2025年、ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイは、前例のない戦略転換の最終段階に差し掛かっている。第2四半期に公表された最新のポートフォリオでは、長年の主力であったアップル株やバンク・オブ・アメリカ株を削減し、一方でユナイテッドヘルスや住宅建設関連株、エネルギー株といった「リアルエコノミー」銘柄へと軸足を移した。加えて、三菱商事の持株比率を10%超へと引き上げ、日本の総合商社との関係をかつてないレベルに深めている。

さらに注目されるのは、過去最高水準となる3,441億ドルもの現金保有だ。これは「慎重さ」の象徴であると同時に、市場の混乱期に大規模投資を行うための「待機資金」でもある。そして年末には、長年帝国を築いてきたバフェットから、実業経営に強みを持つグレッグ・アベルへのバトンタッチが実現する。

こうした動きは個別の投資判断ではなく、「帝国の持続性を次の世紀にわたり保証するための包括的戦略」と見るべきだ。投資家にとっては、米国市場の過熱感、日本市場の再評価、そしてキャッシュを武器とした待機戦略といった重要なシグナルが読み取れる。

バークシャーの歴史的転換点:2025年第2四半期の全貌

ポートフォリオの主な変化(2025年第2四半期)

カテゴリー企業名 (ティッカー)変更内容取引額(推定)
新規投資UnitedHealth Group (UNH)5,039,564株購入$15.7億
新規投資Nucor (NUE)新規ポジション構築$8.57億
新規投資Lennar (LEN)7,048,993株購入$7.80億
新規投資D.R. Horton (DHI)1,485,350株購入$1.91億
新規投資Lamar Advertising (LAMR)1,169,507株購入$1.42億
新規投資Allegion (ALLE)780,133株購入$1.12億
追加投資Chevron (CVX)3,454,258株追加 (+2.91%)$174.8億(ポジション合計)
追加投資Pool Corp (POOL)1,994,885株追加 (+136.26%)$10.1億(ポジション合計)
追加投資Constellation Brands (STZ)1,391,000株追加 (+11.58%)$21.8億(ポジション合計)
保有削減Apple (AAPL)20,000,000株売却 (-6.67%)$574.5億(ポジション合計)
保有削減Bank of America (BAC)26,300,000株売却 (-4.17%)$286.4億(ポジション合計)
保有削減Charter Communications (CHTR)46.5%削減$4.34億(ポジション合計)
完全売却T-Mobile US (TMUS)3,880,000株売却 (-100%)$0

2025年第2四半期、バークシャー・ハサウェイが米証券取引委員会に提出したフォーム13Fは、世界の投資家を驚かせる大規模なポートフォリオ再編を明らかにした。アップル株を2,000万株(約6.67%)売却し、バンク・オブ・アメリカ株も2,630万株(4.17%)削減するなど、長年支柱としてきた銘柄への投資比率を引き下げた一方で、ユナイテッドヘルス・グループや米住宅建設関連株、シェブロンなどの実体経済銘柄へとシフトしている。

アップル・バンクオブアメリカ縮小の意味

アップルは依然としてバークシャーの最大保有銘柄であり、売却後もポートフォリオの約21.4%を占める。しかし株価は近年の急上昇でPERが歴史的に割高水準に達しており、一部売却は過度な集中リスクの軽減と利益確定の両面で合理的だ。また、金融セクターを象徴するバンク・オブ・アメリカの縮小は、不透明な金利環境下でのリスク調整と見ることができる。これは「米国株市場の割高感」への警戒シグナルと解釈する投資家が多い。

逆張りで光るユナイテッドヘルス投資

注目すべきは、司法省調査やCEO辞任など逆風に直面していたユナイテッドヘルス株を約16億ドル分新規購入した点である。業績警告が続き市場が悲観的になる中での買い増しは、典型的なバフェット流バリュー投資といえる。モーニングスターは、マネージドケア市場全体が過小評価されていると指摘しており、これは長期的な超過リターン獲得の布石となる可能性が高い。

リアルエコノミー重視の姿勢

同時に、鉄鋼大手ニューコアや住宅建設大手レナーとD.R.ホートンに投資を新規で行い、シェブロン株も3.45百万株追加した。米国のインフラ投資法案や根強い住宅需要を背景に、「有形資産への回帰」を鮮明にしているのだ。さらに、TモバイルUSの株式を完全に売却し通信業界から撤退したのも、資本集約的セクターへの歴史的な慎重姿勢を裏付ける。

