日本企業のコーポレートガバナンスは、いま大きな転換点を迎えています。社外取締役の人数や委員会設置といった「形式」を整える段階はすでに終わり、2026年現在、問われているのはそれらが企業価値向上にどれだけ結びついているかという「実質」です。

大量保有報告制度の改正による協働エンゲージメントの進展、SSBJ基準への対応準備、機関投資家の議決権行使基準の厳格化など、企業経営を取り巻く環境はこれまでになく複雑かつ緊張感を帯びています。PBRやROIC、人的資本といった指標は、もはや抽象的なスローガンではなく、経営者の説明責任を直接問う武器となりました。

本記事では、2026年時点の最新制度・統計・具体事例をもとに、日本企業ガバナンス改革がどこまで進み、これから何が求められるのかを整理します。経営層、IR・ガバナンス担当者、投資家のいずれにとっても、今後の意思決定に不可欠な視点を得られる内容です。

2026年、日本のコーポレートガバナンスは第3フェーズへ

2026年1月現在、日本のコーポレートガバナンスは明確に「第3フェーズ」へ移行しています。2015年のコーポレートガバナンス・コード導入以降、企業はまず形式整備に注力し、続く10年間で取締役会改革や開示姿勢といった意識面の改善を進めてきました。その結果、ガバナンスは「やっているかどうか」ではなく、「何を生み出しているか」が問われる段階に入っています。

この第3フェーズの本質は、**ガバナンスを企業価値向上のための経営インフラとして機能させること**にあります。金融庁や東京証券取引所が繰り返し強調してきたのは、コード遵守そのものではなく、ROICやROEといった資本効率、サステナビリティ、人的資本の最大化といった成果への接続です。形式的な体制が整った今、投資家はそのアウトカムを冷静に見極め始めています。

第3フェーズを理解するため、過去との違いを整理すると、変化の輪郭がより明確になります。

フェーズ 主な焦点 企業に求められる姿勢
第1フェーズ 制度・形式整備 コード遵守、体制構築
第2フェーズ 意識改革 社外取締役の活用、対話姿勢
第3フェーズ 実質的価値創出 成果の説明責任と実行力

現在の市場環境では、ガバナンスはもはや「守り」の仕組みではありません。野村資本市場研究所の調査が示すように、政策保有株比率は30%を割り込み、安定株主に守られた経営は過去のものになりました。企業は、資本市場から常に評価され、説明を求められる存在になっています。

また、アモーヴァ・アセットマネジメントなど主要運用会社の分析によれば、**2026年以降の株価評価は、ガバナンスの質と資本配分の合理性によって大きく二極化する**とされています。整った制度を使いこなし、成長投資や人的資本強化につなげられる企業は評価される一方、形式対応にとどまる企業は静かに選別されていきます。

第3フェーズのガバナンスとは、経営陣にとって「逃げ場のない問い」を突きつける仕組みです。なぜこの戦略なのか、なぜこの資本配分なのか、その答えを数字とストーリーで示し続けられるかどうかが、2026年の日本企業の競争力を左右しています。

大量保有報告制度改正が変える投資家と企業の対話

大量保有報告制度改正が変える投資家と企業の対話 のイメージ

2026年5月に施行される大量保有報告制度の改正は、投資家と企業の対話のあり方を「量」ではなく「質」で再定義する転換点になります。従来、この制度はウルフパック戦術の抑止を目的に、複数投資家の連携を広く共同保有とみなしてきましたが、その結果、企業価値向上を目的とした健全な意見交換までが萎縮するという逆説的な問題を抱えていました。

金融庁が2025年に公表した新指針では、「重要提案行為」と「共同保有者」の定義が整理され、通常のエンゲージメントや投資家同士の問題意識の共有は、直ちに報告義務の対象にならないことが明確化されました。**この線引きの明確化こそが、形式的な沈黙から実質的な対話へと市場を押し出す最大の要因**といえます。

観点 改正前 改正後
投資家間の意見交換 共同保有認定リスクが高い 原則として問題なし
重要提案行為 定義が不明確 具体的行為が明示
企業との対話 個別・断片的 連携を前提とした本質議論

アモーヴァ・アセットマネジメントの分析によれば、2026年後半以降、日本市場でも欧米で一般的な協働エンゲージメントが定着すると予測されています。保有比率が1%未満の運用会社であっても、同様の課題認識を持つ投資家と連携することで、資本効率やガバナンス改善について無視できない発言力を持つようになります。

