2025年のソフトバンクグループ(SBG)は、従来の投資持株会社という枠組みを完全に脱ぎ捨て、人工超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)時代における覇権確立を目指す企業へと生まれ変わった。孫正義会長兼社長は、これを単なる事業転換ではなく、50年にわたるソフトバンクの歴史の集大成として位置づけている。この変革の中核にあるのは、アーム(Arm Holdings)とOpenAIという「双発エンジン」である。アームはユビキタスで省エネルギーなコンピューティング基盤を、OpenAIは至高の知能レイヤーを担い、両者の共生的な成長がSBGの命運を決定づける。

最新の財務データによれば、2026年3月期第1四半期における株主価値(NAV)は過去最高の32.4兆円に達し、負債比率を示すLTVは17.0%という低水準を維持した。財務基盤の安定を背景に、SBGは「スターゲート・プロジェクト」や「10億AIエージェント構想」といった大胆な取り組みに数十億ドル規模の投資を敢行している。また、独自の日本語大規模言語モデルや国内データセンターの建設により、日本の主権的AI能力を確保する戦略も並行して進められている。

しかし、この壮大なビジョンには大きな実行リスクも潜んでいる。アームのデータセンター市場シェア目標の達成可否や、スターゲート・プロジェクトの進捗不透明感は、投資家にとって重要な懸念材料である。今後12~24ヶ月は、孫氏の描く未来が現実のものとなるのか、それとも過剰な賭けに終わるのかを占う試金石となるだろう。本稿では、SBGの最新戦略を財務分析、主要プロジェクト、競合比較など多角的に検証し、その行方を探る。

Contents

孫正義が描く最終ビジョン:ASIプラットフォーマーへの道筋

孫正義が2025年に示したソフトバンクグループ(SBG)のビジョンは、単なる企業戦略の延長線ではなく、彼自身の人生哲学と結びついた壮大な構想である。その核心にあるのが人工超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)の実現であり、SBGを「ASIの世界No.1プラットフォーマー」として位置づけることにある。

ビジョンの思想的基盤

孫氏は、第45回定時株主総会において、17歳の時に見たマイクロコンピュータチップが自身の原点であったと語った。ソフトバンクの多岐にわたる事業展開、ヤフー買収やボーダフォン日本法人の取得、アームへの投資といった歴史は、一見すると断片的な賭けに見える。しかし孫氏は、それらを「ASI実現」という一本の物語に統合し、過去の全てを未来に向けた布石と定義した。この物語化は、投資家や従業員を強力に結束させる効果を持つ。

プラットフォーマー戦略の意味

孫氏が用いる「プラットフォーマー」という概念は、SBGが全ての要素を自前で構築するのではなく、経済の基盤レイヤーを支配することを意味している。マイクロソフトがWindowsで、グーグルがAndroidで築いたように、アームのアーキテクチャとOpenAIの知能レイヤーを組み合わせ、AI時代の標準基盤を確立しようとしている。

ビジョン実現の社会的意味

孫氏はASIを単なる計算能力の強化ではなく、人類と調和する「超知性」として進化させるべきだと強調している。これは倫理的懸念への回答であり、社会受容性を高める戦略的発言でもある。創業以来掲げてきた「情報革命で人々を幸せに」という理念と整合し、技術覇権を追うだけではない道徳的正当性を伴うものとなっている。

このように、孫氏の最終ビジョンは、過去と現在を統合し、未来を描き出す物語であると同時に、AI時代における競争優位を生む強力な戦略ツールでもある。

財務健全性の裏付け:NAV急増と規律あるLTV管理

壮大なビジョンを掲げるだけでは企業は持続できない。その基盤を支えるのが財務の健全性である。SBGは2026年3月期第1四半期において、株主価値(NAV)が過去最高の32.4兆円に到達し、負債比率(LTV)は17.0%という保守的水準を維持した。この数字は、AI時代における莫大な投資を支える財務エンジンが強固であることを示している。

財務指標の推移

以下に主要な財務指標を整理する。

指標2025年6月末前期末前年同期比
NAV32.4兆円25.7兆円+6.7兆円
LTV17.0%18.0%改善
手元流動性3.7兆円3.4兆円増加
純利益4,218億円-1,743億円+5,961億円

