第一生命ホールディングスは、国内市場の限界を突破し、真のグローバル金融グループへの進化を遂げようとしている。低金利時代の終焉と、少子高齢化による保険需要の減退という構造的課題を背景に、同社は資本効率の徹底追求と海外事業拡大を二本柱とする戦略転換を加速させている。

2024〜2026年度の中期経営計画では、「グループ修正利益」を基軸とする独自KPIを設定し、配当性向を45%以上へと引き上げる方針を明示。さらに、上限1,000億円規模の自己株式取得・消却を実施するなど、株主還元姿勢を明確化した。この強気の資本戦略は、ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)212%という高水準の健全性を維持しつつ、資本市場に強いシグナルを送っている。

同時に、インド・欧州・北米・オセアニアを戦略的重点地域に据え、海外事業を修正利益成長の主軸へと位置づける。加えて、AIを活用した引受査定やデジタル顧客接点の高度化、人的資本経営による多様性推進など、非財務領域でも改革を進めている。第一生命HDは今、金融業界の構造変化を先導する存在として、資本効率と成長性の両立という難題に挑んでいる。

資本効率の最大化に向けた中期経営戦略の骨格

第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)は、低成長・低金利時代を背景に、従来型の国内中心モデルから脱却し、資本効率と成長性の両立を掲げた抜本的な構造改革を進めている。2024〜2026年度中期経営計画の中核に据えられたのは、「資本効率の最大化」と「グローバル成長の加速」という二本柱である。

第一生命HDの経営方針は、単なる利益拡大ではなく、経済価値ベースでの企業価値向上を目指す「グループ修正利益」を指標とした新たな資本規律へ転換した点に特徴がある。この修正利益をベースに、配当性向を従来の40%から45%以上に引き上げ、さらに2025年度には上限1,000億円規模の自己株式取得と消却を実施する計画である。これにより、一株当たり利益(EPS)の向上を通じて、PBR(株価純資産倍率)の改善を狙う明確な意図がある。

さらに注目すべきは、第一生命HDが掲げる「資本の使い方の質の改革」である。単に資本を積み上げるのではなく、投下資本利益率(ROIC)や資本コストを踏まえた効率的な配分を徹底する。国内事業が生み出す安定的キャッシュフローを、海外事業への投資と株主還元の両面で最適に配分する構造へと転換している。

以下は、資本戦略の概要である。

項目内容目的・意義
配当性向毎期45%以上(従来40%)株主リターン重視の明確化
自己株式取得2025年度上限1,000億円EPS向上と資本構造最適化
ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)新基準212%国際基準(ICS)への備え
ROE/ROIC継続開示と改善目標設定資本効率経営の実現

このような施策は、国内大手生保の中でも極めて積極的な資本政策である。日本銀行による金利正常化に伴い、運用環境が改善する中で、第一生命HDは過去の「守りの資本政策」から「攻めの資本効率経営」へと舵を切った。市場はこの転換を好感しており、2025年10月時点のアナリスト評価では「買い」が過半数を占め、平均目標株価は1,356円と現株価比で約19%の上昇余地を見込んでいる。

第一生命HDの資本政策は、単なる株主への利益還元策ではない。ESR212%という高い財務健全性を維持しながら、資本を積極的に循環させることで「リスク管理と成長投資の両立」を図る。結果として、同社は生保業界における資本効率経営の先導的存在となりつつある。

グループ修正利益を軸としたKPI改革と株主重視経営

第一生命HDの中期経営計画の根幹には、「グループ修正利益」という独自のKPIを軸に据えた新たな経営モデルがある。これは、会計基準上の一時的な要因を排除し、経済実態をより正確に反映させる利益指標であり、資本効率と収益の質を同時に可視化できる仕組みである。

この指標の導入背景には、国際的な会計基準であるIFRS第17号や保険資本基準(ICS)への対応がある。これらの制度により、保険会社の財務評価は「経済価値ベース」へと移行しており、従来の法定会計上の利益では企業価値を十分に測れなくなっている。第一生命HDはこの変化を先取りし、修正利益を配当原資の基準とすることで、株主還元の透明性と持続性を両立させた。

