顧客データ活用やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)に関心を持つ方にとって、2026年はこれまでの常識が大きく塗り替えられる転換点です。

サードパーティCookieの完全な終焉、厳格化するプライバシー規制、そして人手不足という日本特有の経営課題が重なり、従来型のデータ統合やマーケティングオートメーションは限界を迎えています。その一方で、自律的に判断し行動するAIエージェントや、データをコピーしないコンポーザブルアーキテクチャといった新しい技術が、企業の競争力を左右する中核になりつつあります。

本記事では、SalesforceやBrazeをはじめとする主要ベンダーの動向、市場規模や投資トレンド、国内外の先進事例を通じて、2026年時点での顧客データ活用とCDP市場の全体像を整理します。読み終えたときには、なぜ今CDPが「マーケティングツール」ではなく「経営インフラ」なのか、そして自社はどこから手を付けるべきなのかが、具体的に見えてくるはずです。

2026年、顧客データ活用が迎えた決定的な転換点

2026年は、顧客データ活用の歴史において明確な分岐点として記憶される年です。企業が長年取り組んできたCDP導入やデータ統合は、この年を境に目的そのものが変わりました。単にデータを集め、可視化し、分析する段階を終え、AIが自律的に判断し、行動するための基盤を整えるフェーズへと移行したのです。

この変化を決定づけたのが、自律型AIエージェントの実装と、コンポーザブルアーキテクチャの普及でした。SalesforceやBrazeが提供を開始したエージェント型AIは、人間の指示を待つ存在ではありません。顧客の行動、履歴、文脈をリアルタイムで解釈し、最適なアクションを自ら選択します。CDPはそのための「知能の土台」として再定義されました。

背景には、日本特有の構造課題も存在します。労働人口の減少により、マーケティングやCRM業務を人手で回し続けることが限界を迎えました。さらに、改正個人情報保護法や電気通信事業法の完全定着により、データ活用は「集められるデータ」ではなく、正当な同意のもとで活用できるデータに限定されるようになっています。量ではなく質が、競争力を左右する時代です。

観点 2024年以前 2026年
CDPの役割 顧客データの統合・蓄積 AIが判断するための知能基盤
AIの位置づけ 分析・生成の補助 意思決定と実行の主体
価値の源泉 データ量と網羅性 リアルタイム性と信頼性

IDC Japanが示すように、データプラットフォーム市場は2025年時点で7,000億円規模に達し、投資は減速していません。ただし資金の向かう先は、ストレージやETLではなく、AIが即座に使える状態のデータをいかに保つかという領域へと明確にシフトしています。Snowflakeを中心としたゼロコピー型の設計が支持されているのも、その文脈にあります。

つまり2026年は、「顧客データをどう持つか」ではなく、「顧客データの上で何を自動化できるか」が問われ始めた年です。この問いに答えられた企業だけが、AI時代の競争に参加する資格を得たと言えます。

クッキーレス時代の完全到来と日本のプライバシー規制の現実

クッキーレス時代の完全到来と日本のプライバシー規制の現実 のイメージ

2026年に入り、クッキーレス時代は「対応を検討する段階」を完全に過ぎ、事業継続の前提条件として定着しています。特に日本では、改正個人情報保護法と改正電気通信事業法が現場運用に深く浸透し、かつて主流だったサードパーティクッキー依存型のマーケティングは、技術的にも法的にも成立しなくなっています。

重要なのは、規制が単なる法務リスクではなく、マーケティング設計そのものを変える構造要因になった点です。個人関連情報の第三者提供において、提供先での事前同意取得が義務化された結果、外部DMPからCookieデータを購入して活用するモデルは事実上終焉しました。企業は自社で同意を得たファーストパーティデータ、さらには顧客が自発的に提供するゼロパーティデータへと軸足を移しています。

加えて、2023年施行の電気通信事業法の外部送信規律は、2026年には「守られていて当然」の市場標準となりました。どのデータを、どの事業者に、何の目的で送信するのかをユーザーに明示し、同意や拒否の選択肢を提供しなければなりません。この変化により、CMPの実装は任意対応ではなく、CDPや分析基盤を運用するための必須インフラとなっています。

項目 2026年時点の状況 マーケティングへの影響
個人情報保護法 第三者提供時の同意要件が定着 外部データ購入モデルの縮小
電気通信事業法 外部送信の通知・同意が義務 CMP前提のデータ設計が必須
ブラウザ規制 Cookie制限が技術的に完了 IDベース理解への転換

