野村ホールディングスは、国内金融業界の中でも最も早く構造改革の成果を具体的な数字で示した企業である。2023年に始動した中期経営計画の主要KGI(税前純利益・ストック収益カバレッジ率など)は、2025年の計画終了を待たずに前倒しで達成された。背景には、ウェルス・マネジメント(WM)部門の抜本的な再構築と、対面とデジタルを融合させたハイブリッド型のサービス提供モデルの確立がある。特に、ストック型ビジネスへの転換が進み、ストック資産残高は23兆円を超過。ストック収益カバレッジ率は55%に達し、収益の安定化と質的向上が進展している。

さらに注目すべきは、野村が持つ法人ネットワークを活用したEmerging Wealth Customers(将来富裕層)獲得戦略である。従業員持株会事業で55%という圧倒的シェアを誇り、上場企業の約40%で主幹事を務める構造的優位が、他社にはない成長の土台を形成している。これらの改革を支えるのが、DXを基盤とした効率化とリスク管理・ガバナンスの高度化である。野村ホールディングスは、2030年に向けて「富裕層市場とデジタル市場を橋渡しする金融モデル」を確立し、持続的な企業価値創造へと踏み出している。

野村ホールディングスが描く「中期経営計画2023–2025」の成果と早期達成の背景

野村ホールディングス(NHI)は、2023年に発表した中期経営計画(2023–2025)において掲げた主要目標を、予定より早く達成する見通しを示している。特にウェルス・マネジメント(WM)部門の成長が際立ち、税前純利益およびストック資産残高がいずれも計画を上回る進捗を記録している。これは単なる市場好調の恩恵ではなく、経営陣による迅速な意思決定と組織再編、そして人材配置の精緻化によってもたらされた成果である。

同社は、収益性と安定性を両立させる「ストック型ビジネス」への転換を推進してきた。結果として2024年3月期時点でストック資産残高は23兆円に到達し、目標の22.3兆円を超過。ストック収益カバレッジ率は55%に達し、従来のフロー型収益中心からの脱却を鮮明にした。これにより、景気変動や金利変動に左右されにくい強固な収益基盤を確立しつつある。

さらに、経営資源の重点配分が成功の鍵となった。対面コンサルティングを担うパートナーの増員と、担当顧客数の最適化により、1人あたりの生産性を大幅に向上。組織全体の営業効率が高まったことで、税前純利益は中期目標を前倒しで達成した。コスト構造改革も進み、200億円の削減目標を1年前倒しで特定。「成長と効率の両立」こそが、野村の企業体質を変革した核心である。

この成果の背後には、単なるリストラではなく「質の高いコンサルティング業務への集中」がある。特に富裕層向けパートナーの再配置と、Emerging Wealth Customers(将来富裕層)育成戦略の展開が、収益の分散化を支えた。短期的な利益に依存せず、中長期的に顧客とともに成長する関係性を構築した点が、従来の証券モデルとは一線を画す。

野村の中期経営計画の進捗は、日本の金融機関における構造改革の成功事例として注目されている。数字の達成に留まらず、組織文化・ビジネスモデル・DX(デジタルトランスフォーメーション)の三位一体改革を同時に実現した点にこそ、戦略の本質がある。

表:野村ホールディングス中期経営計画(2023–2025)の主要進捗

指標2025年目標2024年3月期実績達成状況
税前純利益非公表(上方達成)前倒し達成成長ドライバー明確化
ストック資産残高22.3兆円23.0兆円目標超過
ストック収益カバレッジ率約50%55%安定収益化
コスト削減額200億円1年前倒しで特定効率化進展

このように、野村ホールディングスは単なる金融業の枠を超え、「収益の質」を高める構造的改革を完遂しつつある。その先に見据えるのは、2030年のグローバル競争下でも揺るがない「安定収益モデルの完成」である。

ストック型収益モデルへの転換と税前純利益の急伸

従来の証券ビジネスは、取引ごとに手数料を得る「フロー型収益」に依存していた。野村ホールディングスはこの構造から脱却し、顧客資産を継続的に運用するストック型モデルへの転換を推進している。この変革こそが、収益の安定化と税前純利益の急伸を生んだ決定的要因である。

ストック収益は2024年3月期に1,535億円まで拡大し、全体収益に占める割合も急増した。これにより、景気変動時にも安定したキャッシュフローが維持される体制が整った。**「安定収益基盤=持続的企業価値」**という構図を明確に描き、経営の質的転換を遂げている。