修正利益を基準にした経営では、以下のような効果が生じる。

  • 短期的な市場変動に左右されにくい安定的な利益計測が可能
  • グループ全体の事業ポートフォリオを経済価値で統一的に評価
  • 配当や自己株式取得などの資本政策を合理的に設計できる

加えて、ROEやROICなど国際的な資本効率指標の導入により、資本配分の最適化が進んでいる。特に海外事業の評価においては、地域別ROICを用いて投資効率を定量的に比較・管理する仕組みが構築されている。

また、株主重視の姿勢を明確に示すため、第一生命HDは2024年度から中間配当を原則実施とした。これにより、投資家は年2回のキャッシュリターンを得られるようになり、長期保有のインセンティブが高まる。

経営陣はこのKPI改革を通じて、「稼ぐ力」と「資本の規律」を両立させる新たなガバナンスモデルを確立したと強調する。特に、グローバルリーダーズ・コミッティ(GLC)による海外子会社との統合的な経営管理を強化し、修正利益の拡大を全社レベルで推進している。

この構造的転換により、第一生命HDは、財務・非財務の両側面で透明性と再現性の高い経営モデルを確立した。修正利益を軸としたKPI経営は、短期の収益変動に一喜一憂しない、持続的な企業価値創造のための基盤として定着しつつある。

海外事業の拡大戦略:インド・欧州・北米・オセアニアの4極体制

第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)は、国内市場の成熟を背景に、海外事業を収益成長の柱として明確に位置づけている。その戦略的焦点は、インド、欧州、北米、オセアニアの4地域に集約されており、それぞれ異なる市場特性に合わせた多層的な戦略を展開している。

まずインド市場では、高い経済成長率と保険普及率の低さを背景に、潜在的な保険需要が拡大している。第一生命HDは現地パートナーとの合弁を通じて市場に浸透し、デジタル販売チャネルを活用したスケール拡大を図っている。特に都市部の中間所得層を中心に、保障型保険商品の販売が急伸しており、今後5年間で修正利益が倍増する見通しが示されている。

欧州では、Solvency IIと呼ばれる厳格な資本規制のもと、年金および長期貯蓄市場における安定収益の確保を狙う。英国を中心とした長期資産運用ビジネスでは、金利上昇を背景に利回り改善の追い風を受けており、第一生命HDの資本効率向上に寄与している。

北米市場では、既存の保護型商品に加え、M&Aを通じた戦略的拡大を進めている。近年では、再保険や年金関連領域における提携強化が進み、収益基盤の多様化を実現している。為替リスクを考慮しつつも、ドル建て資産の安定運用を通じて、グループ全体のポートフォリオ分散効果を高めている。

オセアニア地域は、既存の事業基盤を活かした安定収益源である。特にオーストラリア市場では、医療保険と年金商品を中心に長期的な顧客関係を築き、顧客ロイヤルティの高い市場としてグループ全体のキャッシュフロー安定化に寄与している。

地域戦略の柱成長ドライバー
インド現地パートナーとの協業、デジタル販売保険普及率の低さと経済成長
欧州長期貯蓄・年金事業の拡大金利正常化による利回り改善
北米M&Aと再保険市場参入高利益率市場での収益多様化
オセアニア既存基盤の拡充と安定化安定収益と顧客維持率の高さ

この4極体制は、単なる地域分散ではなく、リスクの多層化と成長機会の最適配分を目的とした戦略的設計である。国内が「安定的キャッシュ創出」の役割を担う一方、海外は「高成長による価値創出」のエンジンとして機能している。これにより、第一生命HDは金利・人口動態・規制環境といったリスクを地理的に分散させながら、企業価値を持続的に拡大する基盤を構築している。

グローバル・ガバナンス強化とPMIリスクの最小化

海外展開の成功を支える鍵は、戦略実行力とガバナンスの一体化である。第一生命HDは、2024年度よりグローバル・リーダーズ・コミッティ(GLC)の体制を刷新し、海外子会社のCEOに加え、本社役員を正式メンバーに組み入れた。これにより、情報共有機関から戦略決定機関へと進化させた点が特筆に値する。