法規制以上に現場へ直接的な影響を与えているのが、ブラウザベンダーによる技術的制約です。Google ChromeはPrivacy Sandboxへ移行し、SafariはITPによりファーストパーティクッキーでさえ短期間で失効します。総務省や業界団体の整理によれば、日本のWebトラフィックの大半が従来型トラッキングを無効化する環境下にあります。

その結果、企業は「誰が来訪したかを推測する」手法から、「誰であるかが確定している顧客を深く理解する」方向へと戦略転換を迫られました。ログイン基盤の強化、会員制度の再設計、購買や問い合わせといった確定的IDに紐づくデータの価値が再評価されています。

クッキーレス時代の本質は、データ量の競争から信頼の競争への移行です。規制を守るためにデータ活用を抑制するのではなく、透明性と同意を前提に、より質の高い顧客理解を実現できる企業だけが、2026年以降も持続的な成長を描ける現実が、日本市場ではすでに始まっています。

データクリーンルームが変える安全なデータ連携の形

データクリーンルームは、2026年のデータ活用において「安全性」と「実効性」を同時に成立させる中核技術として位置付けられています。Cookieレス環境と厳格なプライバシー規制が完全に定着した今、企業間でデータを連携する際に最大の障壁となるのは、生データを渡した瞬間に発生する法的・倫理的リスクです。データクリーンルームはこの問題を構造的に解消します。

最大の特徴は、**互いのRawデータを一切開示しないまま、限定された分析結果のみを共有できる点**にあります。暗号化やアクセス制御が施された隔離環境内でID照合や集計処理を行い、個人を特定できない形でアウトプットだけを持ち帰る仕組みです。これにより「共有できないから活用できない」という二律背反が解消されました。

総務省や個人情報保護委員会のガイドライン解釈においても、第三者提供リスクを極小化する実装として評価されており、2026年時点では大手企業のデータ連携案件における事実上の前提条件になりつつあります。特に広告・小売・メディア領域での採用が急増しています。

観点 従来型データ連携 データクリーンルーム
生データの扱い 外部に提供・複製 非開示・隔離環境内
プライバシーリスク 高い 極めて低い
法規制対応 個別対応が必要 構造的に対応

象徴的な事例が、LiveRampと博報堂DYグループの独占的パートナーシップです。LiveRampのRampIDを用いることで、テレビ視聴データと広告主の購買データをDCR内で突合し、「CM接触が購買に与えた影響」を個人情報を露出させずに分析可能になりました。これは従来、理論上は語られても実務では困難だった分析です。

重要なのは、データクリーンルームが単なるセキュリティ技術ではなく、**信頼を前提としたデータ流通の新しい契約形態**を生み出している点です。データを渡すのではなく、分析環境を共有するという発想の転換が、競合企業間や異業種間での協業を現実のものにしました。

2026年以降、AIエージェントが意思決定を自律的に行う時代において、データの出所と扱いの透明性は不可欠です。データクリーンルームは、AIが参照するデータが「どこから来て、何をしてよいのか」を明確に定義できる数少ない実装手段であり、安全なデータ連携の基盤として今後さらに重要性を高めていきます。

拡大するCDP・デジタルマーケティング市場の最新統計

拡大するCDP・デジタルマーケティング市場の最新統計 のイメージ

2026年に向けて、CDPを中核とするデジタルマーケティング市場は、量的拡大だけでなく投資の質が大きく変化しています。矢野経済研究所の調査によれば、2025年の国内デジタルマーケティング市場規模は約4,190億円に達し、前年比114.1%という堅調な成長を記録しました。広告費の増減に左右されやすかった過去と異なり、現在は顧客データ基盤を企業の中長期競争力として捉える投資が市場を下支えしています。

特に注目すべきは、CDP単体ではなく、MAやCRM、分析基盤を含めた「統合型マーケティング基盤」への刷新需要です。調査関係者によれば、2025年以降の案件では部門単独の導入は減少し、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、経営企画を横断した全社投資として予算化されるケースが増えています。これにより、CDPは施策実行ツールではなく、意思決定の共通インフラとして位置づけられています。

市場区分 2025年規模 特徴
デジタルマーケティング市場 約4,190億円 統合型基盤への刷新投資が成長を牽引
データプラットフォーム市場 7,371億円 DWH・CDPを含む基盤投資が拡大

