2025年、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」の実行段階に入り、デジタル戦略やSBIホールディングスとのアライアンスを中心に大きな注目を集めている。この計画は単なる収益拡大を目指すものではなく、社会的価値の創造と経済的価値の追求を両輪とする、極めて包括的な成長モデルである。

個人向け総合金融プラットフォーム「Olive」は、サービス開始からわずか数年で500万件を超えるアカウントを獲得し、若年層を中心に高い支持を得ている。また2025年には、中小企業向けサービス「Trunk」が登場し、従来のメガバンクが取り込めなかった小規模事業者市場に切り込むことで、新たな成長の柱を築こうとしている。

さらに、SBI証券との連携による資産運用サービスの強化は、新NISA制度に伴う巨額の資金シフトを取り込む戦略的布石となっている。加えて、アジア市場におけるマルチフランチャイズ戦略は、インドやインドネシアを中心に現地金融包摂に貢献しつつ、収益源としての成熟段階に入りつつある。

本稿では、SMFGが直面する競争環境や規制動向を踏まえつつ、「Fulfilled Growth」を実現するための戦略的実行力とその持続可能性を多角的に分析する。

中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」が描く青写真

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が掲げる中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」は、2023年度から2025年度を対象期間とする成長戦略であり、単なる数値目標を超えた包括的な青写真である。この計画は経済的な成果と社会的価値の両立を目指す点に特徴があり、金融業界の枠を超えて持続可能な社会に貢献する姿勢を明確にしている。

中心となる哲学は「幸せな成長(Fulfilled Growth)」である。これは利益追求だけでなく、社会課題の解決を通じて人々の幸福を実現するという理念に基づく。三井家・住友家の伝統的な事業精神「自利利他公私一如」を現代的に解釈したものであり、SMFGがESGを戦略の根幹に据える理由でもある。

計画は三つの柱から成り立つ。第一に「社会的価値の創造」であり、脱炭素社会の実現や貧困・格差の解消、少子高齢化への対応など5つの重点課題に取り組む。第二に「経済的価値の追求」として、デジタル戦略や決済事業、アジア展開といった成長領域に資源を集中させる。第三に「経営基盤の格段の強化」であり、ガバナンスやIT投資、人材育成を通じて信頼を高めることを目的とする。

数値目標も明確に設定されている。2025年度末までに親会社株主純利益9,000億円、ROE7%、CET1比率の安定維持を掲げ、非財務目標としては従業員エンゲージメント70以上やマイクロファイナンス80万人増加を目指している。これらの指標は、経済的価値と社会的価値が不可分であるという戦略思想を具現化している。

SMFGは社会課題をビジネス機会と捉え、脱炭素化支援や金融包摂を新たな収益源とする。これにより、従来コストとみなされがちだったESGを収益成長のエンジンへと転換している点が注目される。

まとめると、SMFGの中期経営計画は金融機関の役割を超えた社会的存在意義を明確にし、同時に株主価値の最大化を図るバランスの取れた戦略である。これは国内外の金融業界においても先進的な試みといえる。

財務実績と市場評価が示す戦略の実効性

2026年3月期第1四半期(2025年4~6月)の決算は、SMFGの戦略実行力を測る重要な指標となった。経常収益は2兆4,444億円(前年同期比3.1%減)、経常利益は4,833億円(同7.2%減)と減収減益の結果であったが、親会社株主純利益は3,768億円(同1.5%増)と増益を確保した。外部環境の逆風にもかかわらず収益の安定性を維持した点は評価に値する。

表:2026年3月期第1四半期 実績と目標進捗

指標通期目標第1四半期実績進捗率
親会社株主純利益1兆3,000億円3,768億円29.0%
ROE7%程度利益進捗より順調
CET1比率安定維持9.1%達成

純利益進捗率29%は、年間目標の25%を上回り、計画達成に向けて順調な滑り出しといえる。ホールセール事業が前年同期比44.8%増と牽引する一方、市場部門は急激な相場変動で9.2%減と明暗が分かれた。この「二速経営」は、顧客基盤に根差した事業の成長が市場部門の不安定さを補っている構図を浮き彫りにした。

市場評価もおおむね良好である。2025年9月時点の株価は4,100円前後で推移し、時価総額は約15.8兆円。アナリストコンセンサスは「買い」が優勢で、平均目標株価4,367円は現行水準から約6.5%の上昇余地を示している。さらに、アナリスト予想の2026年3月期純利益は1兆3,874億円と会社予想を上回っており、市場の期待は一段と高い。