この表から明らかなように、アーム株価上昇による資産価値の増加がNAVを押し上げ、財務の安定性を強化している。

規律ある資本運営

注目すべきは、過去最大規模の投資を行いながらもLTVが改善している点である。これは借入依存ではなく、Tモバイル株の売却など資産の循環利用によって投資資金を確保していることを意味する。手元流動性も3.7兆円と潤沢であり、長期的な大型プロジェクトに対応可能な柔軟性を持つ。

投資と収益性の両立

ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、かつて巨額損失の象徴であったが、2025年はCoupangやSymboticなどAI関連企業の株価上昇により50億ドルの利益を計上した。これにより純利益は大幅に改善し、投資リターンが業績に直結する構造が回復しつつある。

この財務健全性は、孫氏の壮大なビジョンを支える不可欠の条件である。高いNAVと低いLTVは、リスクを取りながらも規律を失わないというSBGの姿勢を象徴しており、AIへの巨額投資を持続可能なものとしている。

アームの挑戦:データセンター市場50%シェアを狙う戦略

アーム・ホールディングスは、ソフトバンクグループのASI戦略を支える「ハードウェアの基盤」として急速に存在感を高めている。2026年3月期第1四半期の決算では総収益10億5,300万ドル、前年同期比12%増を達成し、特にロイヤリティ収益はArmv9アーキテクチャの普及によって25%増の5億8,500万ドルに達した。注目すべきは、アームが2025年末までにデータセンターCPU市場のシェア50%獲得という極めて野心的な目標を掲げている点である。

データセンター市場の急成長

現在、アームはサーバー市場において約25%のシェアを確保しており、1年前の15%から大きく拡大した。AWSが採用する「Graviton」やNVIDIAの「Grace Blackwell」スーパーチップなど、ハイパースケーラーの支持がシェア拡大の主要因である。従来インテルとAMDが支配してきた領域に、アームが強固に切り込んでいることが数字からも明らかである。

収益モデルの強さ

アームのビジネスモデルはライセンスとロイヤリティに依存し、非GAAPベースの粗利益率は98%と極めて高い。高価値なArmv9アーキテクチャの普及が進めば、ロイヤリティ単価は上昇し、グループ全体のキャッシュフロー安定化に貢献する。この高収益構造は、変動の激しいビジョン・ファンド投資を補完する役割を果たす。

他分野への波及

自動車分野でもアームは躍進しており、2022年度の市場シェア36%から2025年度には44%まで拡大している。AI処理を組み込む次世代自動車の普及とともに、アームのアーキテクチャは不可欠な標準として根付く可能性が高い。加えて「AI Everywhere」という戦略の下、データセンターからスマートフォン、IoTまで幅広い領域で存在感を高めている。

このようにアームの挑戦は、単なるCPU供給の拡大にとどまらず、AI時代の計算基盤を握る壮大な布石となっている。ソフトバンクグループにとっては、アームの成長がNAVや資金調達能力を直接押し上げる極めて重要な要素である。

OpenAIとの提携強化:日本市場における独自のシナジー

アームと並ぶもう一つの柱が、OpenAIとのパートナーシップである。ソフトバンクグループは最大300億ドル規模の投資をコミットし、2026年3月期第1四半期にはそのうち75億ドルを実行した。これは単なる資金提供ではなく、OpenAIの技術とSBGの事業基盤を結びつける戦略的連携である。

戦略的な位置づけ

OpenAIはChatGPTをはじめとする生成AIモデルで世界をリードしており、今後のAIエコノミーの標準OSとなる可能性が高い。SBGはその最大級の戦略的投資家として影響力を確保し、次世代技術への優先的なアクセスを持つことになる。これは単なる投資収益の追求ではなく、未来の産業基盤を押さえる動きに直結する。

日本市場での協業

SBGはOpenAIと共同で、日本市場向けに「クリスタル・インテリジェンス」と呼ばれるエンタープライズAIソリューションを開発している。これは企業が自社データを安全に統合し、業務最適化を行うための仕組みであり、SBGが持つ日本企業ネットワークを活用した独自の収益チャネルとなる。海外の金融投資家には実現できない、日本固有の市場での強みを引き出す提携である。