IDC Japanの予測では、CDPを含む国内データプラットフォーム市場は2025年に7,371億円規模へ拡大しています。ここにはクラウドDWHやデータレイクハウスが含まれており、CDP市場の成長が分析・AI基盤への投資拡大と強く連動していることが読み取れます。生成AIや自律型AIを実装する前提として、高品質で統合された顧客データが不可欠であるという認識が、経営層レベルで定着した結果です。

さらに周辺インフラにも波及効果が及んでいます。IDCによると、CXを支えるデータセンターのコロケーション市場は2024年から2029年にかけて年平均12.9%成長が見込まれています。リアルタイムデータ処理やAI推論の需要増加が、物理インフラ投資をも押し上げているのです。

これらの統計が示すのは、CDP市場が単独で拡大しているのではなく、デジタルマーケティング、データ基盤、AI活用が一体となったエコシステムとして成長段階に入ったという事実です。市場規模の数字は、その構造変化を裏付ける客観的な証拠として、2026年の戦略立案において極めて重要な示唆を与えています。

Agentic AIとは何か:人が設計しないマーケティングの始まり

Agentic AIとは、人が細かな指示やシナリオを設計しなくても、AI自身が目的から逆算して考え、行動し、学習する自律型の知能を指します。2026年のマーケティングにおいてこの概念が注目される理由は、単なる業務効率化ではなく、意思決定の主体が人からAIへと移り始めた点にあります。

従来の生成AIは、マーケターが「何をしたいか」を逐一指示する必要がありました。たとえば配信条件、チャネル、タイミング、クリエイティブの選択は人が設計する前提でした。しかしAgentic AIは、KPIや制約条件だけを与えれば、AIが自ら計画を立て、実行し、結果を評価して次の行動を修正します。スタンフォード大学のHuman-Centered AI研究所が指摘するように、これはAIが“ツール”から“意思決定主体”へ進化したことを意味します。

観点 従来型AI Agentic AI
役割 人の補助 目標達成の代理人
意思決定 人が主導 AIが自律的に実行
学習 静的・限定的 継続的・自己改善

マーケティング領域で重要なのは、Agentic AIが「誰に・いつ・何を届けるか」を人の直感ではなく、リアルタイムデータと強化学習に基づいて判断する点です。SalesforceやBrazeの取り組みが示す通り、AIは顧客の文脈を理解し、解約リスクや購買意欲の変化を検知すると、人を介さず施策を実行します。これにより、人的リソースが限られる日本企業でも、高度なパーソナライゼーションが可能になりました。

さらに重要なのは、「人が設計しない」という点が、責任放棄を意味しないことです。人の役割は、KPI設定、倫理・ガバナンス、許容範囲の定義へと移行します。MITのデジタル経済研究では、自律型AIの成果は技術力よりも、目標設計と監督ルールの質に左右されると報告されています。Agentic AIは魔法ではなく、人の設計思想を抽象度の高いレベルで反映する存在なのです。

2026年は、マーケターが「施策を作る人」から「AIに判断基準を与える人」へと変わる転換点です。Agentic AIの本質は、自動化そのものではなく、マーケティングの思考構造を根本から変える点にあります。

Salesforce・Brazeに見る自律型AIエージェントの実装事例

SalesforceとBrazeは、2026年時点における自律型AIエージェント実装の最前線を走る代表的な存在です。両社に共通するのは、AIを単なる分析支援や自動化ツールとしてではなく、意思決定と実行を担う主体としてプロダクト設計の中核に据えている点です。

Salesforceが提供するAgentforceは、CRMに蓄積された顧客データをリアルタイムで解釈し、状況に応じたアクションを自律的に選択します。例えば、購買履歴や問い合わせ履歴、Web行動を横断的に参照し、解約リスクが高まっている顧客を検知した場合、クーポン発行やサポート担当者によるフォローアップを自動で実行します。Salesforceの公式発表によれば、Data Cloudとの統合によりデータの出所や変換過程が可視化され、AIの判断根拠を説明できる点が企業利用で高く評価されています。

一方、BrazeのDecisioning Studioは、顧客エンゲージメントの最適化に特化した自律型AIエージェントを実装しています。マーケターがLTV最大化や解約率低減といった目標を設定すると、AIがチャネル、メッセージ内容、配信タイミング、オファー条件を顧客単位で動的に組み合わせます。Brazeによれば、この仕組みは強化学習を用いており、A/Bテストのように一度決めた勝ちパターンに固定されることなく、常に学習と最適化を続ける点が特徴です。

