パナソニックホールディングス(以下、パナソニックHD)は、創業から100年を超える歴史を持つ日本産業界の象徴的存在である。その同社が2022年、事業会社制への移行を柱とするホールディングス体制に転換したことは、単なる組織再編ではなく、長年の課題であった「収益性低迷」からの脱却を図る抜本的改革の第一歩であった。
現在のパナソニックHDは、連結売上高8兆円超、従業員20万人を擁し、「くらし」「オートモーティブ」「コネクト」「インダストリー」「エナジー」という5事業会社を中核に据える。この中でグループCEO楠見雄規氏は、創業者・松下幸之助の理念「企業は社会の公器である」を再定義し、経営の羅針盤として位置づけた。
経営戦略の中心は明確である。2028年度までにROE10%以上、営業利益率10%以上を掲げ、構造改革費1,300億円を投じて「筋肉質な企業体質」への転換を断行する。短期的な減益を容認してでも、長期的な収益基盤を築く構えだ。
本稿では、同社の改革の実態を財務データ・事業セグメント別分析・研究開発・競争環境の4つの視点から徹底検証する。東洋経済やダイヤモンドオンライン級の深度で、パナソニックHDが挑む「変革と再生」の全貌を描き出す。
変革期の巨人:ホールディングス体制がもたらした経営の再定義

パナソニックホールディングス(以下、パナソニックHD)は、2022年4月に事業会社制へ移行し、創業以来最大級の経営変革を迎えた。従来の縦割り構造を脱し、独立した意思決定とスピード経営を実現するための「ホールディングス体制」は、単なる組織改革ではない。それは、長年の多角化で複雑化した巨大企業を再び“動ける集団”に戻すための抜本的再設計である。
この再編の核にあるのは、「自主責任経営」という考え方だ。各事業会社が独立採算制のもとで戦略を決定し、成果に責任を負う仕組みを導入した。グループ全体は「くらし」「オートモーティブ」「コネクト」「インダストリー」「エナジー」の5本柱で構成され、それぞれが明確な市場軸を持つ。特にコネクト(BtoBソリューション)とエナジー(EV電池)は、今後の成長ドライバーとして位置づけられている。
経営思想面では、楠見雄規CEOが創業者・松下幸之助の理念「企業は社会の公器である」を再定義した点が注目される。単なる理念の回帰ではなく、ESG経営と企業パーパスの統合を狙う構想である。「利益は社会への貢献の対価である」という考えをベースに、社会課題の解決を通じた持続的成長を実現することが目標だ。
さらに注目すべきは、ガバナンス構造の刷新である。ホールディングス化によって遠心力が強まる中、共通の価値観で全体を統率する「理念ガバナンス」を重視した。グループ横断で共通の経営基準とKPIを設定し、分散しながらも一体性を保つ構造を構築した。これにより、事業間の連携と資本効率の最適化を両立する仕組みが整いつつある。
現在、パナソニックHDは売上高8兆円、従業員20万人を超える巨大企業である。そのスケールを維持しつつ、俊敏な意思決定を実現することは容易ではない。しかし、事業会社制によって現場の裁量を拡大し、経営資源の最適配分を可能にした点は、日本企業の組織変革モデルとしても注目されている。実際、経済産業省が公表した「グループ経営改革事例集(2024)」では、パナソニックHDが“新しい企業統治モデル”の代表例として取り上げられている。
この体制変革こそが、同社が次の100年に向けて再び成長軌道へと乗るための出発点である。
「収益性改善」への不退転の決意と財務健全性の検証
ホールディングス化による組織再編と並行して、パナソニックHDが最重要課題に掲げたのが「収益性の改善」である。長年1倍を下回っていたPBR(株価純資産倍率)の低迷を経営陣は重く受け止め、資本市場からの信頼回復を最優先課題とした。2028年度までにROE10%以上、営業利益率10%以上を達成するという明確な数値目標を打ち出し、3000億円超の収益改善計画を進めている。
この構造改革は、聖域なきコスト見直しを伴う。2025年3月期には1300億円の改革費用を計上し、間接部門の統合・効率化(470億円)、営業・サポート機能の再配置(330億円)、赤字事業からの撤退・拠点統廃合(420億円)を実施。「痛みを伴う改革」こそが、長期的な企業体質改善のための不可欠なプロセスだと楠見CEOは明言する。