この一連の動きは、単なる個別判断ではなく、「高バリュエーション市場から距離を置き、本質的価値に資金を再配分する戦略」と総括できる。市場の過熱感が続く中で、バークシャーは防御と攻撃の両面を備えた再編を進めているのである。


日本総合商社への深まるコミットメント

企業名ティッカー最新の報告保有比率最近の変更
三菱商事8058.T10.23%9.74%から増加(2025年8月)
三井物産8031.T10%未満(9.82% as of Mar)増加が確認されている
伊藤忠商事8001.TN/AN/A
丸紅8002.TN/AN/A
住友商事8053.TN/AN/A

米国でのポートフォリオ再編と並行して、バークシャーが強い確信を示しているのが日本の大手総合商社への投資だ。2025年8月28日、三菱商事株の保有比率を9.74%から10.23%へと引き上げ、ついに「10%の壁」を超えたことが明らかになった。これは単なるバリュー投資を超えた、戦略的パートナーシップの深化を意味している。

「10%超」への転換の背景

バークシャーは従来、特定企業の保有比率を10%未満に抑えると公言していた。しかし今回は商社側からの「祝福」を得た上で上限を超えた。これは通常のパッシブ投資家と企業の関係を超えるもので、長期的かつ協働的なパートナー関係の構築が進んでいることを示す。三井物産でも保有比率が引き上げられており、他の商社についても同様の展開が予想される。

バフェットが商社に惹かれる理由

商社モデルはエネルギー、金属、食料、流通など多角的事業を持ち、安定キャッシュフローを生み出す点でバークシャーに極めて近い。加えて、近年のコーポレートガバナンス改革により、自社株買いや増配など株主還元に積極的な姿勢が定着している。さらに、バフェットは商社経営陣を高く評価しており、後継者グレッグ・アベルも「50年続くパートナーシップ」を示唆している。

日本市場への波及効果

この投資拡大は商社株の上昇を招き、日本市場全体への注目を高めた。実際、日本経済は5四半期連続でGDP成長を記録しており、底堅い景気基盤がある。アナリストは「バフェットのお墨付き」が海外投資家の参入を促すと指摘する。「世界最高の投資家が評価する日本株」という事実は、国内外の投資家に強い心理的インパクトを与える。

戦略的ヘッジとしての意味

米国中心のポートフォリオに対し、資源・エネルギー供給網を持つ日本商社は地理的・事業的な補完性を提供する。バークシャーのシェブロンや鉄道事業と結びつく可能性があり、将来的にはアジアでの大規模投資やM&Aの足掛かりとなるだろう。

総じて、日本商社への深まる投資は、単なる「安いから買う」戦術ではない。「アジアにおける戦略拠点確立」を視野に入れた長期的布石であり、バークシャーの未来戦略を理解する上で欠かせない要素となっている。

現金3,441億ドルが示す「財務の要塞」

2025年第2四半期末、バークシャー・ハサウェイの現金および短期米国財務省証券の保有額は3,441億ドルに達した。これは世界のほとんどの企業の時価総額を凌駕する規模であり、バフェット流の戦略的姿勢を象徴する数字である。投資機会を逃している「機会費用」と批判する声もある一方で、この巨額の流動資産には周到な意図が込められている。

自社株買い停止が示す市場観

2025年第2四半期、バークシャーは自社株買いを完全に停止した。バフェットは「本質的価値を下回っている時のみ自社株を買い戻す」と明言してきた人物である。その彼が買い戻しをやめたという事実は、自社株でさえ割安ではないと判断している強烈なシグナルだ。米株市場全体が高バリュエーションにあるとの警戒感を裏付けている。

「象撃ち銃」を待機させる合理性

3,441億ドルの現金は単なる消極策ではない。バフェットは過去、ドットコムバブルやリーマン危機の前後で現金を積み増し、市場混乱時に優良企業を好条件で取得してきた。今回も同様に、「市場がパニックに陥った時に一撃で大型投資を実行する」ための準備である。バークシャーの財務基盤は極めて堅牢で、外部資金に依存することなく、他社が資金繰りに苦しむ局面でも圧倒的な交渉力を発揮できる。