この成果を支えたのは、WM部門における2つの改革である。第一に、超富裕層・富裕層向けのパーソナルコンサルティング強化である。資産承継、信託、プライベート・ウェルス・マネジメントといった高付加価値サービスを拡充し、長期契約型のリレーションを深めた。第二に、アクティブ世代・デジタル利用層を対象に、アプリ「NOMURA」を核としたハイブリッド運用モデルを確立した。

アプリのログインアカウント数は前年比3倍に急増し、ダウンロード数は100万件を突破。新NISA制度による投資ブームと相まって、デジタル経由での顧客層拡大が加速した。これにより、「対面+DX」の両輪で収益基盤を拡張する戦略的優位性が確立された。

また、ストック型収益の拡大により、税前純利益は中期目標を前倒しで達成した。市場のボラティリティに左右されず、顧客資産の長期運用から安定的に収益を得るモデルが確立されたことは、企業の財務体質強化を意味する。

箇条書きで整理すると、野村のストック型転換は以下の3要素に集約される。

・収益の安定化:ストック収益カバレッジ率55%を達成
・コスト効率の改善:固定費削減とDX活用による運営最適化
・顧客基盤の拡大:Emerging Wealth層・NISA層の取り込み

この3点は互いに補完関係にあり、同社が持続的成長を実現するための三本柱となっている。

今後の焦点は、富裕層・デジタル層双方の顧客満足度をいかに維持しながら、さらなるストック収益の比率を高めるかに移る。野村ホールディングスの成功は、単なる業績好転ではなく、「金融業の質的進化」を体現する象徴的事例である。

ウェルス・マネジメント部門の再構築:富裕層とデジタル層の二面戦略

野村ホールディングスのウェルス・マネジメント(WM)部門は、富裕層市場の高度化とデジタルネイティブ層の拡大という二つの異なる潮流を的確に読み取り、それぞれに最適化されたサービスモデルを確立している。従来の「対面中心の証券業務」から脱却し、対面とデジタルを融合させたハイブリッド戦略が同社の持続的成長を支える最大の要因となっている。

特に、超富裕層・富裕層を中心とした資産管理モデルでは、パートナー制を核とする高度なコンサルティング体制が成果を上げている。資産承継、信託、法人オーナー資産の最適化といった複雑な課題に対応するため、経験豊富な専任パートナーを戦略的に配置し、顧客1人ひとりにカスタマイズされた総合的資産戦略を提供している。これにより、顧客ロイヤルティが高まり、長期的なストック収益の増加に寄与した。

一方で、デジタル世代の台頭に対応するため、アプリ「NOMURA」を中心としたデジタルプラットフォームを強化。多忙な現役世代や新NISA利用層に向け、スマートフォン上で完結する資産運用・相談体制を整備した。2024年3月期にはアプリのログイン数が前年比3倍、ダウンロード数が100万件を突破するなど、利用者拡大が顕著である。これにより、デジタルチャネルを通じた顧客接点が飛躍的に増加し、取引コストの効率化と顧客満足度の両立を実現した。

この二面戦略の鍵は、「顧客セグメント別最適化」にある。野村は顧客を「富裕層」「アクティブ世代」「Emerging Wealth(将来富裕層)」に分類し、それぞれに異なるデリバリーモデルを導入している。

顧客層主な特徴提供モデル戦略的効果
富裕層・超富裕層対面重視・相続・信託ニーズパートナー制・高度なコンサルティング長期的ストック収益の増加
アクティブ世代デジタル志向・効率性重視ハイブリッド型(アプリ+対面)コスト最適化・利便性向上
Emerging Wealth層将来の富裕層候補職場サービス連携顧客基盤の拡大と囲い込み

このように、**「富裕層には深く、デジタル層には広く」**という戦略が、同社の収益モデルを支える構造的優位を形成している。人的リソースを富裕層に集中しながらも、DX(デジタルトランスフォーメーション)によりスケーラブルな顧客獲得を実現することで、野村は効率性と成長性の両立を果たしている。今後はこの二層構造をいかに深化させ、全社的な顧客LTVを最大化できるかが焦点となる。

Emerging Wealth Customers戦略と法人ネットワークの構造的優位

野村ホールディングスの成長を支えるもう一つの柱が、「Emerging Wealth Customers(将来富裕層)」の獲得戦略である。これは単なる新規顧客獲得策ではなく、法人ネットワークを軸にした中長期的な顧客育成モデルとして位置づけられている。

NHIは、企業との強固な関係性を背景に、従業員持株会事業で国内シェア55%という圧倒的な地位を確立。さらに、上場企業の約40%で主幹事を務めるなど、他社には模倣できない法人ネットワークを構築している。このネットワークを通じて、職場を起点に資産形成層との接点を持ち、将来的な富裕層候補を囲い込む独自のルートを形成している。