以下は、パナソニックHDの主要財務指標の推移である。
決算期 | 売上高(兆円) | 営業利益(億円) | 純利益(億円) | ROE(%) |
---|---|---|---|---|
2023年3月期 | 8.38 | 3,610 | 2,655 | 7.83 |
2024年3月期 | 8.50 | 3,610 | 4,440 | 10.88 |
2025年3月期 | 8.46 | 4,265 | 3,662 | 7.93 |
2026年3月期(予) | 7.80 | 3,700 | 3,100 | 6.50 |
2025年3月期の営業利益は4265億円と前年から18%増加し、**「減収増益」**を達成。これは、インフレ圧力の中でも製品ミックスの改善とコスト合理化が奏功した結果である。一方、純利益は一時的に減少したが、これは法人税調整による一過性要因にすぎない。事業の基礎体力はむしろ強化されている。
第1四半期(2025年度)も減収ながら営業利益869億円を確保し、くらし事業などの収益改善がグループを牽引した。経営陣は「短期の痛みを恐れず、未来への布石を打つ」として、2026年3月期には減収減益予想を敢えて織り込み、改革の完遂を優先する構えを見せる。
この決断の背景には、過去の「売上至上主義」への反省がある。かつては多角化と規模拡大を優先した結果、収益構造が脆弱化した。今後は、「規模ではなく質」への転換、すなわち“稼ぐ力の再構築”こそが最優先テーマとなる。
パナソニックHDのPBRは依然0.7倍前後と低水準だが、構造改革と資本効率改善が進めば、市場の評価は変わるだろう。創業100年を超える老舗が、「収益を生まない巨体」から「利益で社会を動かす企業体」へと進化できるか。いま、その成否が問われている。
くらし事業の再構築:国内ブランド力と欧州市場での苦闘

パナソニックHDの中核である「くらし事業」は、売上高3兆5,842億円(2025年3月期)を誇るグループ最大の収益基盤である。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの白物家電に加え、住宅設備や建材を網羅し、国内外で「暮らし」を支える総合事業体として位置づけられている。
国内市場では依然としてブランド力が強く、NTTコム オンラインの2024年NPS調査では、主要白物家電メーカーの中で推奨度が最も高いとされた。特に「機能性」「耐久性」「安全性」といった品質面での信頼性が高く、長年にわたるブランド価値の積み上げが顧客ロイヤルティを支えている。
パナソニックは、価格競争から脱却するため、業界に先駆けて「指定価格制度」を導入した。この制度では、販売店が値引きで競争するのではなく、製品価値に見合った価格を維持する仕組みを構築している。2024年度には対象製品の販売金額比率を41%にまで高める計画を掲げており、価格主導型から価値主導型への転換が進みつつある。
一方で、グローバル展開では厳しい現実が待ち受ける。特に欧州市場で注力してきたヒートポンプ式給湯暖房機(A2W)事業は、ウクライナ情勢に起因したガス価格高騰が一服し、各国の補助金政策が縮小する中で需要が急減速した。パナソニックはチェコ工場に150億円を追加投資し生産体制を強化してきたが、市場環境の変化により「投資回収の再設計」を迫られている。
欧州市場の動向を見れば、エネルギー転換を背景にヒートポンプ需要は長期的には拡大が予想されるものの、補助金依存型の成長モデルは限界を迎えている。パナソニックはこの局面で、技術優位を活かした高効率モデルへのシフトと、サービスビジネスとの融合による新たな価値創出を急いでいる。
加えて、国内では住宅建材・設備事業において脱炭素住宅ニーズを捉えた「ZEH向けソリューション」開発を加速。家庭用蓄電池、太陽光発電、AI制御エアコンを組み合わせた「スマートホーム統合システム」の展開が始まっている。これらは、同社の脱炭素戦略「Panasonic GREEN IMPACT」とも連動し、生活者目線の環境価値を経済価値へ転換する重要な実証実験となる。