スターゲート・プロジェクトとの連動

OpenAIはスターゲート・プロジェクトの中核的存在であり、巨大なAIデータセンターインフラの主要利用者でもある。SBGが資金を供給し、OpenAIが技術と運営を担うことで、世界的なAI計算能力を支配する可能性がある。仮にこの構想が順調に進めば、SBGとOpenAI連合はAI産業の「関所」を握る存在となる。

独自シナジーの価値

特筆すべきは、SBGが単なる投資家ではなく、OpenAIの日本市場における事実上のパートナーである点である。LINEヤフーやPayPayが生み出す膨大な独自データをOpenAIのモデルに活用できることは、他の投資家にない優位性となる。優れたAIサービスが普及することでさらにデータが集まり、再びモデルが強化されるというデータネットワーク効果が期待される。

この協業は、グローバルなAI競争においてSBGの独自性を際立たせる要因であり、アームとの両輪戦略を補完する極めて重要な布石である。

スターゲート・プロジェクトの現実と不確実性

ソフトバンクグループが掲げる「スターゲート・プロジェクト」は、AI時代の計算基盤を独占的に掌握するための壮大な構想である。2029年までに最大5,000億ドルを投じ、OpenAIやOracleなどと共に世界規模のAIデータセンターインフラを構築する計画は、孫正義が語る「ムーアの法則を凌駕する進化」を体現するものだ。しかし、発表から半年以上が経過した2025年秋時点でも、実態には不透明感が漂う。

壮大な目標と技術的野心

孫氏が描くロードマップは、チップ数10倍、性能10倍、モデル性能10倍を3サイクル繰り返すことで、最終的に1,000億倍の能力向上を実現するという大胆なものだ。これは競合が追随できない計算資源を確保し、次世代ASIの開発を主導する狙いを持つ。もしこの計画が実現すれば、SBGとOpenAI連合はAI研究のボトルネックを解消し、技術覇権を握る可能性が高い。

プロジェクトを覆う不確実性

しかし、2025年8月から9月にかけての報道では、計画の立ち上がりが難航していることが指摘されている。テキサスで進行中の初期データセンターにはSBGが関与していないことや、OpenAIがSBG不在で「スターゲート」の名称を使用している事実が浮上した。さらにOracleのCEOは、正式な事業体が設立されていないと発言しており、構想と現実の間には深い溝がある。

投資家へのインパクト

投資家やアナリストにとって最大の懸念は、スターゲートが実際に形になるのか、それとも過剰なビジョンとして消え去るのかである。短期的な不透明感はSBGの評価に影を落とす可能性があり、アーム株価と同様に戦略の成否を左右する要素となる。SBGにとっては、この計画の進捗状況を明確にすることが信頼回復の鍵となる。

スターゲートは、成功すればAIインフラを支配する基盤事業となるが、失敗すればSBGの戦略全体に大きな疑念を投げかける。今後1〜2年は、この壮大な賭けが実際に動き出すか否かを見極める重要な局面となる。

10億AIエージェント構想がもたらす産業破壊

ソフトバンクグループがもう一つの柱として掲げるのが「10億AIエージェント構想」である。これは単なるAI応用ではなく、企業や社会の在り方そのものを変える可能性を秘めた戦略である。孫正義は、AIエージェントが人事、財務、研究開発、販売といったあらゆる部門に浸透し、相互に連携することで「知覚を持つ企業」を実現すると語る。

エージェントOSの開発

この構想の中核を担うのが、ソフトバンク独自の「エージェントOS」である。既に特許出願済みのこの仕組みは、既存の業務システムを横断し、数千ものAIエージェントが自律的に動作するための基盤となる。従業員がAIアシスタントによって多重的に支援されることで、従来の業務効率を桁違いに高めることが期待されている。

エンタープライズ市場への影響

現在の企業向けソフトウェア市場は、マイクロソフト、オラクル、セールスフォースといった巨大プレイヤーに支配されている。しかしAIエージェントは、これらのアプリケーションを超越する新しい抽象化レイヤーを形成する。もしソフトバンクがこの「AIエージェントのOS」を確立すれば、既存のエンタープライズソフトウェア市場に破壊的な変革をもたらす可能性がある。