実際、富裕層顧客口座約60万件のうち、約10%が職場経由で開設されている。これは、従業員持株会を通じた資産形成支援が、将来のウェルス顧客への育成につながっていることを示す具体的な成果である。職場を通じたチャネルは信頼性が高く、広告やオンラインキャンペーンよりも**獲得コストが低く、定着率が高い「低摩擦チャネル」**として機能している。

また、この法人連携モデルは、インベストメント・バンキング部門とのシナジーを生む点でも特筆に値する。企業のIPO主幹事を務める過程で築かれる経営層・従業員との関係性が、WM部門の顧客基盤拡大へと直結する構造を作り出している。つまり、**法人・個人の両輪が連動する「二層型のエコシステム」**を形成しているのである。

箇条書きで整理すると、この戦略の特徴は以下の3点に集約される。

・法人ネットワークを活用した低コストな顧客獲得モデル
・職場経由での高信頼・高定着率チャネルの確立
・部門横断型シナジーによる持続的な顧客育成サイクルの形成

優位性要素定量データ戦略的意義
従業員持株会シェア55%国内最大の職場チャネルを確立
主幹事企業比率約40%法人・経営層ネットワークの基盤
職場経由口座比率約10%信頼性・継続率の高い富裕層育成ルート

この「職場経由×法人連携モデル」は、リテールチャネル中心の他社証券が容易に模倣できない、野村特有の競争優位の源泉である。個人資産の形成プロセスに法人が関与する構造をいち早く実装した点こそ、野村の長期的成長ドライバーとなっている。2030年に向け、Emerging Wealth層を中核とするストック資産の拡大が、同社の企業価値をさらに押し上げると見込まれる。

DXによる収益効率化と顧客エンゲージメントの拡大

野村ホールディングスは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を単なる業務効率化の手段としてではなく、新たな成長エンジンとして戦略的に位置づけている。その中核にあるのが、アプリ「NOMURA」を中心とするデジタルプラットフォームの構築である。2024年3月期にはログインアカウント数が前年比3倍に増加し、ダウンロード数は100万件を突破。これは単なる数字の拡大ではなく、顧客接点のデジタル化によるリレーション強化の成功例である。

アプリ「NOMURA」は、従来の「取引の場」から「資産運用のパートナー」へと進化している。AIを活用したポートフォリオ分析や、資産残高に応じたカスタマイズ提案機能により、ユーザーは自らの資産状況を可視化しながら最適な投資判断を下すことが可能になった。特に新NISA導入後は、デジタル上での取引件数が急増し、アクティブ世代の顧客獲得が急速に進展している。

このDX戦略の本質は、デジタルを単なるチャネル拡張としてではなく、人的リソース配分の最適化ツールとして活用している点にある。AIチャットボットや自動提案機能が一次的な問い合わせ対応を担うことで、パートナー(営業担当者)は富裕層や複雑案件への対応に集中できる。つまり、デジタルと人間の「分業」が明確化され、コスト効率と顧客満足度の両立が実現している。

箇条書きで整理すると、DXによる効果は以下の3点に集約される。

・顧客接点の拡大:デジタル経由での新規顧客獲得が急増
・業務効率化:AI・自動応答導入により営業工数を削減
・収益性向上:人的リソースを高付加価値領域へ再配分

指標2023年度2024年度増減率
アプリダウンロード数約33万件100万件超約3倍
デジタル取引比率約35%約55%+20pt
顧客満足度(NOMURA利用者)70%台後半85%以上改善傾向

また、アプリ経由での行動データ分析により、潜在ニーズを把握した個別提案が可能となり、クロスセル・アップセル率が向上している。これは、ストック型収益の更なる安定化につながる重要な成果である。

デジタルは効率化のための技術ではなく、顧客体験を中心に据えた「サービスデザインの再構築」である。NHIのDX戦略は、金融業における次世代モデルを体現しており、今後の収益成長とブランド価値の両立を支える基盤となる。

リスク管理・ガバナンス体制の強化とESG経営の実践

野村ホールディングスの強さは、単に収益の拡大にとどまらず、ガバナンスとリスク管理を経営の中枢に据えている点にある。金融機関においてリスクコントロールは事業存続の前提であり、NHIは独立性と透明性を両立した体制を構築している。