従来の体制では、地域ごとの経営判断が独立的に行われ、全社的な資本効率最適化やリスク評価との連携が十分でなかった。新体制では、各国CEOの現地知見と本社の戦略部門・リスク管理部門が統合的に意思決定を行い、「グループ全体最適」に基づく資本配分を実現している。特に、M&A後の統合(PMI: Post Merger Integration)におけるリスクを最小化するため、買収先企業の経営データやリスク情報を本社とリアルタイムで共有する仕組みを導入している。

この構造変革は、単に統制を強化するものではなく、地域特性を尊重しつつ「自律と統合の両立」を図る点に特徴がある。欧州では現地経営陣の裁量を維持しつつ、財務・リスクの監督を本社が担うハイブリッド型管理が定着している。一方でインドや北米では、成長市場特有のスピード感を重視し、迅速な意思決定を支える柔軟な枠組みを構築している。

さらに、グローバル人材マネジメントの観点でも、GLCを軸に人材流動を促進している。海外現地経営者の日本本社派遣や、日本人管理職の海外駐在強化を通じ、経営視座のグローバル化を実現している。これにより、単なる「現地統括」から「世界統合経営」への進化が加速している。

改革項目内容効果
GLC体制の拡充本社役員と海外CEOによる統合会議体資本配分・戦略決定の迅速化
PMI管理の高度化統合データ共有とリスク監視の自動化買収後の収益安定化
グローバル人材育成双方向の人材交流と登用経営層の多様性・実行力強化

この新ガバナンス体制は、第一生命HDが海外事業で「規模の拡大」と「質の向上」を両立させるための制度的基盤である。M&A後のリスクを抑え、グローバル経営を持続的に強化するこのモデルは、国内生保業界においても先進的な事例として注目されている。

デジタルトランスフォーメーションと生産性改革の進展

第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を単なる業務効率化の手段としてではなく、**「企業価値を高める経営変革の中核」**として位置づけている。国内外の生命保険業界が構造転換を迫られる中、同社はAI・データ活用・自動化を中心とするDX戦略を通じて、保険引受から顧客接点、リスク管理まで全方位でのデジタル改革を進めている。

AIによる業務自動化とアンダーライティング改革

特に注目されるのが、AIを活用したアンダーライティング(保険引受査定)領域での革新である。従来、人手と経験に依存していた査定プロセスを、AIによる自動審査・リスクスコアリングへと移行し、処理時間を平均で約30%短縮した。さらにAIの機械学習により、過去の契約データや疾病発生率を分析することで、リスク判定の精度が継続的に向上している。

AI導入の成果は次の通りである。

項目改善前改善後効果
引受処理時間約60分約40分生産性30%向上
誤査定率1.2%0.5%精度60%改善
顧客満足度(CS調査)75%89%顧客信頼の向上

この変革は単なるシステム導入ではなく、AIが人的判断を補完し、社員がより高度なリスク分析・顧客対応に集中できるようにする「人×デジタル」の融合型改革である。

データドリブン経営と顧客体験の変革

顧客接点の領域でも、第一生命HDはデータドリブン経営への転換を進めている。営業職員が扱う顧客データを統合プラットフォームで一元管理し、AIが契約更新やライフイベント発生時の最適提案を自動生成する仕組みを構築。これにより、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズ提案が可能となり、成約率が従来比で15%上昇した。

また、アプリやオンライン面談を通じた非対面チャネルの拡充により、デジタルネイティブ層へのリーチを拡大。2024年度上期には、契約者のうち約42%がオンライン経由での相談・契約を実施しており、顧客接点のデジタル化が着実に進展している。

DXの本質は「人材改革」と「リスク管理の高度化」

第一生命HDのDXの本質は、技術導入ではなく組織文化の変革にある。社員のデジタルリテラシー向上を目的とし、社内に「DXアカデミー」を設置。データ分析・AI応用・自動化プロジェクト管理などを体系的に学ぶ環境を整備し、2024年度末までに全社員の約8割が何らかのDXスキル認定を取得している。