一方で企業側にとって、この改正は単なる「投資家圧力の増大」ではありません。**複数の投資家が同じ論点を共有している場合、それは市場全体の期待値を示すシグナル**であり、経営戦略の妥当性を検証する貴重な材料となります。金融庁関係者も、制度改正の狙いは対立の激化ではなく、情報の非対称性を減らし、建設的な対話を促す点にあると指摘しています。

大量保有報告制度の改正は、投資家に「連携する自由」を、企業に「本質を語る責任」を同時に課す制度設計です。

実務面では、IRや経営企画部門だけでなく、取締役会レベルでの論点整理が不可欠になります。なぜその資本配分なのか、なぜそのガバナンス体制なのかを、複数投資家に対して一貫したロジックで説明できなければ、対話は容易に行き詰まります。**制度改正によって試されるのは、企業の説明能力そのもの**であり、表層的な対応では市場の評価を得られない時代に入ったといえるでしょう。

SSBJ基準確定とサステナビリティ開示の実務インパクト

2025年に最終化されたSSBJ基準の確定は、日本企業のサステナビリティ開示を「努力目標」から「制度対応」へと不可逆的に引き上げました。2026年は義務化前の最終準備期間であり、単なる情報開示の巧拙ではなく、経営管理そのものの変革が求められる局面に入っています。

最大の実務インパクトは、財務情報とサステナビリティ情報の一体化です。SSBJ基準では、GHG排出量などの算定期間を財務報告期間と一致させることが求められました。これにより、従来は環境部門やCSR部門が年次で集計していたデータを、決算スケジュールに耐えうるスピードと正確性で管理する必要が生じています。

大和総研の分析によれば、この変更は投資家がROICや設備投資と気候関連リスクを同時に評価する前提条件を整えるものであり、非財務情報が企業価値評価の補助資料ではなく、評価の中核に組み込まれることを意味します。

項目 従来 SSBJ確定後
報告期間 部門別・任意設定 財務報告と原則一致
GHG排出量 スコープ1・2中心 スコープ3まで開示
位置づけ 参考情報 投資判断の前提

特にスコープ3の開示は、多くの企業にとってサプライチェーン全体を巻き込む経営課題です。合計値の開示が不要とされた点は実務負担を軽減する一方で、どの排出源が事業戦略上重要なのかを説明する力が問われる設計になっています。数値そのものより、経営判断との接続が評価対象になります。

さらに2026年は、第三者保証への対応準備が本格化する年でもあります。金融庁関係者の説明では、まずは限定的保証から始める企業が多数を占める見通しですが、内部統制が不十分な場合、保証取得そのものが困難になるケースも想定されています。これは、サステナビリティ開示がIR資料ではなく、有価証券報告書の一部として扱われる以上、監査耐性を備えたデータ基盤が不可欠であることを示しています。

結果としてSSBJ基準は、開示対応を超えて、事業ポートフォリオ管理、投資判断、KPI設計にまで影響を及ぼします。2026年時点で準備が進んでいる企業ほど、2027年以降の市場対話において、サステナビリティを制約ではなく競争力として語れる立場に立つことになります。

取締役会改革の現在地:数から質へ進む社外取締役

取締役会改革の現在地:数から質へ進む社外取締役 のイメージ

取締役会改革において、2026年時点で最も明確な変化は、社外取締役を「何人置いているか」から「誰が、何を担っているか」へと評価軸が移行した点にあります。東証や金融庁が主導した形式要件の整備はすでに飽和状態に達し、社外取締役は量的拡充のフェーズを完全に終えました。

東証の統計によれば、プライム市場では独立社外取締役を2名以上選任している企業が99%を超え、3分の1以上の要件もほぼ全社が達成しています。一方で注目すべきは、社外取締役が過半数を占める企業が26%まで増加した点です。この急増は、監督型取締役会への本格的な移行を示しています。

しかし市場が見ているのは人数そのものではありません。問われているのは、社外取締役が経営の重要判断にどこまで関与し、異論を唱え、意思決定の質を高めているかという実効性です。

