エシカル調達は、もはや理想論やイメージ戦略の話ではありません。2026年現在、それは企業が市場に存在し続けるための前提条件となり、対応の巧拙が取引継続や競争力を左右する時代に入りました。
EUのCSDDD修正や日本政府のガイドライン深化など、規制は一見すると緩和や延期が進んでいるように見えます。しかし実態は、準備ができていない企業を静かにふるい落とす「選別の時代」です。一方で、日本のエシカル市場は8兆円規模へと拡大し、消費者や取引先からの期待は確実に高まっています。
とはいえ、多くの企業が「重要性は分かっているが、どこから手を付ければよいか分からない」「人手も予算も足りない」という壁に直面しています。さらに、デジタルプロダクトパスポートやブロックチェーンといった新技術の登場は、期待と同時に戸惑いも生んでいます。
本記事では、2026年時点の最新動向を踏まえ、規制・市場・企業実態・テクノロジー・労働人権の変化を立体的に整理します。単なる対応策ではなく、エシカル調達をどのように価値創造へと転換できるのか。そのヒントを得たい方にとって、最後まで読む価値のある内容をお届けします。
エシカル調達が「推奨」から「事業存続条件」へ変わった理由
エシカル調達が「推奨事項」から「事業存続条件」へと変わった最大の理由は、企業が対応しなかった場合に発生する経営リスクが、もはや無視できない水準に達したためです。2026年時点では、倫理的配慮の欠如は評判低下にとどまらず、取引停止、市場アクセス喪失、資金調達難といった直接的な損失に直結します。
象徴的なのが、欧州を中心とした人権・環境デューディリジェンス規制の定着です。EUの企業持続可能性デューディリジェンス指令は修正や延期が行われたものの、PwCの分析が示す通り、これは規制後退ではなく実務で確実に執行するための精緻化です。結果として、対応できる企業とできない企業の差はむしろ拡大しました。
特に重要なのは、エシカル調達が「自社努力」では完結しなくなった点です。大企業の約6割が取引先に人権調査を要請しており、サプライチェーン上流からの要請に応えられない企業は、規模に関係なく取引から排除される現実が生まれています。これはジェトロやPwCの企業調査でも一貫して確認されています。
| 従来の位置づけ | 2026年の位置づけ |
|---|---|
| CSR・自主的取り組み | 取引継続・市場参入の前提条件 |
| 評価は主にブランド面 | 法務・調達・財務に直結 |
さらに、日本国内でも変化は顕著です。経済産業省の「責任あるサプライチェーン」ガイドラインやNAP改定議論により、公共調達や補助金、入札の場面で人権配慮が評価軸として組み込まれつつあります。エシカルでない企業は、成長機会そのものにアクセスできなくなる構造が形成されています。
加えて、投資家の視線も厳しさを増しています。国連責任投資原則に基づくESG投資が主流化する中、人権・調達リスクは財務リスクとして扱われます。ACEの「児童労働白書2025」が指摘するように、問題発覚後の対応コストは、事前対応の数倍に膨らむケースも珍しくありません。
つまりエシカル調達とは、理想論ではなくリスク管理そのものです。対応するか否かは、企業の価値観ではなく、生き残れるかどうかの選択になった。この構造的転換こそが、2026年にエシカル調達が事業存続条件と呼ばれる理由です。
2026年の規制ランドスケープと日本企業への影響

2026年の規制ランドスケープは、エシカル調達を巡る企業行動の前提条件を大きく塗り替えています。最大の特徴は、規制強化一辺倒ではなく、**実効性を重視した現実的な再設計**が進んでいる点です。とりわけEUにおける企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)の修正は、日本企業のサプライチェーン戦略に直接的な影響を与えています。
欧州委員会が公表したオムニバス法案により、CSDDDの適用開始は2028年へと延期されました。一見すると規制後退に映りますが、PwCの分析によれば、これは企業負担を軽減しつつ、遵守状況をより厳格に監督するための調整と位置付けられています。**準備期間が延びた分、形だけの対応では通用しない環境が整った**と見るべきです。
| 項目 | 従来案 | 2026年時点の修正後 |
|---|---|---|
| 適用開始 | 2027年 | 2028年 |
| 対象範囲 | 全バリューチェーン | Tier1中心 |
| モニタリング頻度 | 毎年 | 5年ごと |