産業界に広がる波及効果

エージェントの導入によって期待される効果は以下の通りである。

  • 業務効率化による生産性の大幅向上
  • 自律的なデータ分析と意思決定の迅速化
  • 部門横断的な最適化による企業価値の最大化
  • 新たなサービス創出や市場拡大の加速

この仕組みが普及すれば、企業は従来の階層的な組織構造から、AIによって支援される動的かつ柔軟なシステムへと変貌するだろう。

日本企業にとっての意味

特に労働人口減少に直面する日本企業にとって、AIエージェントの導入は人手不足解消の切り札となり得る。さらにLINEヤフーやPayPayが保有する膨大なデータと連動すれば、日本市場に最適化されたAIソリューションの開発が加速する。これはソフトバンクグループが独自の強みを発揮できる領域である。

10億AIエージェント構想は、単なる効率化の枠を超え、企業運営の根本を変革し、産業全体の構造を再定義する可能性を持つ。これは孫正義が掲げる「ASI時代のプラットフォーマー」という最終目標を実現するための実践的な布石である。

日本におけるAI主権戦略とデータセンター建設の意義

ソフトバンクグループはグローバルなAI戦略を展開する一方で、日本国内における主権的AI能力の確立を強く意識している。これは世界的に進む「データナショナリズム」の潮流に呼応するものであり、日本市場における独自性を高める戦略的な取り組みである。

国産LLM「Sarashina」の開発

子会社のSB Intuitionsを通じて進められている日本語特化型大規模言語モデル「Sarashina」は、国内データに基づき高精度な生成を可能にする。英語圏中心のモデルでは対応が難しい文化的文脈や日本固有の業務シーンに対応することで、教育、行政、医療といった分野での実用性が期待されている。

北海道と大阪のデータセンター建設

国内のAI需要拡大と災害リスク分散を目的に、北海道および大阪に大規模なカーボンニュートラル型データセンターが建設中である。これは単なる計算能力の増強ではなく、エネルギー効率と持続可能性を重視した設計となっている。日本国内での計算インフラ整備は、政府や企業が国外依存を避けるための重要な基盤となる。

医療分野での合弁事業「SB TEMPUS」

米国のTempus社との提携によって、日本の医療データをAIで活用する「SB TEMPUS」が設立された。医療分野は規制と機密性が高く、海外事業者がアクセスするのは困難である。国内合弁事業を通じてデータを安全に活用できる点は、ソフトバンクが独自に確立できる競争優位性といえる。

このように日本に特化したAI戦略は、グローバル戦略と並行して進む二重構造を形成している。国内市場での信頼と主権性を確保することは、SBGが真の「AIインフラ企業」として地位を固めるための不可欠な条件である。

グループ企業への浸透:SBKK・LINEヤフー・PayPayの役割

ソフトバンクグループのAI戦略は、持株会社レベルの構想にとどまらず、主要な事業子会社を通じて実際のサービスに組み込まれている。特にソフトバンク株式会社(SBKK)、LINEヤフー、PayPayの3社は、AI活用の実装現場として重要な役割を果たしている。

ソフトバンク株式会社の取り組み

SBKKは通信事業を超える成長戦略「Beyond Carrier」を掲げ、AIを中核に据えている。宮川潤一社長は生成AI領域でのマーケットリーダーを目指す方針を示し、教育現場向けのAIパーソナルアシスタントなど具体的なサービスを展開している。通信網とデータセンターを持つ同社は、グループ全体のAIサービスを社会に届ける商業化エンジンの役割を担う。

LINEヤフーの全社的なAI導入

LINEヤフーは全従業員約1万1,000人に生成AI活用を義務化し、3年間で業務生産性を2倍にするKPIを掲げている。ChatGPT Enterpriseを全社導入し、検索、EC、広告などの事業に横断的にAIを取り込んでいる点は、国内テック企業として先進的な動きである。

PayPayのデータ活用

7,000万人以上のユーザーを抱えるPayPayは、その膨大な決済データをAIによる金融・マーケティングソリューションに活用している。消費行動データを分析し、ユーザーごとに最適化されたサービスを提供することで、さらなる顧客囲い込みを図っている。