同社は指名委員会等設置会社として、指名・報酬・監査の各委員会を独立させ、経営監督機能を強化している。特にリスク委員会は、社外取締役が議長を務めることで、経営執行部から独立した立場からの監視体制を確立。リスクアペタイト・ステートメント(RAS)の運用を通じて、取るべきリスクと避けるべきリスクを明確化している。このような統治構造は、金融庁や機関投資家からも高く評価されている。

さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みも深化している。サステナビリティ委員会を設置し、グループCEOが議長を務めるトップダウン体制のもとで戦略を推進。環境・社会リスクのモニタリングに加え、脱炭素関連投融資の拡大や社会的インパクト投資の推進を重点テーマとしている。これにより、金融サービスを通じた社会的価値創出が経営戦略の一部として統合された。

項目体制・実績評価
リスク委員会社外取締役が議長経営独立性を確保
コーポレート・ガバナンス指針2025年改定実効性向上
サステナビリティ委員会CEO直轄トップ主導のESG推進

箇条書きで整理すると、ガバナンス強化の特徴は次の通りである。

・社外取締役主導の監督体制によるリスクの透明化
・CEO直轄のESG推進による企業価値と社会価値の両立
・取締役会評価制度の導入によるガバナンス実効性の確保

このように、野村ホールディングスは「攻めの成長戦略」を推進しつつ、「守りのガバナンス」でも業界をリードしている。リスク管理とESG推進を両輪とした経営モデルは、短期的な収益最大化ではなく、持続的な企業価値創造に向けた先進的アプローチである。2030年を見据えたグローバル金融市場の変化において、同社の統治モデルは他社の模範となるだろう。

2030年に向けた中長期的展望:日本金融業界をリードする構造改革モデル

野村ホールディングス(NHI)は、中期経営計画(2023–2025)の早期達成をもって構造改革の成果を市場に示したが、真価が問われるのはこれからである。同社が目指すのは、2030年における「持続的成長」と「質的優位性」の両立であり、その戦略軸は「富裕層市場の深化」「デジタル革新の加速」「ガバナンス強化による信頼性の確立」に集約される。

まず注目すべきは、ウェルス・マネジメント(WM)部門を中心としたストック型収益モデルの高度化である。ストック収益カバレッジ率は既に55%に到達し、収益変動リスクが大幅に低下している。2030年に向けては、富裕層・Emerging Wealth層の双方における資産残高の拡大を通じて、この比率をさらに高めることが目標とされている。これは単なる安定収益化ではなく、「資産運用プラットフォーム企業」への進化を意味する。

同社の成長シナリオにおいては、法人ネットワークを活用した顧客基盤拡大が中核を担う。上場企業の約40%で主幹事を務め、従業員持株会事業で55%のシェアを誇るこの構造的優位は、他社が容易に追随できない強みである。今後はこの基盤を活かし、職場を起点とした資産形成支援を拡張し、「個人×法人×DX」を結ぶ三層統合モデルの深化を図る。

箇条書きで整理すると、NHIの2030年戦略の主軸は以下の通りである。

・ストック収益比率のさらなる引き上げと安定化
・法人ネットワークを活用したEmerging Wealth層の拡大
・デジタル・プラットフォームのスケール化とAI導入強化
・グローバル金融市場への再参入とリスク分散
・ESG経営を軸とした持続的企業価値の最大化

成長ドライバー2030年の到達目標戦略的意義
ストック収益カバレッジ率60〜65%安定的な収益構造の確立
Emerging Wealth顧客口座数2025年比1.5倍富裕層育成による市場拡大
デジタル顧客接点200万アカウント超顧客接触コストの最適化
ESG関連運用資産2025年比2倍サステナブル金融の中核企業化

さらに、グローバル視点からの展開も見逃せない。NHIは国内市場の成熟化を見据え、アジア新興国や欧米富裕層市場への進出を強化している。特にASEAN地域では資産運用需要が急拡大しており、日本型ウェルス・マネジメントモデルを輸出する新たな成長戦略が進行中である。

また、サステナビリティ経営を基軸とした投資戦略も2030年ビジョンの重要な柱である。NHIは「脱炭素ポートフォリオ」の拡大と、社会的インパクトを伴う投融資の拡充を掲げており、金融を通じて社会課題の解決を支援する“ソーシャル・バンキング”への進化を志向している。

最終的に、野村ホールディングスが描く2030年の姿は、「収益力」「信頼性」「社会的価値」の三位一体モデルである。短期的な利益に依存せず、長期的な資産形成と社会的責任を両立する経営モデルは、日本の金融業界における構造的変革の先駆けとなるだろう。野村が築くこの統合モデルこそ、次世代の金融産業の標準となる可能性を秘めている。

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