総じて、くらし事業は「守り」と「攻め」の両面で再構築期にある。国内市場ではブランド価値を基盤に安定収益を確保しつつ、海外では環境エネルギー事業を軸とした構造転換が求められている。グローバル家電市場での競争激化の中、“暮らしを科学する企業”として、単なるモノづくりを超えたライフソリューション企業への進化が試されている。
コネクト事業の挑戦:「モノ売り」から「コト売り」への転換
パナソニックHDの変革の象徴とも言えるのが、BtoB領域を担う「コネクト事業」である。従来のハードウェア中心のビジネスから脱却し、ソフトウェアとデータを活用したソリューション提供へと軸足を移している。「モノを売る会社」から「顧客の課題を解決する会社」への変革こそ、この事業の本質である。
その中心に位置するのが、2021年に約8,000億円で買収した米サプライチェーン最適化ソフトウェア大手「Blue Yonder」である。Blue Yonderは、AIと機械学習を活用した需要予測・在庫最適化ソリューションを持ち、世界3,300社以上の顧客を抱える。同社のプラットフォームと、パナソニックが強みとするCPS(Cyber Physical System)技術を融合させた「Autonomous SCM(自律的サプライチェーン)」が、次世代成長の柱とされている。
この仕組みでは、センサーやカメラからリアルタイムに取得した現場データをクラウド上で解析し、需要変動に応じて自動で生産・物流を最適化する。実際にJFEスチールや富士通クライアントコンピューティングなど国内大手でも導入が進み、在庫回転率や納期遵守率が顕著に改善している。Blue Yonder買収は単なるM&Aではなく、パナソニックが「データドリブン企業」へと変貌するための構造改革そのものである。
また、航空機内エンターテインメント(IFE)事業を手がけるパナソニック アビオニクスは、JALのA350-1000型機をはじめ、エア・カナダやシンガポール航空など世界主要航空会社と提携。4K有機ELディスプレイと高速通信技術を融合した新型システム「Astrova」は、世界最高水準の機内体験を提供するテクノロジーとして国際的に高く評価されている。
さらに国内では、国立競技場、甲子園球場、ノエビアスタジアム神戸などに大型映像・音響システムを導入し、スタジアムのDXを支える。これらの事例に共通するのは、単なる機器販売ではなく「体験の設計」を軸にしたビジネスモデルへの転換である。
主な導入事例 | 分野 | 成果 |
---|---|---|
JFEスチール | サプライチェーン最適化 | 納期短縮・在庫削減 |
日本航空(JAL) | IFEシステム | 顧客満足度・ブランド価値向上 |
国立競技場 | スタジアムソリューション | イベント収益性と安全性の両立 |
今後、コネクト事業の鍵を握るのは「Blue Yonderとの真の融合」である。ソフトウェアの知見と現場のハードウェア技術を組み合わせ、業種横断型のプラットフォームビジネスへ発展できるかが問われる。
パナソニックHDの改革は、家電メーカーの枠を超え、「現場(Gemba)をつなぐDX企業」への進化を象徴している。
エナジー事業の賭け:車載電池4680が握る未来の命運

パナソニックHDのエナジー事業は、グループの中で最も投資規模が大きく、成長期待も高い中核セグメントである。特に電気自動車(EV)向け車載電池分野は、脱炭素化社会の中で世界的に急拡大しており、同社の将来を左右する「最大の賭け」となっている。
現在、同事業の戦略の中心は、北米市場への集中的な投資である。パナソニックエナジーは既にテスラと共同でネバダ州に「ギガファクトリー」を運営しているが、これに加えてカンザス州デソトに約40億ドル(約6,000億円)を投じて第2工場を建設。2025年7月には量産を開始した。新工場の年間生産能力は約32GWhとされ、これは数十万台分のEVに搭載できる規模であり、北米での供給体制を飛躍的に強化するものとなる。