評価軸 従来 2026年の視点
社外取締役数 2名以上か 過半数か、役割分担は明確か
独立性 形式的独立 在任期間・関係性まで含めた実質独立
貢献度 出席率 戦略・後継者・資本配分への関与

この質的評価を加速させているのが、ISSなど議決権行使助言会社の基準変更です。2026年からは社外取締役の在任期間が独立性判断の材料となり、長期在任がマイナスに評価されるケースが増えています。これは、経営陣とのなれ合いを防ぎ、健全な緊張関係を保つ狙いがあります。

さらに、指名・報酬委員会における社外取締役の役割も厳しく見られています。委員会の過半数を社外取締役が占め、委員長も社外であることはもはや前提条件です。その上で、CEO後継者計画の否認や報酬抑制といった「痛みを伴う決定」を実行できるかが、投資家の評価を左右します。

社外取締役は「置いているだけ」では価値を生みません。経営戦略、資本効率、人的資本といった核心テーマに踏み込み、経営陣に説明責任を果たさせる存在であるかどうか。2026年の取締役会改革は、まさにこの一点で企業間の差を浮き彫りにしています。

指名・報酬委員会と経営監督の実効性

指名・報酬委員会は、経営トップの選解任や報酬設計を通じて取締役会の監督機能を実質化する中核的な装置です。2026年時点では、設置の有無を問う段階は完全に終わり、その委員会がどこまで経営陣に対して実効的な緊張関係を保てているかが投資家との対話における最大の論点となっています。

東証およびJPXの2025年統計によれば、指名・報酬委員会において委員の過半数を社外取締役が占める企業は9割を超え、形式面での「お手盛り批判」は統計上ほぼ解消されました。一方で、委員長が社外取締役である比率は約7割にとどまり、残る企業では依然として社内出身者が議論の主導権を握っています。この構造は、平時には問題が表面化しにくいものの、有事の意思決定で監督機能が試される点に注意が必要です。

項目 指名委員会 報酬委員会
委員の過半数が社外取締役 93.7% 93.3%
委員長が社外取締役 71.5% 71.8%

機関投資家が特に注視しているのは、これらの委員会が実際に「痛みを伴う判断」を下せるかどうかです。後継者計画が不十分な場合にサクセッションプランの再設計を求められるか、業績不振が続くCEOの再任に対して異議を唱えられるかといった局面で、委員会の独立性は初めて可視化されます。ISSなどの議決権行使助言会社も、委員長の独立性や在任期間を含めた実質判断へ評価軸を移行させています。

報酬委員会においては、業績連動報酬の設計とKPIの妥当性が経営監督の質を左右します。ROICや中長期EPS成長率、人的資本指標などを報酬に組み込む企業は増えていますが、評価指標が抽象的であったり、目標未達でも報酬が維持される設計では、監督機能が形骸化します。金融庁のコーポレートガバナンス・コード解説でも、報酬と企業価値創造の因果関係を説明できるかが重視されているとされています。

2026年は、指名・報酬委員会が「存在する組織」から「経営に介入できる組織」へ進化できるかの分水嶺です。投資家は議事録の開示姿勢や、社外取締役の発言内容を通じて、その実効性を見極めています。委員会の独立性を制度として担保するだけでなく、実際の意思決定プロセスで経営陣と対峙できているかが、企業価値評価に直結する時代に入っています。

議決権行使基準の厳格化と政策保有株の行方

2026年に入り、機関投資家の議決権行使基準は明確に一段階厳しくなっています。最大の特徴は、従来の定性的な対話や方針確認から、**具体的な数値基準に基づく是非判断へ移行した点**です。国内外の運用会社は、ガバナンスの姿勢を「努力」ではなく「結果」で測るスタンスを鮮明にしており、その象徴が政策保有株式に対する評価軸の変化です。

とりわけ三井住友トラスト・アセットマネジメントが2026年1月から適用した新基準は、市場に大きな緊張感をもたらしました。同社は政策保有株式が純資産比20%以上の場合を「過大」と定義し、是正が見られなければ取締役選任議案への反対を辞さない方針を明示しています。**これは日本の機関投資家が初めて明確なレッドラインを示した事例**として、他の運用会社にも波及しています。

この動きは単独ではなく、ISSなど議決権行使助言会社の方針強化とも連動しています。ISSは社外取締役の在任期間や独立性に加え、資本効率や株主価値毀損につながる構造的問題を重視する姿勢を強めています。複数の助言機関と国内運用会社の判断が同じ方向を向くことで、企業側が受ける圧力は質的にも量的にも増しています。