この変更は、日本企業に二重の影響を及ぼします。一つは実務負荷の軽減です。Tier2以降を常時監査する義務が緩和されたことで、人的・金銭的リソースを重点領域に集中できます。一方で、**NGOやメディアによる告発など「信頼性の高い情報」があれば即応が求められる**ため、リスク検知体制の構築は不可欠です。
国内に目を向けると、日本政府の動きも企業行動を規定しています。経済産業省の「責任あるサプライチェーンガイドライン」はすでに定着しつつありますが、2026年はNAP(国別行動計画)改定を通じて、環境と人権を統合的に扱う方向性が明確になりました。市民社会プラットフォームの提言を受け、**公共調達における人権配慮の評価**が現実味を帯びています。
これはBtoG取引を行う日本企業にとって極めて重要です。入札条件として人権対応が問われることで、エシカル調達は努力目標から競争条件へと格上げされます。JETROや経産省の資料が示す通り、海外市場だけでなく国内市場でも「対応していないこと自体がリスク」になる段階に入っています。
さらに、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)の厳格運用や、欧州電池規則に基づくデジタルプロダクトパスポートの義務化準備は、日本企業に地政学的視点を要求します。**どこから調達するかが、そのまま企業の人権評価につながる**ためです。
2026年の規制環境は、猶予と同時に選別の時代を意味します。表面的なコンプライアンスではなく、規制の意図を読み解き、先回りして体制を整えた企業だけが、次の施行段階で信頼を獲得できる状況が静かに、しかし確実に進行しています。
CSDDD修正が意味する本当のメッセージ
欧州CSDDDの修正、とりわけオムニバス法案による適用延期や要件緩和は、一見すると規制後退のシグナルに見えます。しかし、**この修正が企業に突きつけている本当のメッセージは「免罪」ではなく「成熟」**です。欧州委員会が示したのは、理想論としての全面監視から、実務として機能するデューディリジェンスへの転換であり、企業の本質的な対応力がより厳しく問われる段階に入ったという意思表示だと読み取れます。
象徴的なのが、リスク評価範囲を原則Tier1に集中させた点です。これは監視対象の縮小ではなく、**限られた経営資源を「最も影響力のある領域」に戦略的に投入せよ**という要求です。PwCが指摘するように、従来の広範囲・網羅型アプローチは、多くの企業で形式主義に陥り、実効性を伴わないケースが目立っていました。修正後のCSDDDは、深度あるリスク評価と改善プロセスを通じて、成果を示せる企業だけを評価する設計へと進化しています。
| 修正ポイント | 表面的な理解 | 実務的なメッセージ |
|---|---|---|
| 適用時期の延期 | 対応を急がなくてよい | 体制構築の最終準備期間 |
| Tier1への集中 | 範囲が狭まった | 重点管理による実効性重視 |
| 契約解除義務の削除 | ペナルティ緩和 | 是正と関与能力の評価 |
特に重要なのが、契約解除義務の削除です。これは企業に優しくなったのではなく、**問題を発見した後に「どう向き合うか」という高度なガバナンス能力を求める方向へシフトした**ことを意味します。国連のビジネスと人権に関する指導原則が強調する是正措置の考え方に沿い、サプライヤーとの対話、改善支援、進捗管理まで含めたプロセス全体が評価対象になります。
さらに、モニタリング頻度が5年ごとに緩和された点も誤解されがちですが、**頻度低下は責任軽減ではなく、1回あたりの質的要求水準の引き上げ**を意味します。短期的なチェックリスト監査ではなく、構造的リスク分析や長期的改善計画の妥当性が問われるため、対応が浅い企業ほど不利になります。
つまりCSDDD修正の核心は、全企業を一律に縛る規制から、**本気で人権・環境に向き合う企業を選別する競争ルール**への転換です。延期や緩和を「様子見の猶予」と捉える企業と、「戦略的に差をつける機会」と捉える企業の間で、2028年以降、埋めがたい評価格差が生まれることはほぼ確実だと言えるでしょう。
日本市場8兆円時代に見るエシカル消費の実像

日本市場が8兆円規模に到達したとされるエシカル消費は、単なる流行語ではなく、消費行動そのものの質的変化を映し出しています。一般社団法人日本フェアトレード・フォーラムの推計によれば、2026年時点で日本のエシカル市場は8兆円を突破しましたが、この数字の本質は「倫理を理由に選ばれている商品」だけを積み上げた結果ではありません。