後継体制への保険

巨額の現金保有は、リーダー交代の時期におけるリスク管理の意味合いも持つ。もしCEO交代直後に市場暴落が起これば、新CEOアベルは強大なプレッシャーに晒される。しかし3,441億ドルという「財務の要塞」があれば、資産売却や追加調達を強いられることなく、むしろ危機を好機に変えられる。これはバフェットが後継者に残す、「帝国を守るための最大の遺産」だと言える。

この現金戦略は、投資家にとって「焦らず待つ勇気」の重要性を示している。過熱市場に不用意に飛び込むよりも、十分な流動性を確保し、最適な瞬間を待つことが長期的な成功を保証するという教訓を体現している。


リーダー交代の全貌:グレッグ・アベルの手腕と未来像

2025年末、ウォーレン・バフェットはCEO職を退き、グレッグ・アベルがその座を引き継ぐ。62歳のアベルは、長年バークシャーの非保険事業を統括してきた実務型経営者であり、次世代の帝国を率いる人物として選ばれた。

エネルギー分野での実績

アベルはカナダ出身で、2000年にバークシャー傘下となったミッドアメリカン・エナジーに参画。以降、同社を「バークシャー・ハサウェイ・エナジー(BHE)」へと成長させた。パシフィコープやNVエナジーなどの大型買収を主導し、再生可能エネルギーにも巨額投資を実行。資本集約的な事業を効率的に運営し、持続的に価値を創造する手腕は高く評価されている。

バフェットからの信任

バフェットと故チャーリー・マンガーは「アベルは資本配分を完全に理解している」と公言し、100%の信頼を表明してきた。アベル自身もバークシャーの中核哲学を維持する姿勢を強調している。すなわち、経営者への分権的な信頼、長期思考、健全な資本配分という伝統は不変である。

戦略の変化と進化

ただし、アベル体制下では重点が微妙に変わる可能性が高い。株式投資から超過リターンを得ることが難しい規模に達したバークシャーは、今後、BNSF鉄道やBHEといった非公開事業の最適化・拡張に注力するとみられる。加えて、新たな「象級」M&Aを通じて産業複合体としての成長を目指すだろう。株式投資ビークルから世界有数の産業コングロマリットへという進化が公式に宣言される段階に入る。

経営チームとの補完関係

新体制では、アベルが非保険事業を統括し、アジット・ジェインが保険部門を率いる「二枚看板体制」が続く。バフェットは会長として残り、文化と哲学の継承を担う。この分担により、移行の混乱を最小化しつつ、次世代の経営基盤を強化している。

総じてアベルの就任は、バフェット時代の終焉ではなく、「帝国を次の100年に導くための進化」を意味する。投資家にとっては、新しいバークシャーがどのような大型投資を行うかが最大の注目点となる。

バフェットの不変哲学とその継承

2025年、ウォーレン・バフェットの動向を読み解く上で欠かせないのは、彼が半世紀以上にわたって貫いてきた投資哲学である。株式の売買やポートフォリオ再編は表層的な現象にすぎず、その根底には「複利の力を信じる姿勢」「経営者への信頼」「過ちを認める謙虚さ」といった不変の原則が流れている。

年次書簡に示された「過ちの効用」

2024年版の年次書簡でバフェットは、自らの投資や経営判断における「過ち」について率直に語った。「過ちの修正を遅らせることこそ最大の罪である」と強調し、迅速な軌道修正こそが長期的成功の条件であると説いた。これは、失敗を隠そうとする多くの経営者文化と対照的であり、投資家にとっては「誤りを認めることが成長の前提である」という強いメッセージとなった。

「アメリカの追い風」と複利の力

同書簡では、米国経済の長期的な成長を「アメリカの追い風」と表現し、再投資による複利効果の重要性を改めて強調している。実際、2025年第2四半期における住宅建設やインフラ関連銘柄への投資は、長期的に持続可能な成長セクターに資金を振り向ける姿勢の表れである。バフェットの投資行動は、短期的な市場変動を超えた「複利の哲学」を実践していると言える。

慈善活動に込められた思想

また2025年6月、バフェットは過去最大規模となる年間約60億ドル相当のバークシャー株を慈善財団に寄付した。2006年以来の寄付総額は600億ドルを超え、自身の資産の99%を社会に還元する姿勢を貫いている。これは富を個人の所有物ではなく、社会的な資源と位置づける考えであり、投資哲学と同様に長期的かつ合理的な判断に基づいている。