また、リスク管理においてもAIが活用されている。市場リスクや信用リスクをリアルタイムで監視し、異常値を自動検知する「AIリスクモニタリングシステム」を導入。特に金利変動リスクの感応度分析により、ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)維持を支える高度なガバナンスを確立した。

DXを通じて、第一生命HDは単なる生保会社から「デジタル金融サービス企業」への進化を遂げつつある。国内生保業界におけるデジタル活用の先導者として、今後も業界の変革を牽引する立場にある。

人的資本経営と多様性戦略:「1 for 1」モデルの意義

第一生命HDが掲げる人的資本経営の中核には、「1 for 1」という新しい理念がある。これは、**「自分のキャリアは自分で築く」**という考え方を軸に、社員一人ひとりの成長意欲と多様性を企業力に変えるモデルである。年功序列やプロパー重視の旧来型組織を超え、能力・成果・挑戦を重視する人材マネジメントへの転換を進めている。

年功序列から自律型人材へ

第一生命HDの人的資本改革は、長期的な組織文化の転換を伴う。従来の「Before」モデルでは、プロパー社員とキャリア採用社員の間に明確な区分があり、昇進・評価に偏りが生じていた。しかし「After」モデルでは、スキルや成果に応じて柔軟に処遇が決まる「処遇キャラクター制」を導入。一般職・マネジメント・プロフェッショナル・エグゼクティブの4カテゴリーに分け、キャリアの多様な選択を可能にした。

この仕組みは、専門性を追求する社員とマネジメント志向の社員が共存できる構造を生み出し、結果として離職率の低下とエンゲージメント向上につながっている。2024年度の社内調査では、キャリア満足度が前年比で18%上昇し、自己成長を実感する社員が全体の72%を占めた。

指標Before(2022年度)After(2024年度)変化
年次有給取得率65%66%働き方の柔軟化
キャリア満足度54%72%自律的成長意識の向上
離職率7.2%5.9%人材定着率の改善

ダイバーシティ推進と人的資本の国際化

人的資本経営は、国内の生産性向上だけでなく、グローバル展開を支える基盤でもある。海外拠点では、文化・言語・制度の異なる人材を統合する必要があるため、多様性の尊重が不可欠となる。第一生命HDは、女性管理職比率の向上や外国籍人材の登用を進め、2025年度までに女性管理職比率30%を目標に掲げている。

また、海外子会社と日本本社間の人材交流を活性化し、現地経営者をグローバル・リーダーズ・コミッティ(GLC)に参画させることで、戦略決定に多様な視点を取り入れている。この双方向の人材交流は、文化的摩擦を減らし、海外事業のPMI(統合プロセス)を円滑に進めるうえで大きな役割を果たしている。

人的資本の可視化と投資家評価の高まり

第一生命HDは2024年、「人的資本レポート2024『多様性を、力に変える』」を発行し、人的資本経営のKPIを外部に開示した。これは、非財務情報開示の透明性を高めると同時に、投資家の信頼を獲得する狙いがある。実際、国内外の機関投資家からは、人的資本開示がESG評価の向上につながり、資本コスト低下要因として評価されている。

人的資本経営の成熟は、第一生命HDが「人をコストではなく投資」と捉える段階へ到達したことを意味する。多様性と自律性を基盤とした人材戦略こそ、資本効率経営と並ぶ次世代成長のエンジンである。

責任投資(RI)とESG経営の深化:脱炭素社会への適応

第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)は、機関投資家としての社会的責任を明確に位置づけ、サステナビリティと責任投資(RI)を経営の中核戦略に統合している。特にグループ会社である第一フロンティア生命が2024年4月に制定した「責任投資基本方針」は、同社の持続可能経営を象徴する重要な政策である。