項目 Salesforce Braze
中核AI Agentforce Decisioning Studio
主な役割 CRM全体の自律的判断と実行 顧客接点での最適化判断
強み 営業・CSを含む統合性 リアルタイムな実験と学習

さらにBrazeは、2026年初頭にBrazeAI Operatorをフルベータとして公開し、自然言語による指示だけでセグメント作成や分析、キャンペーン構築を代行できる環境を整えました。これにより、現場の担当者は複雑な設定作業から解放され、戦略設計や仮説立案に集中できます。

両社の事例が示す重要な示唆は、自律型AIエージェントは単体では価値を生まないという点です。信頼性の高いデータ基盤と明確な業務ルールがあって初めて、AIは人に代わって判断し、行動できます。SalesforceとBrazeは、その前提条件をプロダクトレベルで実装しているからこそ、2026年の市場で実践的な成果を上げているのです。

コンポーザブルCDPとゼロコピーがもたらすアーキテクチャ革命

コンポーザブルCDPとゼロコピーは、単なる技術トレンドではなく、顧客データ基盤の前提条件そのものを塗り替えるアーキテクチャ革命として2026年に定着しました。従来のCDPは、データを自製品内に集約・複製する「箱型」構造が主流でしたが、データ量の増大とAI活用の高度化により、その限界が顕在化しました。

特に問題となったのが、データ同期に伴う遅延とコストです。マーケティング施策やAI推論において数分、数時間のラグは致命的であり、さらに複数ツールへのコピーはガバナンスリスクも高めていました。これに対する解として登場したのが、DWHを中心に据えるコンポーザブルアーキテクチャです。

SnowflakeやDatabricksのようなクラウドDWHを唯一の真実の保管場所とし、収集・分析・活用の各機能を疎結合で組み合わせます。データを動かすのではなく、処理をデータの場所へ持っていくという発想転換が、ゼロコピーの本質です。

観点 従来型CDP コンポーザブルCDP
データ保管 各ツール内に分散 DWHに一元集約
データ連携 コピー・同期が必要 直接参照(ゼロコピー)
AI活用 準リアルタイム リアルタイム前提

この構成を象徴するのが、Tealium、Snowflake、Brazeの連携モデルです。Tealiumが収集した行動データはSnowpipe Streaming APIを通じて即時にDWHへ書き込まれ、BrazeはSecure Data Sharingによりそのデータを直接参照します。Braze自身のサーバーにデータを複製しない点が重要です。

Snowflakeの公式ドキュメントやIDCの分析によれば、ゼロコピー共有はレイテンシー削減だけでなく、ストレージ重複を排除することでTCOを大幅に抑制するとされています。コスト最適化とスピード向上を同時に実現する点が、経営層の支持を集めた理由です。

さらに重要なのは、AIエージェントとの相性です。Agentic AIは「今この瞬間」の顧客状態を前提に意思決定を行います。データが複製され、数時間古い状態であれば、判断そのものが誤ります。ゼロコピー環境では、AIは常に最新データにアクセスでき、推論の精度と説明可能性が担保されます。

この結果、CDPはもはや単体製品ではなく、企業全体のデータオペレーティングシステムとして再定義されました。2026年における競争優位は、どのCDPを選ぶかではなく、どれだけ洗練されたコンポーザブル設計を描けるかにかかっています。

主要ベンダー別に見る2026年のCDP戦略と差別化

2026年のCDP市場では、主要ベンダー各社が同じ技術トレンドを共有しながらも、戦略の重心を明確に分けることで差別化を図っています。**鍵となるのは、Agentic AIをどのレイヤーで価値化するか、そしてコンポーザブルアーキテクチャを前提に自社の役割をどう定義するか**です。

Salesforceは「統合」を最大の武器にしています。Data Cloudを中核に、営業、カスタマーサポート、マーケティングのデータを横断的に束ね、Agentforceによって業務プロセスそのものを自律化する戦略です。Salesforceの発表によれば、Agentforceは顧客の文脈理解からアクション実行までを一気通貫で担い、人手不足が深刻な日本企業において業務代替効果が高いとされています。**CDPを単なるマーケティング基盤ではなく、全社AIの意思決定基盤として再定義している点**が、他社との大きな違いです。