後継者への「哲学の移譲」

バフェットが近年、自らの過ちや限界を積極的に語る背景には、後継者アベルへのメッセージが込められている。すなわち「完璧であろうとするな、過ちを恐れるな」という教えだ。これは次世代の経営陣がプレッシャーに押し潰されることなく、現実的かつ大胆な意思決定を下すための「哲学的な免罪符」ともいえる。

こうした一連の行動は、単なる投資判断を超え、「哲学そのものを遺産として残す」ことを意識したものである。マンガー亡き後、バフェットは自らを「哲学の番人」として位置づけ、次世代のリーダーに確実に根付かせようとしている。


投資家が読み取るべきシグナル

バフェットの最新の動きは、単なるバークシャーの経営戦略ではなく、世界の投資家に向けた強力なシグナルでもある。その核心は、米国市場の割高感、日本市場の再評価、そして流動性戦略の重要性に集約される。

米国市場への警鐘

アップルやバンク・オブ・アメリカ株の削減、自社株買いの停止、そして過去最高水準の現金保有。これらはいずれも「米国株市場は割高である」という暗黙の警告にほかならない。実際、S&P500は過去最高水準のPERで取引されており、利下げ観測が株価を押し上げているが、バフェットは冷静に距離を置いている。投資家はこの姿勢から、高PER銘柄への過度な依存を避けるべきだと学ぶことができる。

日本市場の魅力再評価

一方で、商社株への持株比率引き上げは「日本市場は依然として割安である」という明確なメッセージだ。商社はPERやPBRが米国市場に比べて低く、安定的なキャッシュフローと積極的な株主還元を伴っている。加えて、ガバナンス改革の進展が国際投資家の信頼を高めている。バフェットの投資行動は、日本市場の価値を世界的に再確認させる契機となった。

「忍耐」と「流動性」の教訓

3,441億ドルの現金は、待機戦略の重要性を示すシグナルでもある。市場が過熱する局面では焦らず、適切な機会が訪れるまで資金を温存する。このアプローチは、短期的な利益を追いがちな投資家にとって逆説的だが、長期的成功の鍵となる。「現金こそ究極のオプション」というバフェットの考えは、現代の不確実な市場において極めて示唆的である。

新体制の示唆する未来

最後に、アベル体制への移行は投資家に新たな視点を提供する。今後のバークシャーは株式ポートフォリオに依存せず、BNSF鉄道やBHEといった事業会社の運営効率化、大型M&Aによる成長に軸足を移すだろう。これは「投資会社」から「産業コングロマリット」への進化であり、投資家自身も資産配分の多様化を意識すべき時代に入ったことを示している。

総じて、2025年のバフェットの動きは、割高市場への警戒、割安市場の発見、そして流動性の価値という三つの教訓を同時に投資家に投げかけている。これは単なる投資判断ではなく、未来の資産運用における羅針盤となるシグナルにほかならない。

まとめ

2025年のウォーレン・バフェットとバークシャー・ハサウェイの動向は、単なる投資判断の積み重ねではなく、次の100年を見据えた包括的戦略として理解すべきである。

アップル株やバンク・オブ・アメリカ株の一部売却は、市場の過熱感を冷静に見極めた調整であり、ユナイテッドヘルスやインフラ関連株への投資は「逆張り」と「実体経済回帰」の象徴だった。同時に、日本の総合商社への持株比率を10%超に引き上げたことは、割安株投資を超えた長期的な戦略的パートナーシップの布石である。

また、過去最高の3,441億ドルに膨らんだ現金保有は、慎重さの表れであると同時に、市場が混乱した瞬間に大胆な一手を打つための「財務の要塞」として機能する。さらに、グレッグ・アベルへのリーダーシップ移行は、バークシャーが「投資会社」から「産業コングロマリット」へと進化することを公式に宣言する出来事であり、バフェットが築いた哲学と文化が継承されていくことを保証する。

投資家にとっての教訓は明確だ。割高市場には警戒を、割安市場には信頼を、そして焦らず待つ勇気を持つこと。バフェットの行動は、現代の不確実な市場における最良の指針であり続けている。


出典一覧

Reinforz Insight
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