日本版スチュワードシップ・コードとエンゲージメント戦略

第一生命HDは、この責任投資方針の中で「日本版スチュワードシップ・コード」の受け入れを正式に表明している。これにより、投資先企業と建設的な対話(エンゲージメント)を通じた企業価値向上の支援を行う姿勢を明確化した。単に株式保有による配当収益を追うのではなく、長期的な経営改善・ガバナンス強化を目的としたアクティブオーナーシップを実践している。

特に注目すべきは、エンゲージメント活動がESG課題にまで踏み込んでいる点である。脱炭素経営や人的資本開示、取締役会の多様性確保といったテーマを中心に、投資先企業の経営方針に対する提言を強化。国内外で年間300社を超える対話を実施しており、これは日本の生命保険会社としては最大規模に位置づけられる。

TCFD対応とポートフォリオのグリーン化

第一生命HDは、気候変動リスクを定量的に把握するため、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づいた情報開示を推進している。特に、運用資産ポートフォリオのカーボンフットプリントを分析し、2030年までに温室効果ガス排出量を2019年度比で50%削減する目標を掲げている。

同社は「ESGインテグレーション(統合運用)」を重視し、環境リスクを加味した投資評価モデルを構築。再生可能エネルギー関連債券やグリーンボンドへの投資残高は年率15%のペースで拡大しており、2025年度には2兆円規模に達する見込みである。

また、ESG格付機関からの評価も向上している。2025年時点でMSCI ESG Ratingでは「AA」を維持しており、国際的にも責任投資のリーディングカンパニーとしての地位を確立した。

責任投資を通じた長期的企業価値の向上

第一生命HDが重視するのは、ESG投資を**「リスクヘッジ」ではなく「成長戦略」**として活用する点にある。気候変動への対応や社会的課題の解決に資する企業への投資は、中長期的に高い収益安定性を生むと位置づけられている。

この考え方は、欧州の年金基金や機関投資家の潮流とも一致しており、国内金融セクターにおけるサステナブル・ファイナンスの推進役としての役割が強まっている。ESGの本質を「価値共創」と捉えた第一生命HDのRI戦略は、単なる投資方針を超え、グローバルな社会的インパクト創出の一翼を担っている。

市場評価と株主還元政策:配当性向45%超の衝撃

第一生命HDが掲げる積極的な株主還元戦略は、市場から極めて高い注目を集めている。特に2025年度から配当性向を「毎期45%以上」へと引き上げる方針を発表したことは、日本の大手生保の中でも際立つ決断であり、資本市場に対する強力なメッセージとなった。

市場の反応とアナリスト評価

2025年10月時点の証券アナリスト11名のコンセンサスでは、「強気買い」4名、「買い」2名を合わせた過半数(54.6%)が強気評価を示しており、平均目標株価は1,356円、現株価比で約19.5%の上昇余地が見込まれている。この背景には、株主還元策の継続的実施と海外事業の利益成長による修正利益拡大への期待がある。

指標2024年度2025年度計画ポイント
配当性向(対修正利益)40%45%以上生保業界最高水準
自己株式取得検討段階上限1,000億円実施予定EPS・PBR改善効果
ESR(新基準)212%安定維持財務健全性を確保

アナリストの中には、「株主重視経営の象徴的転換」「ROE改善への明確なシグナル」と評価する声も多く、特に外国人投資家の買い戻しが加速している。

資本政策の変革と投資家心理への影響

第一生命HDの株主還元戦略の本質は、「稼ぐ力」と「資本の規律」の両立にある。自己株式の消却を伴う大規模還元策は、一過性の株価対策ではなく、EPSの恒常的な改善を通じたPBR上昇の実現を狙うものである。ESR212%という高水準を維持しながらも、余剰資本を積極的に市場に還元することで、資本効率経営の姿勢を明確に示している。

また、2024年度から導入された中間配当制度は、株主にとって安定的なキャッシュリターンを可能にし、長期保有のインセンティブを強化した。これにより、同社の株主構成において機関投資家比率が上昇し、株価のボラティリティが低下するという好循環が生まれている。