実際には、価格や品質、利便性といった従来の購買軸と、環境配慮や人権配慮が静かに重なり合った結果として市場が拡大しています。消費者庁の消費生活意識調査では、「エシカル消費」という言葉の認知度は27.4%にとどまっており、**多くの消費者は“エシカルだから買う”のではなく、“選んだ結果としてエシカルだった”**という構図が浮かび上がります。
この点は、企業のマーケティング戦略にとって極めて示唆的です。博報堂の生活者調査によれば、特にZ世代を中心に、環境負荷や社会的背景を直感的に回避する傾向が強まっています。明確な知識や用語理解がなくとも、ブランド姿勢やストーリーへの違和感に敏感であり、無自覚なエシカル消費が日常化しつつあります。
| 指標 | 数値・傾向 |
|---|---|
| 日本のエシカル市場規模 | 8兆円超(2026年推計) |
| エシカル消費の認知度 | 27.4%(消費者庁調査) |
| 若年層の特徴 | 用語理解より直感的選好 |
市場の中身を細かく見ると、食品、日用品、アパレルといった生活密着型カテゴリが中心であり、特別な高価格商品ばかりではありません。オーガニック原料や地産地消、簡易包装といった取り組みが、結果としてエシカル価値を内包しています。**ここで重要なのは、エシカルが“付加価値”ではなく“前提条件”に近づいている点です。**
一方で、企業側と消費者側の間には依然としてズレも存在します。企業は「説明不足」を懸念しがちですが、調査データが示すのは、詳細な開示よりも一貫性への評価です。経済産業省や国際機関が示すガイドラインに沿った取り組みを、過度に主張せず、商品やサービスの体験として自然に落とし込めているかが問われています。
8兆円時代のエシカル消費の実像は、意識の高まりというより、選別の静かな進行です。価格や品質で横並びになった市場において、**人権や環境への配慮が「説明しなくても伝わる差」として機能し始めている**ことこそが、この市場規模が示す最大のメッセージだと言えます。
意識と行動のギャップが生まれる構造的要因
エシカル調達において多くの企業が直面している最大の課題は、重要性を理解しているにもかかわらず実践に至らない、いわゆる意識と行動のギャップです。この乖離は個々の担当者の意欲や倫理観の問題ではなく、**企業活動の構造そのものに組み込まれた要因**によって生じています。
PwC Japanグループが2025年に実施した調査では、人権尊重の必要性を認識している企業は多数派である一方、実効性ある人権デューディリジェンスを実施できている企業は限定的でした。特に注目すべきは、未実施理由として最も多く挙げられたのが「人員・予算の不足」であり、これは中小企業に限らず売上規模の大きい企業層でも同様だった点です。**エシカル対応が依然として付加業務として扱われ、経営の中核業務に組み込まれていないこと**が背景にあります。
| 構造的要因 | 具体的な内容 | 現場への影響 |
|---|---|---|
| 経営アジェンダ化の遅れ | 人権・倫理がKPIや評価制度に未統合 | 現場判断で後回しにされやすい |
| サプライチェーンの複雑性 | Tier2以降の把握が困難 | リスク特定が進まない |
| 専門知の不足 | 具体的手法や優先順位が不明確 | 形式対応に陥る |
さらに、日本企業特有の組織構造もギャップを拡大させています。人権や調達倫理は、サステナビリティ部門やCSR部門が所管するケースが多く、調達部門や事業部門の評価指標と直結していないことが少なくありません。その結果、現場では価格や納期が優先され、**倫理的リスクは「重要だが緊急ではない課題」として扱われがち**です。
フォーバルGDXリサーチ研究所の調査でも、中小企業の8割以上が「重要である」と回答しながら、人権方針を策定している企業は1割台にとどまりました。この差は、意識の低さではなく、**日々の経営判断に落とし込むための具体的な設計図が欠如していること**を示しています。国連のビジネスと人権に関する指導原則でも、トップマネジメントのコミットメントと業務プロセスへの統合が強調されていますが、日本企業ではこの統合が道半ばです。
また、外部からの圧力がなければ動きにくいという受動的構造も見逃せません。ジェトロの分析によれば、在欧日系企業では規制対応を契機に人権対応が進んでいますが、国内市場中心の企業では優先順位が下がりやすい傾向があります。**規制や取引先要請が行動のトリガーになっている限り、自律的な実装は進みにくい**のです。