この背景には、日本銀行の金利政策転換による収益拡大期待がある。金利上昇は預貸金利鞘の改善を通じて年間2,000億円規模の増益効果をもたらす可能性が指摘されている。他方で、債券価格下落による市場部門への影響はリスク要因となる。

総じて、財務実績は中期経営計画の達成可能性を裏付けており、市場からの信頼も厚い。重要なのは、ホールセールやリテールといったコア事業の成長を継続させ、市場部門の脆弱性を克服することである。その実現が「Fulfilled Growth」の持続性を左右することになる。

デジタル戦略「Olive」と「Trunk」が切り拓く新たな金融体験

SMFGが推進するデジタル戦略の象徴が、個人向け「Olive」と中小企業向け「Trunk」である。両者は単なるオンラインサービスではなく、顧客接点の再定義と新たな収益基盤の確立を目的としたエコシステムであり、メガバンクのビジネスモデルを根本から変革している。

「Olive」は、銀行口座、決済、証券、保険を一つのモバイルアプリに統合した総合金融プラットフォームである。2022年の開始以来、わずか2年余りでアカウント数500万件を突破し、特に20代から30代の若年層で高い支持を集めている。スマートフォン完結型の利便性に加え、ポイント払いの導入やクロスセルによる手数料収益拡大が奏功し、リテール部門の成長に大きく寄与している。

一方で2025年に始動した「Trunk」は、従来のメガバンクが見過ごしてきた従業員20人以下の小規模事業者を主対象とする。最短翌営業日での法人口座開設、業界最低水準の振込手数料(他行宛て145円、SMBC宛て無料)、AI与信や会計SaaSとの連携機能などを備え、従来にない利便性を実現した。開始3年間で30万口座獲得を目標とし、法人向けビジネスの裾野を一気に拡大しようとしている。

特徴を整理すると以下の通りである。

サービス対象特徴成果・目標
Olive個人銀行・決済・投資を統合、若年層中心アカウント数500万件突破
Trunk中小企業スマホ完結、低コスト、AI与信3年間で30万口座獲得目標

両サービスに共通するのは、フィンテック企業やVisaとの協業を取り込みながら迅速に機能強化を進めている点である。これにより、銀行が従来担ってきた「資金の仲介者」から、経営や生活を支援する「総合ソリューションプロバイダー」への進化が鮮明となっている。

今後は、顧客データの活用によるパーソナライズ化や、外部サービスとのさらなる連携が進めば、SMFGのプラットフォームは金融の枠を超えて生活・事業の中枢を担う存在となる可能性が高い。これこそがデジタル戦略の真の狙いであり、収益基盤を強化しつつ顧客との長期的関係を築く鍵となる。

SBIとのアライアンスが狙う新NISA市場の覇権

SMFGがSBIホールディングスと構築した資本業務提携は、新NISA制度を軸とした資産運用市場での優位確立を狙う極めて戦略的な布石である。2022年に796億円を投じてSBI株式約10%を取得したことに始まり、2025年には両社折半出資の「Oliveコンサルティング」を設立し、共同で資産運用サービスを拡充する体制を整えた。

この提携の最大の狙いは、NISA制度による個人金融資産の投資シフトを取り込むことである。日本の家計金融資産は2,100兆円規模に達し、その半分以上が現預金に滞留している。政府が進める「資産運用立国」構想と新NISA制度は、こうした資金を株式や投信に誘導する大きな転機となる。

ここでSMFGはSBI証券の圧倒的なオンライン証券基盤と、三井住友銀行・SMBC日興証券の対面・コンサルティング機能を融合させ、デジタルと人によるハイブリッド型サービスを展開する。これにより、取引の利便性を求める層から専門家のアドバイスを求める層まで幅広くカバーし、他のメガバンクやネット証券にはない強固な差別化を実現している。

アライアンスの仕組みを整理すると以下のようになる。

  • SBI証券:オンライン完結型サービス、商品ラインナップの豊富さ
  • 三井住友銀行/SMBC日興証券:対面相談、資産形成アドバイス
  • 新会社「Oliveコンサルティング」:両者の強みを統合し、資産運用ニーズに応える

証券アナリストの間でも、この連携はNISA市場における「ゲームチェンジャー」とみられている。競合のみずほ×楽天連合に対抗する形で、顧客基盤と商品力を兼ね備えたSMFG-SBI連合は優位に立つ可能性が高い。