Brazeは対照的に、データ基盤を外部に委ねたうえで「実行と最適化」に集中しています。SnowflakeなどのDWHをSingle Source of Truthとし、自社ではBrazeAI Decisioning Studioによるリアルタイム意思決定に特化しています。Brazeの公式資料では、強化学習によるメッセージ最適化が継続的にLTV改善へ寄与することが示されています。**CDP的な網羅性よりも、スピードと現場での成果創出を最優先する思想**が、モバイル中心のBtoC企業から支持される理由です。

ベンダー 戦略の主軸 差別化ポイント
Salesforce 全社統合型CDP Agentic AIによる業務自律化
Braze 実行特化型 リアルタイム最適化と高速PDCA
Tealium データ品質重視 同意管理とガバナンス
Micoworks 国内特化型 LINE経済圏への深い最適化

Tealiumは「データの入口」を押さえる戦略で独自性を確立しています。クッキーレスと外部送信規律が完全定着した2026年において、同意状態を正確に管理し、AIに渡す前のデータ品質を保証する役割は極めて重要です。SnowflakeのModern Marketing Data Stackで評価されたように、**TealiumはAI時代のCDPを支えるガバナンス基盤**として位置付けられています。

一方、国内ベンダーのMicoworksは、グローバルCDPが苦手とする日本固有の顧客接点に深く入り込んでいます。LINEを中心としたデータ統合と施策実行を強みに、メール主体の欧米型モデルとは異なる体験設計を実現しています。ProductZineなどの報道によれば、導入企業数の拡大は、**ローカル文化への適応こそが差別化要因になり得る**ことを示しています。

このように2026年のCDP戦略は、単純な機能比較では語れません。**どのベンダーが優れているかではなく、自社がAIに何を任せ、どこを自社の競争力として残すのか**。主要ベンダーの戦略の違いは、その判断材料を企業に突き付けていると言えます。

国内企業の先進ユースケースに学ぶデータ価値創出

国内企業の先進ユースケースを見ると、2026年のデータ価値創出は「効率化」ではなく事業そのものを拡張する力へと進化しています。象徴的なのは、顧客データを自社内に閉じず、組織横断や社会的価値にまで接続している点です。

例えば、カインズのDIYコミュニティ施策は、購買履歴に依存しないデータ活用の完成度の高さで注目されています。ワークショップ参加や作品投稿といった体験行動をゼロパーティデータとして蓄積し、顧客の関心や熱量を定量化しています。

その結果、売上に直結しない行動データが、商品開発や来店促進の判断材料として機能しています。ポイントやランクという日本市場に親和性の高い設計が、持続的なデータ提供を自然に促している点も重要です。

企業 主なデータ 創出された価値
カインズ 体験・コミュニティ行動 商品開発とロイヤルティ向上
トヨタ自動車 走行・位置データ 交通安全・社会インフラ貢献
りそなHD 金融取引データ AIモデルの外販収益

トヨタ自動車の事例では、コネクテッドカーデータが自社の競争力強化にとどまらず、自治体や警察との連携を通じて社会課題の解決に活用されています。急ブレーキ多発地点の分析などは、企業データが公共価値へ転換された好例です。

また、りそなホールディングスは、金融データから培った需要予測AIを他行へ提供するモデルを確立しました。これはデータを売るのではなく、知能として提供する発想であり、日本データサイエンティスト協会などでも先進的取り組みとして評価されています。

これらに共通するのは、CDPやAIを「導入したか」ではなく、どの価値に変換し、どこまで外へ広げたかという視点です。2026年の国内先進企業は、データを利益と信頼の両立装置として使いこなしています。

人材不足・コスト高騰など2026年に直面する課題とリスク

2026年の顧客データ活用を巡る最大の経営リスクは、技術そのものではなく、それを扱う人材とコスト構造に集約されつつあります。帝国データバンクの分析によれば、人手不足倒産は2026年にピークを迎える可能性が指摘されており、この構造問題はデータ・AI領域にも直撃しています。高度化するCDPや自律型AIを使いこなせる人材が、需要に対して決定的に不足しているのが現実です。

特に深刻なのが、データアーキテクトやAIオペレーターといった横断的スキルを持つ人材の枯渇です。SalesforceやBrazeのような先進的なエージェント機能を導入しても、初期設計や継続的なチューニングを担う人が不在では、ツールは形骸化します。実際に、業界関係者の間では「数千万円規模のCDPが、実態としてはメール配信基盤に留まっている」という声も珍しくありません。