このように、意識と行動のギャップは、評価制度、組織分断、専門知不足、外圧依存という複数の構造要因が重なって生じています。これを解消するには、倫理を理念として掲げるだけでなく、意思決定と資源配分の仕組みに組み込むことが不可欠であり、その設計こそが2026年以降の企業競争力を左右します。
人権デューディリジェンスの浸透度と企業の現在地
2026年時点での人権デューディリジェンスの浸透度を俯瞰すると、日本企業は「取り組みが始まった段階」から「実効性が問われる段階」へと移行しつつあります。PwC Japanグループが2025年初頭に実施した443社調査によれば、人権尊重に関する何らかの取り組みを行っている企業は約40%に達しました。これは数年前と比べれば明確な前進ですが、**量的な広がりと質的な成熟の間には依然として大きな隔たり**があります。
同調査で浮き彫りになったのは、「やっている」と「できている」の差です。回答企業の47.0%が、最大の課題として取り組みの妥当性や有効性を検証できていない点を挙げています。人権方針の策定やサプライヤーへのアンケート送付といったアウトプットは整っていても、それが実際に人権リスクの低減というアウトカムにつながっているかを測定できていない状況です。国連ビジネスと人権指導原則の解釈を踏まえても、これは形式的対応の典型例といえます。
| 項目 | 割合 | 示唆される課題 |
|---|---|---|
| HRDDを実施している企業 | 約40% | 導入期は脱したが未成熟 |
| HRDD未実施企業 | 56.2% | 体制・意識の遅れ |
| 未実施理由:人員・予算不足 | 43.0% | 経営資源配分の問題 |
一方、未実施企業の多さも無視できません。全体の56.2%がHRDDに着手しておらず、特に卸売・小売業では未実施率が74.7%に達しています。サプライチェーンの末端や消費者接点に近い業種ほど対応が遅れている点は、レピュテーションリスクの観点からも危うさを孕みます。しかも、この遅れは中小企業だけの問題ではなく、売上高1000億〜5000億円規模の企業でも過半数が「人員・予算不足」を理由に挙げており、**人権対応が依然としてコスト扱いされている現実**が透けて見えます。
さらに深刻なのが、サプライチェーンの可視性不足です。CSDDDの適用対象となる取引先かどうかを「把握できていない」と回答した企業が半数を超えました。これは、直接取引先の属性情報すら十分に管理できていないことを意味します。ジェトロが報告する在欧日系企業ではHRDD実施率が4割を超えており、**外部規制や取引先からの圧力が実装を強く後押ししている**ことが分かります。
実際、全体の62.3%の企業が取引先から人権調査を要請されており、大企業では約9割に達しています。人権デューディリジェンスは自発的な善意の取り組みから、取引関係を維持するための前提条件へと変わりました。2026年の企業の現在地は、「やるかどうか」を議論する段階を終え、**いかに実効性を持たせ、経営判断に組み込むかが問われる局面**にあるといえます。
先進企業に学ぶセクター別エシカル調達の実装例
エシカル調達の実装は、業界特性によって課題も解決策も大きく異なります。2026年時点で先進企業に共通するのは、規制対応にとどまらず、自社の競争優位や事業リスク低減に直結する形でエシカル調達を再設計している点です。ここでは主要セクターごとに、実装フェーズに入った具体例を整理します。
アパレル・繊維分野では、ファーストリテイリングの取り組みが象徴的です。同社は縫製工場など従来の製造現場に加え、2025年から物流倉庫を人権デューディリジェンスの対象に含めました。国際労働機関(ILO)が指摘する通り、長時間労働や安全配慮不足は物流領域で顕在化しやすく、調達の最終工程まで視野を広げた点が評価されています。これはブランド毀損リスクを未然に抑える実務的な判断です。
食品セクターでは、一次産品の産地に深く入り込むモデルが定着しつつあります。明治ホールディングスはカカオ調達においてCLMRSを導入し、国際ココア・イニシアティブによれば、対象コミュニティで児童労働が約2割減少しました。単なる監査ではなく、教育支援や農家の所得向上策まで踏み込むことで、サプライチェーンの安定性そのものを高めています。
自動車産業では、電動化と人権配慮を同時に進める難易度が浮き彫りです。トヨタ自動車はLead the Chargeの2025年評価で責任ある鉱物調達のスコアを大きく改善しました。EV用電池に不可欠なコバルトやリチウムについて、製錬所レベルまで可視化を進めたことが背景にあります。重要鉱物の人権リスク管理が、供給途絶リスクへの備えとして機能している点が実装上のポイントです。
