予想は中国売上ゼロを前提としており、中国市場の再開は「上振れ要因」として残されている。ジェンスン・フアンCEOは「中国市場は年間500億ドル規模の潜在需要」と強調しており、規制緩和次第で株価を押し上げるカタリストになる可能性がある。しかし、政治的リスクが絡むため予見は困難であり、投資家にとっては最大の不確実性要因として注視すべき領域だ。


競争激化:AMD・Intel・クラウド巨人の挑戦

NVIDIAの牙城を揺るがす挑戦は、従来の半導体メーカーからクラウド大手まで多方面で進んでいる。

まずGPU市場では、AMDが投入した「Instinct MI350」シリーズが注目を集めている。HSBCのアナリストは「Blackwellと同等の競争力を持つ」と評価を引き上げ、2026年には次世代「MI400」でNVIDIAの新アーキテクチャ「Rubin」に挑む計画を示している。ただしAMD最大の弱点は依然としてソフトウェア基盤であり、CUDAと比べるとROCmは開発者の支持を十分に得られていない。

Intelも「Gaudi 3」で再挑戦している。特定のワークロードではNVIDIAの旧世代H100を上回る性能を示し、価格面では大幅な優位性を持つとされる。しかしBlackwellとの差は依然大きく、こちらもエコシステムの構築が課題だ。

さらに構造的な脅威は、AWSやGoogleといった最大顧客が自社チップを開発している点にある。AWSは学習用「Trainium」、推論用「Inferentia」を提供し、最大40%高い価格性能比を打ち出している。しかしCUDA環境からの移行ハードルは高く、採用は限定的だ。Googleも「TPU v6」を発表し、従来比4.7倍の性能向上を実現。Google Cloud内ではNVIDIAの代替選択肢となりつつある。

このようにAIアクセラレータ市場は二極化が進む。

  • NVIDIA:最高性能とCUDAによる圧倒的ロックイン
  • AMD・Intel・クラウド勢:価格性能比を武器に「十分な性能」を狙う

表にまとめると以下のようになる。

企業・製品特徴課題
NVIDIA Blackwell最高性能、CUDAの支配力高価格・供給不足
AMD MI350性能追随、ROCmエコシステム未成熟
Intel Gaudi 3コスト優位ハイエンド性能不足
Google TPU v6自社クラウド最適化Google Cloud限定

現時点ではクラウド大手もNVIDIA依存を解消できず、「置き換え」ではなく「ヘッジ」戦略に留まっている。しかし、もしカスタムチップが本格普及すれば、NVIDIAの成長ポテンシャルに上限を課すリスクとなる。競争環境は全方位的に厳しさを増しており、今後の市場シェア動向はAI覇権の行方を占う重要な指標になるだろう。

日本市場への波及:株式と産業への影響

NVIDIAの決算や戦略は、米国市場にとどまらず、日本の株式市場や産業構造に直接的な影響を与えている。特に東京市場では、NVIDIAの業績が半導体関連株の先行指標(ベルウェザー)として機能しており、投資家の注目度は極めて高い。

決算発表前の8月下旬には、東京エレクトロンやアドバンテストといった半導体関連株が期待感から上昇。日経半導体株指数も堅調に推移した。これはNVIDIAの好調な業績が、間接的に日本の半導体関連企業の受注や売上を押し上げるとの思惑によるものだ。

代表的な事例を挙げると以下の通りである。

  • 東京エレクトロン(8035):半導体製造装置の世界的リーダーであり、NVIDIAのような顧客の設備投資が業績に直結する。同社の売上の約42%が中国市場に依存しており、NVIDIAの中国リスクはそのまま東京エレクトロンの逆風にもなり得る。
  • アドバンテスト(6857):半導体テスター大手で、Blackwellのような最先端チップの生産量増加に直結する。NVIDIA株価との相関性が高く、NVIDIA決算は同社株の短期的な動向を占うバロメーターとなっている。

さらに産業面では、自動車と製造業という日本の基幹産業でNVIDIAとの提携が深化している。トヨタは次世代自動運転車開発でNVIDIAの「DRIVE AGX Orin」や「DriveOS」を採用し、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)への移行を加速。ファナックは工場自動化でNVIDIAと協業し、AIを組み込んだ産業用ロボットの導入を進めている。

これらの事例は、NVIDIAが単なる半導体サプライヤーではなく、日本の基幹産業にとって不可欠なプラットフォーム企業へと変貌していることを示す。株式市場の連動性と産業構造の深い依存関係が相まって、日本経済におけるNVIDIAの存在感はかつてないほど高まっている。


「AI主権」を巡る国家戦略とさくらインターネットの挑戦

近年、日本でも「AI主権(Sovereign AI)」という考え方が台頭している。これは国家が自国内にAI開発基盤を確保し、海外の巨大クラウド企業に過度に依存しない体制を築くという動きだ。日本における象徴的な事例が、さくらインターネットによる大規模GPUクラウド基盤の整備である。

さくらインターネットは経済産業省の支援を受け、NVIDIAのH100 GPUを数千基規模で導入。さらに、最新のB200 GPUを国内で最速導入する計画を進めている。これにより国内の研究機関や企業が高性能GPUにアクセスでき、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の開発が加速する狙いだ。

この取り組みの意義は、単なるクラウドサービス提供にとどまらない。

  • 国家戦略的側面:AI基盤を国内に置くことでデータ主権を守り、国外規制の影響を最小化。
  • 産業育成:スタートアップから大企業まで幅広いプレーヤーが低コストでGPUを利用可能に。
  • 国際競争力強化:米中を中心としたAI覇権争いの中で、日本が後れを取らないための布石。

実際、経産省は生成AI分野での国産基盤整備を「国家安全保障上の課題」と位置づけており、NVIDIAの技術はその中核を担っている。さくらインターネットの取り組みは、「国家」という新たな顧客層をNVIDIAが獲得する契機でもある。

今後、国内での生成AI開発競争は加速するが、その根幹にあるのは依然としてNVIDIAの技術だ。つまり、日本のAI主権確立は、同時にNVIDIA依存の強化を意味するという逆説的な構図でもある。

この矛盾をどう解消するかが、日本の政策立案者と産業界に突き付けられた課題であり、NVIDIAの戦略がその成否を左右することは間違いない。

まとめ

NVIDIAの2026年度第2四半期決算は、AI市場の爆発的な需要を背景に圧倒的な成長を示す一方、株価は「完璧さ」を求める市場の高い期待を裏切り下落した。同社は今や単なる半導体メーカーではなく、世界のAI基盤を支える「プラットフォーム企業」へと進化している

その成長の裏側には、BlackwellアーキテクチャとCUDAエコシステムという強固な技術基盤がある。しかし同時に、米中摩擦による輸出規制やクラウド巨人による自社チップ開発といったリスクも強まっており、競争環境はかつてないほど厳しさを増している。

日本市場にとってもNVIDIAの動向は無関係ではない。東京エレクトロンやアドバンテストといった半導体関連株の値動き、自動車産業や製造業との提携、さらにはさくらインターネットによる「AI主権」確立の取り組みなど、日本の経済・産業はNVIDIAの戦略と技術に深く結びつき始めている

今後、投資家や経営者が注視すべきは、Blackwellの普及速度、中国事業の行方、そしてクラウド大手の動向である。NVIDIAが築く「AI覇権」は、世界経済の未来と日本の産業競争力を左右する極めて重要なテーマであり続けるだろう。


出典一覧

Reinforz Insight
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