評価項目 2024年まで 2026年時点
政策保有株 削減方針の有無を重視 純資産比20%など数値基準を重視
議決権行使 対話継続を前提 基準未達なら反対行使

こうした基準厳格化の背景には、政策保有株が企業価値を押し下げてきたという長年の問題意識があります。野村資本市場研究所の調査によれば、日本企業全体の政策保有比率は2025年に初めて30%を下回りました。**それでもなお、特定企業に過度な持ち合いが残存しているケースがあり、投資家はそこを重点的に見ています。**

重要なのは、単に売却を進めれば評価されるわけではない点です。売却によって得た資金をどのように再配分し、資本効率の改善につなげるかまでが問われています。成長投資や人的資本への再投資、自社株買いなど、合理的なキャピタルアロケーションを示せない場合、議決権行使という形で経営責任が追及されます。

アモーヴァ・アセットマネジメントなど複数の市場関係者は、**2026年以降の日本株評価は「政策保有株を減らした後」に何をしたかで決まる**と指摘しています。議決権行使基準の厳格化は、企業にとって単なるリスクではなく、資本政策と経営戦略を再設計する好機でもあります。形式的な説明では通用しない時代に入り、実行力そのものが株主の信任を左右する局面を迎えています。

アクティビズムと同意なき買収が日常化する日本市場

2026年の日本市場では、アクティビズムと同意なき買収が特別な出来事ではなく、日常的な経営リスクとして認識される段階に入っています。背景にあるのは、経済産業省が2023年に策定した企業買収における行動指針が市場慣行として定着し、買収防衛策そのものが強い正当化を求められるようになった点です。形式的な防衛策の導入だけでは、株主価値を阻害する行為と見なされかねず、経営陣は常に説明責任を負う立場に置かれています。

象徴的なのが、セブン&アイ・ホールディングスに対するカナダ企業クシュタールの買収提案です。最終的に提案は撤回されましたが、巨大企業であってもPBRの低迷やコングロマリット構造が続けば、外部からの同意なき提案の対象となることが明確になりました。**買収が成立しなかったとしても、経営改革や事業ポートフォリオ見直しを迫られる点で、アクティビズムの実効性は極めて高い**と評価されています。

観点 従来の日本市場 2026年以降
同意なき買収 例外的・忌避 合理的選択肢として定着
防衛策 事前導入が中心 株主利益との整合性が必須
経営対応 拒否・時間稼ぎ 対案提示と説明責任

また、アクティビストの戦術も高度化しています。京成電鉄とパリサー・キャピタルの事例では、株主提案自体は否決されたものの、その過程で資本配分の歪みが可視化され、結果的に保有株売却や自社株買いが実行されました。これは議決権の勝敗よりも、市場世論と論理の説得力が経営判断を動かす時代に入ったことを示しています。

同意なき買収は経営権争奪ではなく、資本効率と企業価値を問い直す最終手段として機能し始めています。

野村資本市場研究所が指摘するように、政策保有株比率が30%を下回った現在、安定株主という防波堤は事実上消滅しました。機関投資家やアクティビストは、余剰資本の滞留や低ROICを放置する企業に対し、M&Aや経営刷新を含む強い選択肢を提示します。**2026年の日本市場では、アクティビズムと同意なき買収は“起きるかどうか”ではなく、“いつ起きてもおかしくない前提条件”として経営に組み込むべき現実**となっています。

人的資本経営の進化と評価される開示事例

2026年時点で人的資本経営は、「人を大切にしています」という姿勢表明の段階を明確に脱し、企業価値向上にどう結びついているのかを説明できるかが評価の分水嶺になっています。特に投資家や金融庁が注視しているのは、開示情報が経営戦略や財務指標とどの程度連動しているかという点です。

金融庁が公表した「記述情報の開示の好事例集2025」に選定された企業の共通点を見ると、人的資本を単独テーマとして語るのではなく、中期経営計画や価値創造ストーリーの中に位置づけ直している点が際立ちます。中でも株式会社うるるの事例は、人的資本開示の進化を象徴しています。