電機・テクノロジー分野では、労働者属性に着目した対応が進んでいます。パナソニックは外国人労働者のパスポート保管禁止や母国語での契約書交付を徹底し、外部監査と自主点検を組み合わせた体制を構築しました。ジェトロの分析でも、国内拠点を含めた人権対応の一貫性がグローバル取引の信頼性を左右すると指摘されています。
| セクター | 実装の焦点 | 得られている価値 |
|---|---|---|
| アパレル | 物流を含む全工程の人権管理 | ブランドリスク低減 |
| 食品 | 産地コミュニティへの介入 | 原料調達の安定化 |
| 自動車 | 重要鉱物のトレーサビリティ | 供給途絶リスク回避 |
| 電機 | 外国人労働者の権利保護 | 取引先からの信頼向上 |
これらの事例が示すのは、エシカル調達が一律のチェックリストではなく、セクター固有の弱点を見極めて設計されているという点です。先進企業は、自社の事業構造に即した実装によって、規制対応と価値創造を同時に実現しています。
デジタルプロダクトパスポートとブロックチェーンの実務インパクト
デジタルプロダクトパスポートとブロックチェーンは、エシカル調達を「確認作業」から「業務プロセスそのもの」へと組み替える実務インパクトを持っています。2026年時点で重要なのは、これらが将来技術ではなく、すでに調達・品質・法務・営業の現場に具体的な変化をもたらしている点です。特に欧州電池規則を起点としたDPPの動きは、対応の遅れがそのまま取引停止リスクに直結する段階に入っています。
株式会社サトー、ナカダイホールディングス、RadarLabによる実証実験では、製品単位のIDに紐づけて、製造から回収・解体・再資源化までの履歴を一貫して管理できることが示されました。注目すべきは、**高度な専用システムではなく、CSVなど既存業務で使われているデータ形式を前提に連携できた点**です。これにより、中小のリサイクル事業者や部品サプライヤーも参加可能となり、「一部の先進企業だけが透明化する」構造的限界を超える現実解が提示されました。
この実装は、人権デューディリジェンスの実務にも直接的な影響を与えています。PwC Japanグループの調査が示す通り、多くの企業が課題として挙げるのは、取り組みの有効性を検証できない点です。DPPによって調達先、加工工程、地域情報がデータとして蓄積されることで、**リスク評価が定性的判断から証跡に基づく判断へと移行**し、監査対応や説明責任の質が大きく変わります。
| 観点 | 従来の管理 | DPP導入後 |
|---|---|---|
| トレーサビリティ | 書類・申告ベース | 個品IDによる履歴管理 |
| 人権リスク対応 | 定期監査中心 | 異常検知時の即時確認 |
| 中小企業の参加 | システム負荷が高い | 汎用データで参加可能 |
一方、ブロックチェーンはDPPの信頼性を担保する基盤として機能しています。IBM Food Trustが食品リコール対応時間を数日から数秒に短縮した事例や、日本通運が医薬品輸送の温度データを改ざん不能な形で記録している取り組みは、**「正しい情報を持っている」だけでなく「その情報が信頼できる」ことが競争力になる**ことを示しています。こうした動向は、世界経済フォーラムが提唱するサプライチェーンのレジリエンス強化とも軌を一にしています。
実務的に見れば、最大のインパクトは部門横断です。調達部門だけでなく、品質保証、法務、営業が同じデータを参照することで、規制対応と価値訴求が分断されなくなります。2026年の段階で問われているのは、技術の是非ではなく、**DPPとブロックチェーンを前提に業務設計を再構築できるかどうか**です。その選択が、今後の取引継続性と企業価値を左右します。
外国人労働者・児童労働問題が示す新たな経営リスク
2026年現在、外国人労働者問題と児童労働は、企業にとって単なる人道的課題ではなく、経営リスクとして顕在化する段階に入っています。特に日本企業においては、国内法制度の転換と国際的な人権基準の双方から同時に評価される構造が強まり、対応の巧拙が取引継続や企業価値に直結しつつあります。
象徴的なのが、技能実習制度の廃止と「育成就労」制度への移行です。転籍の自由化により、劣悪な労働環境にある企業から外国人労働者が離脱できるようになりました。これは人権面では前進ですが、企業側から見れば、労務管理の質が人材流出という形で可視化されることを意味します。パナソニックが進めるパスポート取り上げ禁止や母国語契約の徹底は、国連ビジネスと人権指導原則に沿った先行事例として評価されています。