生保業界における新たな資本還元モデル

日本の生命保険業界は、長年「内部留保重視」の保守的経営が主流であった。第一生命HDがこの慣行を打破し、資本市場との対話を重視した経営へと舵を切った意義は大きい。

この変化は、単なる配当方針の見直しに留まらず、企業と投資家が共に価値を創造する新たな経営モデルの確立を意味する。今後の市場評価は、海外事業の修正利益成長と資本還元の持続性に左右されるが、現段階で第一生命HDは「資本効率経営の成功例」として国内外の投資家から高く評価されている。

第一生命HDの成長シナリオとリスク分析

第一生命ホールディングス(以下、第一生命HD)の今後の成長シナリオは、海外事業の統合効果と資本効率経営の深化によって企業価値を最大化する戦略に集約される。一方で、金利変動・為替リスク・地政学要因といった不確実性も抱えており、「成長とリスク管理の両立」こそが中期経営計画の核心である。

海外事業統合による収益加速シナリオ

第一生命HDが想定する最も実現可能性の高い成長シナリオは、海外事業におけるM&A後の統合(PMI)が計画通りに進行し、優先地域(インド、欧州、北米、オセアニア)からの修正利益が大幅に拡大するケースである。この場合、グループ修正利益の上振れにより、配当性向45%以上および1,000億円規模の自己株式取得・消却が持続的に実施される。

これにより、投資家からの市場評価がさらに高まり、株価の再評価(リレーティング)が進む見通しである。国内事業が安定的なキャッシュフローを生み出す一方で、海外事業が高い成長率を維持することで、収益の「安定性」と「成長性」を同時に確保できる構造が形成される。

加えて、ROE・ROICなどの資本効率指標を経営指標の中心に据えることで、各地域の投資判断がより定量的に最適化される。この資本配分の高度化が、グループ全体の利益の質を向上させ、ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)を安定的に維持しながらも、より積極的な成長投資を可能にする。

主要リスクシナリオと対応戦略

一方で、第一生命HDは複数の戦略的リスクを明確に認識している。最大のリスクは、急激な金利上昇や為替変動である。特に金利上昇は運用益の増加要因となる反面、新基準ESRにおいて市場関連リスクが拡大し、資本要件の増加を通じて財務の柔軟性を圧迫する可能性がある。

また、海外事業の収益は現地通貨で計上されるため、急激な円高がグループ修正利益を目減りさせ、配当原資に影響するリスクも存在する。これに対応するため、第一生命HDは為替ヘッジポリシーの最適化を進めるとともに、ドル・ユーロ・豪ドル建て資産のポートフォリオを分散管理している。

さらに、地政学的リスクも無視できない。特に欧州・アジア市場では政治的緊張や規制変化の影響を受けやすく、投資環境の不確実性が残る。このため、同社はGLC(グローバル・リーダーズ・コミッティ)を通じ、各地域の経営陣と本社がリスクデータをリアルタイムで共有し、リスク感応度分析を継続的に実施している。

リスク要因影響内容対応策
金利リスクESR上昇・資本拘束ALM管理強化とリスク分散
為替リスク円高による利益圧迫通貨分散・ヘッジ戦略の最適化
地政学リスク市場環境の不安定化グローバルリスクモニタリング
統合リスク(PMI)買収効果の遅延経営情報のリアルタイム統合

専門家の分析では、これらのリスクを踏まえつつも、第一生命HDの海外事業のROIC管理と人的資本の定着率向上が成功すれば、資本効率経営のモデルケースになる可能性が高いと指摘されている。

つまり、第一生命HDの成長の鍵は「資本を稼ぐ力」と「リスクを制御する力」をいかに両立させるかにある。安定した国内基盤と積極的な海外展開を両輪とする同社の次世代経営モデルは、生命保険業界の構造転換を象徴する存在となりつつある。

Reinforz Insight
ニュースレター登録フォーム

ビジネスパーソン必読。ビジネスからテクノロジーまで最先端の"面白い"情報やインサイトをお届け。詳しくはこちら

プライバシーポリシーに同意のうえ