同社が高く評価された理由の一つは、理想像と現状のギャップを明確に言語化している点です。例えば、将来の事業成長に必要なマネジメント人材が不足しているという課題を率直に示し、その解決策として管理職候補者研修や評価制度の見直しを具体的に開示しています。楽観的な成功談だけでなく、課題を開示する姿勢そのものが透明性として評価されています。

また、指標の示し方にも工夫があります。離職率やエンゲージメントスコアといった人的資本KPIについて、自社数値のみを並べるのではなく、業界平均や上位企業群との比較を併記することで、投資家が相対的な位置づけを判断しやすい構造を作っています。これは国際的な統合報告の潮流とも整合的です。

評価視点 従来型開示 評価される開示
課題認識 強み中心の記載 理想と現状の差分を明示
指標の提示 自社数値のみ 業界平均・他社比較を併記
戦略との関係 人事施策の羅列 経営目標との因果関係を説明

さらに注目すべきは、人的資本開示がガバナンスや資本効率と結び付けられ始めている点です。アシックスのように、ROIC経営を現場レベルまで落とし込み、その実行力を支える人材育成や評価制度を説明する企業は、人的資本を「コスト」ではなく資本配分の一部として語っています。こうした開示は、機関投資家との対話において説得力を持ちます。

金融庁による開示府令改正で、「従業員の状況」が有価証券報告書の中でストックオプションや報酬制度と近接して記載されるようになったことも、評価軸の変化を後押ししています。人材へのインセンティブ設計と、その成果としての人的資本の状態を一体で説明できるかどうかが、今後の標準になります。

人的資本経営の進化とは、新しい指標を増やすことではありません。経営戦略、ガバナンス、財務成果を一本のストーリーで説明できる開示へと踏み込めているかどうかが、2026年の市場における評価を左右しています。

2026年後半から見える日本企業ガバナンスの展望

2026年後半に向けた日本企業ガバナンスの展望は、制度対応の巧拙ではなく、経営の意思決定そのものが市場から常時評価される局面に入る点に集約されます。大量保有報告制度の改正施行を経て、機関投資家同士の協働エンゲージメントが現実のものとなり、企業は単独投資家への説明だけでは不十分な環境に置かれています。

金融庁の新指針や主要運用会社の議決権行使基準を踏まえると、2026年後半以降は「対話の回数」よりも「対話の集約度」が問われます。複数の投資家が同一論点で連動することで、資本効率、事業ポートフォリオ、経営陣の責任に関する要求は一気に可視化され、経営側の説明の一貫性と論理耐久性が試されます。

特に注目されるのが、キャピタル・アロケーションを巡る評価軸の変化です。野村資本市場研究所が指摘する政策保有比率30%割れという歴史的転換を受け、保有株売却後の資金使途が企業価値を左右します。成長投資か、株主還元か、あるいは内部留保かという選択は、もはや経営の裁量ではなく、市場に対する約束として扱われる段階に入りました。

論点 2026年後半の評価視点 企業への影響
資本配分 ROIC改善への具体性 説明不足は株主提案・反対票増加
取締役会 監督の実効性 社外取締役の責任可視化
対話体制 協働エンゲージメント対応力 IRと経営の一体運用が必須

また、ISSや国内運用会社が在任期間や委員会運営の実態に踏み込んだことで、取締役会は「意思決定機関」であると同時に「説明責任機関」として再定義されつつあります。東京証券取引所の統計が示す社外取締役過半数企業の増加は、形式達成ではなく、経営に異議を唱えられる構造を市場が求めている証左です。

2026年後半は、SSBJ基準の義務化を見据えた最終準備段階でもありますが、単なる非財務データ整備では評価されません。財務戦略と結びついたサステナビリティの語り方、すなわち「なぜその投資が将来のキャッシュフローにつながるのか」を説明できる企業だけが、対話を優位に進められます。

アモーヴァ・アセットマネジメントの市場分析が示す通り、今後のガバナンスは防御ではなく攻勢の手段です。2026年後半、日本企業はガバナンスを整えたかどうかではなく、そのガバナンスを使って何を変えたのかという一点で、厳しく選別されていくことになります。

参考文献

Reinforz Insight
ニュースレター登録フォーム

ビジネスパーソン必読。ビジネスからテクノロジーまで最先端の"面白い"情報やインサイトをお届け。詳しくはこちら

プライバシーポリシーに同意のうえ