さらに、この仕組みは新NISAにとどまらず、iDeCoや企業型DC、さらには相続・事業承継といった長期資産形成市場への展開余地も大きい。資産運用を入り口に顧客生涯価値を最大化する戦略が描かれており、金融庁の掲げる「顧客本位の業務運営」とも一致している。

結果として、SMFGとSBIのアライアンスは日本の投資文化を大きく変える可能性を秘め、同時にグループの持続的成長を支える強力な柱となるだろう。

アジア・マルチフランチャイズ戦略の成果と社会的インパクト

SMFGが推進するアジア・マルチフランチャイズ戦略は、単なる海外展開にとどまらず、現地社会への深い関与を通じて経済的価値と社会的価値を同時に実現するものである。インド、インドネシア、ベトナム、フィリピンといった成長市場を重点国とし、数千億円規模の投資を実行してきた。

特にインド市場では、ノンバンクのFullerton Indiaを完全子会社化し「SMFG India Credit」として再編した。これにより都市部だけでなく農村部にもサービス網を広げ、リテール・中小企業・農業融資といった幅広い領域でプレゼンスを高めている。累計7,000億円以上を投資し、インドの膨大な金融需要に対応するだけでなく、金融包摂という社会課題にも直接的に貢献している。

インドネシアではBank BTPNを傘下に収め、特に女性起業家を対象としたマイクロファイナンス事業に注力している。2024年上半期には新規で27万9,000人に融資を実行し、子供の就学率向上や生活水準改善に具体的成果を上げた。これは中期経営計画が掲げる「社会的価値の創造」を実体として示す事例である。

表:主要市場での展開

投資先出資比率戦略的意図
インドSMFG India Credit、Yes Bank100%子会社化、約25%出資予定リテール・SME市場開拓、サプライチェーン金融
インドネシアBank BTPN90%超マイクロファイナンス、女性起業家支援
ベトナムFE Credit、VPBank49%、資本業務提携コンシューマーファイナンス市場参入
フィリピンRCBC約5%(20%へ拡大予定)日系企業支援と現地顧客基盤拡大

ベトナムではFE Creditへの49%出資を通じて国内最大級の消費者金融市場に参入し、急速に拡大する中間層の需要を取り込んでいる。フィリピンでは大手商業銀行RCBCとの提携を強化し、日系企業のサポートに加え現地市場への浸透を進めている。

これらの取り組みは、単なる金融サービス提供を超え、現地社会の生活改善や金融教育を支える側面を持つ。SMFGの海外戦略は収益だけでなく社会的インパクトを重視しており、これが長期的にブランド信頼性と持続可能な成長を後押しする。アジア市場での成功は、SMFGが掲げる「Fulfilled Growth」の国際的実践例といえる。

ESG統合で強化される持続可能な成長モデル

SMFGはESG(環境・社会・ガバナンス)を経営戦略の中心に据え、持続的成長を実現するための推進力として活用している。単なるCSR活動ではなく、事業成長を支える中核要素として組み込まれている点に特徴がある。

グループは2029年度までにサステナブルファイナンス累計50兆円を実行する目標を掲げ、そのうち20兆円をグリーンファイナンスに充当する計画である。再生可能エネルギー分野への投融資や、温室効果ガス排出削減が困難な産業を対象とするトランジション・ファイナンスを積極的に展開し、脱炭素社会への移行を金融面から支えている。

具体例として、地域電力の地産地消を目的としたバイオマス発電事業への投資や、生物多様性保全を目的とした「ネイチャーポジティブ・ファイナンス」の推進が挙げられる。後者は金融商品のアイデアソンやソリューションカタログの公開といった革新的な取り組みを伴い、金融機関が生態系保全に関与する新たなモデルを提示している。

社会的側面では、大規模災害時の迅速な義援金拠出や、マイクロファイナンスを通じた新興国の金融包摂支援も進めている。これにより、金融機関が果たすべき社会的責任と収益機会を結びつけている。

表:ESG関連主要目標と取り組み

項目目標・実績主な施策
サステナブルファイナンス2029年度まで累計50兆円グリーンファイナンス20兆円、トランジション支援
ネイチャーポジティブ新規テーマとして推進生物多様性保全を支える金融商品開発
災害対応大規模災害時に迅速対応義援金拠出、被災地域支援

重要なのは、ESGがコストではなく新たな市場機会と位置づけられている点である。環境・社会課題の解決を金融事業と一体化させることで、SMFGはESGをプロフィットセンターに転換している。