同工場では、次世代リチウムイオン電池「4680」型セルを量産する。この新型電池は従来品に比べてエネルギー密度が高く、コスト効率にも優れる。主力顧客であるテスラの次世代EVへの搭載が予定されており、パナソニックにとって収益構造を大きく変える可能性を秘めている。さらに、和歌山工場でも同型セルの生産計画が進行中であり、ネバダ工場のノウハウを活用することで生産性を20〜35%向上させる戦略が採られている。
世界市場シェアを見ても、2024年時点でパナソニックは3.92%で第6位。中国のCATL(37.9%)やBYD(17.1%)が市場を席巻する中、欧米市場では「非中国サプライヤー」としての信頼を背景に、日米連携体制を強化している。特に米国ではIRA(インフレ抑制法)によるEV電池サプライチェーン支援を追い風に、国産化の恩恵を最大限享受できる立場にある。
パナソニックの課題は、競争が激化する電池業界でコスト競争力を維持しながら品質と安全性を両立させる点である。全固体電池など次世代技術への移行も視野に入れつつ、テスラ以外の自動車メーカーとの新規契約拡大が中期的課題となる。経営陣は、「4680の成功なくしてエナジー事業の未来なし」と明言しており、この投資が成功すれば、パナソニックHD全体の収益構造は劇的に変わるだろう。巨額投資をリスクではなく機会へ転化できるかが、次の10年を決定づける。
研究開発とサステナビリティ:技術と理念が融合する長期戦略
エナジー事業の成否を支える基盤として、パナソニックHDは研究開発とサステナビリティを車の両輪と位置づけている。短期的な利益追求ではなく、10年後・20年後を見据えた持続可能な成長構造を築くことが目的である。
研究開発の中心テーマは「Mobility」「Home」「Business」の3領域における社会課題解決である。特に注力するのが脱炭素社会の実現に不可欠な技術であり、以下のような成果がすでに現れている。
研究テーマ | 技術内容 | 社会的意義 |
---|---|---|
ペロブスカイト太陽電池 | インクジェット塗布技術により変換効率18.1%を達成 | 都市部建物への設置が容易で再エネ普及に貢献 |
グリーン水素製造デバイス | 貴金属触媒を使用しない低コスト水電解技術 | 水素社会実現に向けたコスト削減 |
全固体電池 | ハロゲン化物系電解質を採用 | 安全性・充電速度・寿命を同時に改善 |
これらの研究開発は、単なる製品技術ではなく、サステナビリティ経営の実践として位置づけられている。創業者・松下幸之助の理念「物と心が共に豊かな理想社会の実現」を継承し、企業活動そのものを通じて社会課題を解決するという姿勢である。
同社は長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、2050年までに自社CO₂排出量実質ゼロ(OWN IMPACT)を目指すだけでなく、製品・技術による社会全体のCO₂削減貢献量(CONTRIBUTION IMPACT, FUTURE IMPACT)で3億トン以上の削減インパクト創出を目標に据えている。さらに、科学的根拠に基づく削減目標としてSBTi(Science Based Targets initiative)から「ネットゼロ」認定を取得するなど、国際的評価も高い。
これらの取り組みは研究開発と密接に結びついており、ペロブスカイト太陽電池やグリーン水素は「FUTURE IMPACT」実現のための中核技術とされる。すなわち、社会貢献と事業成長を一体化させた「技術経営モデル」である。
**パナソニックHDは“社会課題起点の研究開発”を戦略の中心に据え、理念を利益へと転化する独自の企業哲学を体現している。**それは単なる技術革新ではなく、次の100年を見据えた「人と地球の共生企業」への進化そのものである。
国内外競合との比較:ソニー・日立との対照から見える独自性

パナソニックHDの経営構造を理解するうえで、ソニーグループおよび日立製作所との比較は避けて通れない。三社はいずれも日本を代表する総合電機メーカーとして発展してきたが、その事業ポートフォリオの方向性と企業価値創造モデルは大きく異なる。