データネットワーク効果の形成

  • LINEヤフー:コミュニケーションや検索データ
  • PayPay:決済データ
  • SBKK:通信と顧客基盤

これらのデータがAIモデルに活用され、精度の高いサービスを生み出す。そのサービスがさらにユーザーを集め、再びデータが増えるという自己強化型の循環が形成される。この「データ・ネットワーク効果」こそがSBGの最大の競争優位性である。

グループ各社がそれぞれの現場でAIを活用することで、孫正義の壮大なビジョンが現実世界で機能し始めている。

競争環境とリスク評価:GAFAMとの軍拡競争に挑むSBG

ソフトバンクグループ(SBG)が進めるAI戦略は、世界の巨大テック企業群との正面衝突を避けられない構造を持っている。Meta、Amazon、Alphabet、MicrosoftといったGAFAMは、2025年だけで3,200億ドル超をAIとデータセンターに投資する計画を打ち出しており、M&A市場でも大型案件が相次いでいる。この圧倒的な資金力に比べれば、SBGの資源は限定的であり、リスクとリターンの集中度は一段と際立つ。

集中投資と分散投資の対比

GAFAMは幅広いAIプロジェクトや買収に投資を分散させ、失敗があってもポートフォリオ全体で吸収できる余地を持つ。一方でSBGは、アームとOpenAIという二大資産に極端に依存する「ハイベータ」戦略を採用している。もしこの組み合わせがAI経済の標準プラットフォームとなれば、リターンは他社を凌駕する可能性がある。しかし、いずれかが失速すれば、戦略全体が瓦解する危険を伴う。

市場における立ち位置

アームは既にスマートフォン分野で99%以上のシェアを握り、サーバー市場でも25%のシェアに拡大している。OpenAIは生成AI市場のリーダーとして位置づけられているが、GoogleのGeminiやAnthropicの進展も無視できない。SBGは「二大基盤」への集中により差別化を図るが、その依存度の高さは同時に脆弱性を生む。

リスクの種類

  • 実行リスク:アームの市場シェア50%目標やスターゲートの不透明性
  • 地政学リスク:米中対立や規制強化の影響
  • 市場リスク:アーム株価依存によるNAV変動

SBGの賭けは、リスクとリターンが極端に集中する点において、GAFAMとは全く異なる性質を持っている。 その成否は数年以内に明確化し、成功すれば世界の産業構造を左右する立場に立つだろう。

専門家の視点から見た今後の展望と課題

SBGのAI戦略は、革新性と危険性が共存する極端な挑戦である。専門家の間では、これを「21世紀最大の企業実験」と評価する声がある一方、過度な集中投資に懸念を示す意見も少なくない。

アナリストの評価

2025年9月時点で、アナリスト17人のうち12人がSBG株を「買い」または「強気買い」と評価し、目標株価は平均14,420円、強気予想では21,000円に達している。一方でS&Pの信用格付けは依然BB+(非投資適格級)にとどまり、株式市場と債券市場の評価に乖離が見られる。市場は成長への期待を織り込みつつも、信用リスクを完全には払拭できていない状況である。

短期的な課題

今後12〜24ヶ月は、以下の実行課題が浮上する。

  • アームがデータセンター市場でシェア拡大を継続できるか
  • スターゲート・プロジェクトの実態と進展が明確になるか
  • OpenAIが競合に対して優位性を維持できるか

これらが停滞すれば、SBGの戦略全体が疑問視される。

長期的な可能性

もしSBGが「双発エンジン」戦略を実行し、アームとOpenAIを軸にASI時代の基盤を押さえることに成功すれば、そのリターンは指数関数的な成長につながる。孫正義の構想は、単なる企業利益を超え、人類の未来そのものを形づくる野心的な試みとして位置づけられる。

SBGは成功すれば世界の覇権企業となり、失敗すれば歴史的な大敗を喫する。 中間の結果が存在しないほど、同社の未来は両極端である。この緊張感こそが、投資家や市場を惹きつけ続けている理由であり、今後の動向から目を離せない。

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