結果として、SMFGの成長モデルは「社会課題解決と収益拡大の両立」という従来相反する概念を融合させたものである。これは投資家からの評価を高めると同時に、規制当局や顧客との信頼関係を強化する基盤となり、持続可能な競争優位を形成する。

非金融サービス展開とスタートアップ支援が生む新たな成長エンジン

SMFGは伝統的な銀行業務に留まらず、非金融分野に積極的に進出することで成長エンジンを多角化している。その背景には、金融サービス単体では差別化が難しくなりつつある市場環境と、顧客ニーズの多様化がある。非金融サービスを組み合わせることで、顧客との接点を拡大し、長期的な関係構築を狙っている。

代表的な取り組みが、HR TechやLegal Techといった企業向けサービスである。HR Tech分野では、採用や労務管理を支援するWebツールを展開し、顧客企業の基盤強化に寄与している。Legal Techでは「SMBCリーガルX株式会社」を設立し、契約書作成や管理をデジタル化することで、業務効率とコンプライアンスの両立を支援している。

さらに教育分野でも存在感を強めている。慶應義塾大学などと連携し、起業家育成プログラムを運営するほか、子供向け金融教育プロジェクトを実施するなど、次世代の人材育成に踏み込んでいる。

加えてスタートアップ支援も重要な柱となっている。国内ではSMBCベンチャーキャピタルを中心に投資活動を展開し、アジアでは「SMBC Asia Rising Fund」、米国では「Atlas Beyond Ventures」を設立し、フィンテックや先端技術企業への投資を強化している。これにより、SMFGはグローバルなイノベーションの潮流を取り込み、既存事業とのシナジーを生み出している。

要点を整理すると以下の通りである。

  • HR Tech:採用・労務管理を支援するデジタルツール
  • Legal Tech:契約書業務を効率化するサービス会社を設立
  • 教育分野:大学連携による起業家育成、子供向け金融教育
  • スタートアップ支援:国内外のCVCを通じた投資・協業

これらの事業は単独では小規模に見えるが、金融サービスと組み合わせることで顧客の事業全体を支える「総合パートナー」としての地位を確立しつつある。非金融サービスは収益多角化の手段であると同時に、既存金融サービスの利用を補完し、長期的な顧客囲い込みを実現する仕組みといえる。

メガバンク競争と規制環境がもたらす外部要因

SMFGの戦略は真空状態で展開されるのではなく、国内外の競合環境や規制当局の方針といった外部要因に大きく左右される。特に日本の金融市場は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループと並ぶ寡占的構造にあり、各グループが独自の戦略で市場を奪い合っている。

MUFGはアジア市場で強力な商業銀行プラットフォームを持ち、タイのアユタヤ銀行などを軸に「アジア×デジタル」戦略を展開している。また、ROE12%という高い目標を掲げ、資本効率改善を迫られるSMFGにとって強力な競合である。一方のみずほは、システム障害などの課題を抱えつつも楽天グループと連携し、楽天証券を中心に新NISA市場を狙う。これはSMFGとSBIのアライアンスに直接競合する動きであり、顧客獲得競争の激化は避けられない。

規制環境も重要な要素である。金融庁が2025年に公表した「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート」では、顧客本位の運営やプロダクトガバナンスの強化が求められた。これは単なる遵守義務に留まらず、商品設計やサービス提供に透明性と付加価値を求めるものとなっており、金融機関には新たな競争力を発揮するチャンスともなる。

加えて、マクロ経済要因も戦略に直結する。日本銀行のゼロ金利政策解除に伴う金利上昇は、年間で最大2,000億円規模の収益押し上げ要因となる一方、債券価格下落で市場部門には逆風を与える。さらに、地政学的リスクや米国の通商政策不透明感も、グローバル展開を進めるSMFGにとってリスク要因となる。

外部要因を整理すると以下の通りである。

  • MUFG:アジアでの強力な基盤と高ROE目標
  • みずほ:楽天との連携で資産形成市場を狙う
  • 規制:顧客本位の業務運営と商品ガバナンス強化の要請
  • 金利環境:収益拡大と市場リスクの両面をもたらす
  • 地政学:国際紛争や貿易摩擦による不確実性

このように、SMFGの成長戦略は競争と規制、そしてマクロ経済の三重構造の中で進められている。外部要因を的確に捉え、リスクを管理しながら競争優位を築けるかが、今後の持続的成長を左右する決定的なポイントとなる。

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