さらに、自律型AIの普及はデータガバナンスの難易度を一段と引き上げています。Salesforceが強調するExplainable AIの重要性が示す通り、AIがどのデータを根拠に判断したのかを人間が理解・監督できなければ、誤った施策が高速で実行される危険性があります。人材不足は単なる運用停滞ではなく、企業ブランドを毀損しかねないリスクへと転化します

課題領域 具体的リスク 経営への影響
人材不足 AI・データ設計が属人化 活用停滞、投資の無駄
ガバナンス AIの誤判断を監視できない 不適切施策による信頼低下
コスト構造 クラウド利用料の予測困難 利益率の悪化

もう一つの大きな壁がコスト高騰です。コンポーザブルCDPは柔軟性と拡張性をもたらしましたが、その裏側でコスト構造は複雑化しています。Snowflakeのクレジット消費、CDPやエンゲージメントツールの従量課金、データ転送量に応じた費用などが積み重なり、総額が当初想定を大きく上回るケースが増えています。

IDC Japanが示すデータプラットフォーム市場の急成長は、裏を返せば「使えば使うほどコストが発生する」環境への移行を意味します。特に自律型AIはリアルタイム処理や頻繁な推論を行うため、利用量の増加がそのままコスト増に直結します。ROIをLTV向上や業務削減時間と結び付けて説明できなければ、経営層からの理解を得ることは困難です。

2026年に顕在化するこれらの課題は、単なる現場レベルの問題ではありません。人材とコストを同時に設計し直せる企業だけが、AI時代のデータ活用を持続可能な競争力へと転換できます。逆に言えば、この二点を軽視した投資は、最も高価な負債になり得るのです。

2027年に向けた顧客データ活用とCDPの進化予測

2026年に確立された自律型AIエージェントとコンポーザブルCDPは、2027年に向けて「高度化」と「社会実装」のフェーズへ移行していきます。最大の変化は、**顧客データ活用がマーケティング最適化の枠を超え、企業間・AI間で価値を交換する基盤になる点**です。CDPは単なる社内基盤ではなく、外部と接続される前提のデータバンクへ進化していきます。

IDCやGartnerのデータプラットフォーム関連レポートによれば、今後の競争軸はデータ量ではなく「AIがどこまで自律的に判断・交渉できるか」に移るとされています。2027年に向けては、企業の販売側AIと、消費者や他社の購買側AIが直接条件交渉を行うMachine-to-Machine型の取引が現実味を帯びます。その際、**判断根拠となる顧客データの信頼性と来歴が保証されていること**が取引成立の前提条件になります。

観点 2026年 2027年に向けた進化
CDPの役割 AI判断の基盤 AI間取引の信頼レイヤー
データ活用範囲 自社内最適化 企業・業界横断
競争優位 分析と実行の速さ データの信用力

もう一つの重要な進化が、**プライバシー技術の完全なインフラ化**です。2026年時点でもデータクリーンルームは普及していますが、2027年には特別な仕組みではなく、クラウドDWHやCDPに標準搭載される前提機能になります。LiveRampやSnowflakeが示す方向性からも、企業は「連携のたびに設計する」のではなく、「常時セキュアにつながっている」状態を前提に顧客データ戦略を設計する必要が出てきます。

この流れの中で、日本市場特有の進化も無視できません。LINEやポイント、会員基盤といったゼロパーティデータを軸にしたモデルは、2027年に向けてさらに洗練されます。**グローバルCDPのAI能力と、日本固有の高頻度・高信頼な顧客接点を組み合わせられる企業が、最も質の高い顧客理解を実現します**。カインズや金融機関の事例が示す通り、同意を前提とした深いデータは、AIの判断精度を決定的に左右します。

2027年に競争力を持つ企業は、データを多く集めた企業ではなく、AIが安心して自律行動できる「信用されたデータ環境」を構築した企業です。

2027年を見据えた顧客データ活用では、ツール選定以上に「どのデータを、どの範囲まで、誰と共有できるのか」という設計思想が問われます。CDPはその中心で、AI・規制・ビジネスをつなぐ調停者として、これまで以上に経営レベルの意思決定と直結する存在になっていきます。

参考文献

Reinforz Insight
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