まずソニーグループは、エレクトロニクス企業から「コンテンツとデバイスの融合企業」へと進化した。PlayStationを中心としたゲーム&ネットワーク事業、音楽・映画などのエンターテインメント事業、さらにスマートフォン向けCMOSイメージセンサーが収益の柱である。**2024年度の営業利益の約8割を非ハードウェア領域が占めており、知的財産とプラットフォーム支配力で稼ぐ構造を確立している。**一方で、伝統的なテレビやオーディオなどの家電事業はグループ全体の1割に満たない。
日立製作所は「社会インフラ×デジタル」で独自の進化を遂げた。鉄道・送配電・産業設備などの重厚長大型事業に加え、DXソリューション「Lumada」を軸にしたデータサービス事業が急成長している。2024年度にはITセグメントの営業利益が全体の55%を超え、かつての“総合電機”から“社会課題解決型プラットフォーム企業”へと完全に転換した。
これに対し、パナソニックHDは依然として「くらし事業」という強力なBtoC基盤を保持しつつ、エナジー(車載電池)やコネクト(サプライチェーンDX)などBtoB領域への投資を急速に拡大している点が特徴である。三社比較では、最も事業バランスが取れているが、それは同時に“変革の途上”を意味する。
企業名 | 主力事業 | 成長ドライバー | 特徴的強み |
---|---|---|---|
ソニーグループ | ゲーム・音楽・半導体 | コンテンツ収益、プラットフォーム戦略 | 無形資産による高収益モデル |
日立製作所 | インフラ・DXサービス | Lumada・社会インフラ | デジタル×リアルの融合 |
パナソニックHD | 家電・車載電池・コネクト | EV電池、SCMソリューション | BtoCとBtoBのハイブリッド構造 |
また、ガバナンスの方向性にも違いがある。ソニーがクリエイティブ経営、日立がポートフォリオ経営を深化させる中で、パナソニックHDは「理念経営×自主責任経営」を掲げ、社会性と収益性の両立を重視する。これは創業者・松下幸之助の哲学を現代的に再解釈したものであり、他の電機大手には見られない文化的強みと言える。3社の中で最も“思想的”な経営を貫いている点が、パナソニックHDの独自性である。
パナソニックHDの成否を左右する三つの条件
ホールディングス体制への移行から3年、パナソニックHDの未来は大きな分岐点にある。経営陣が掲げる長期ビジョンを実現するためには、以下の「三つの条件」をいかに満たすかが鍵を握る。
- グローバル事業の競争力強化
エナジー事業においては、世界市場でのシェア拡大が最重要課題である。2024年時点でパナソニックのEV用電池シェアは3.92%で6位。中国のCATL(37.9%)やBYD(17.1%)が圧倒的優位を占める中、**日米二軸による供給体制確立が生き残りの条件となる。**北米のカンザス工場が稼働を開始した今、品質・供給安定性・コスト最適化の三拍子を揃えることが、再浮上のカギとなる。 - 「くらし」事業の収益再生とブランド維持
国内市場では依然として高いブランドロイヤルティを持つが、家電のグローバル競争ではサムスンやLGが急伸している。特に米国ではサムスンが21%の市場シェアを握り、パナソニックは後塵を拝している現状がある。今後は高付加価値家電やスマートホームソリューションを中心に、プレミアムゾーンでの差別化戦略をどこまで徹底できるかが問われる。 - 理念と利益の両立を支える人材・組織改革
事業会社制による分権型経営の中で、各社が独立採算を追うと同時に、「理念ガバナンス」で全体を統率する必要がある。経営層は短期利益に偏らず、サステナビリティ・イノベーション・社会価値の3軸でリーダーシップを発揮しなければならない。人材面では、グローバル×テクノロジー×理念の融合を担う“越境型経営人材”の育成が急務である。
この三条件は、単なるチェックリストではない。どれか一つが欠けても、構造改革の果実は得られない。ソニーのような知的資産経営でもなく、日立のような社会システム志向でもない。「生活者と社会をつなぐ技術企業」としての新しい姿を体現できるか――それこそが、パナソニックHDの未来を決する分水嶺である。