一方、児童労働は主に海外サプライチェーンで発生するため、「自社とは距離がある」と誤認されがちです。しかしACEの「児童労働白書2025」によれば、世界で約1億6000万人の児童が労働に従事しており、特にカカオや鉱物など日本企業が深く関与する原材料でリスクが集中しています。監査で発覚した瞬間にブランド価値が毀損する事例は後を絶ちません。
| リスク領域 | 主な発生地点 | 経営への影響 |
|---|---|---|
| 外国人労働者 | 国内工場・農業・物流 | 人材流出、取引先からの是正要求 |
| 児童労働 | 海外原材料調達 | ブランド毀損、取引停止 |
重要なのは、これらの問題がレピュテーションリスクから財務リスクへ転換している点です。欧州CSDDDでは要件が緩和されたとはいえ、NGOやメディアによる「信頼性の高い情報」が示されれば、Tier2以降であっても企業責任が問われます。実際、明治ホールディングスがカカオ産地で進めるCLMRSは、児童労働を約20%削減したと報告され、是正措置に踏み込む姿勢が国際的に評価されています。
外国人労働者と児童労働問題に共通するのは、問題が発覚してからの対応では遅いという点です。予防的な人権デューディリジェンスと、問題発生時の是正プロセスを経営システムに組み込めるかどうかが、2026年以降の企業の信頼性を左右します。もはや人権配慮はコストではなく、事業継続の前提条件として認識され始めています。
2026年以降に企業が取るべきエシカル調達戦略
2026年以降に企業が取るべきエシカル調達戦略は、規制対応を前提としつつも、その先にある価値創造を明確に見据えた設計が不可欠です。欧州CSDDDの適用延期や要件調整は一見すると負担軽減に映りますが、PwC Japanグループの分析によれば、これは企業間の成熟度を見極めるための選別期間に過ぎません。**今後は「最低限守る企業」と「戦略的に活用する企業」の差が、取引機会そのものを分けていきます。**
第一に重要なのは、エシカル調達をコスト管理ではなく投資判断として位置づけ直すことです。日本フェアトレード・フォーラムが示す8兆円規模のエシカル市場は、単なる理念消費ではなく、実需として成立しています。特にBtoB領域では、調達先選定において人権・環境データの開示が事実上の入場券になりつつあります。経済産業省のガイドライン改訂やNAP第2期で議論されている公共調達要件の強化は、その象徴と言えます。
第二に、サプライチェーン全体を一律に管理しようとしない戦略的な重点化が求められます。CSDDD修正案でリスク評価の軸がTier1に集約されたことは、経営資源配分の指針になります。ただし、ACEの「児童労働白書2025」が警告する通り、Tier2以降の問題は告発や報道を通じて顕在化します。**平時はTier1を深掘りし、有事には即座に下流へ踏み込める監視体制を整える二層構え**が現実解です。
| 戦略観点 | 2026年以前 | 2026年以降 |
|---|---|---|
| 位置づけ | CSR・リスク回避 | 競争優位・取引要件 |
| 管理範囲 | 全体を広く浅く | Tier1を深く+機動的対応 |
| 手法 | 監査・アンケート中心 | データ連携・是正支援 |
第三に、テクノロジーを活用した協調型モデルへの転換です。SATOやナカダイホールディングスによるDPP実証が示したように、CSVレベルのデータ連携でも十分にトレーサビリティは機能します。これは、自社だけで完結させるのではなく、中小サプライヤーを排除しない設計こそが長期的な強靭性につながることを意味します。ウラノス・エコシステムのような産業横断基盤への参加は、非競争領域での協働を可能にします。
最後に、人権課題を是正まで含めて担う姿勢が、ブランド価値と直結する時代になります。明治ホールディングスがカカオ産地で実践するCLMRSのように、問題発見後も関与し続ける企業は国際機関やNGOからの信頼を獲得しています。**2026年以降のエシカル調達は、守りの仕組みではなく、企業の姿勢そのものを可視化する経営戦略**として設計されるべきです。
参考文献
- PwC Japan:CSDDDに関する日本企業の課題意識調査
- 日本フェアトレード・フォーラム:日本のエシカル市場規模が8兆円超
- 消費者庁(J-Net21):エシカル消費の認知度は27.4%
- JETRO:在欧日系企業の人権デューディリジェンス実施動向
- PR TIMES(株式会社サトー):デジタル製品パスポート(DPP)実証実験の結果を公表
- 認定NPO法人ACE:児童労働白書2025 ―ビジネスと児童労働―
